誕生日だなんて、馬鹿馬鹿しかった。
自分の誕生日でさえ嬉かねぇのに、目の前で他人のくせして俺より喜んでいるこいつのことなんて理解できるはずもなく。
まだ出会って間もないこいつは嬉しそうに声を上げる。
ーー「これからは毎年ずっと、必ずオレが祝ってやるからなぁ!」ーー
いつの日か、遠い記憶。
こんな事を何気なく覚えている俺はかなり、重症なのかもしれない・・・
本当に望む、欲しいものは。
目を開ければ視界に広がる一面白い天井。あちこち痛い身体を起こして見れば、驚いたようにルッスーリアが小走りでオレが寝ているベットまで寄ってきた。
「ボス!!良かったわぁ、本当に良かった。目が覚めたのね!」
「・・・ここは」
「ボンゴレの子供達が用意した病院よ。みんな重傷で、ここに入院してるわ」
ベット横のサイドテーブルに置いてある林檎に手を伸ばして器用に皮をむいて小さくカットしていくルッスーリア。
今回は冗談抜きにヒヤヒヤしたわと苦笑しながら、皿に盛り付けられた林檎を渡してくる。
何気なく右手で受け取ろうとし、ふと気づく。
そうだ、俺の右腕は切り落とされたんだった。
そこで俺の脳内にあの時の映像が流れる。
真っ赤に染まる白い腹心の姿。
「・・・おい。カス鮫はどうした」
右腕が無いため左で受け取り、そう問えば変に言うことを躊躇うルッスーリア。
何度か言葉に出そうとしては止め、そろそろイラついてきたところでようやく口を開いた。
「安心して、ボス。スクアーロも何とか生きているわ。ただ・・・」
「なんだ。さっさと言え」
「・・・医者が言うには、もしかしたら一生目を覚まさないかもって」
ぎゅっと膝の上に置いてある手を無意識に強く握る。
一瞬、何を言っているのか分からなくなった。頭の中では分かっている。だけれども心がついて行かない。
重たい何かが胸にのしかかる気がした。
これはそう遠くない日に感じた感情と似ていた。怒りとは違う、腹の底がざわつく感じ。
アイツが、もう目覚めないかもしれないだと?
下を向き、いつもは身なりを気にして口元にさえ気を使っているルッスーリアは傷む事も気にせず強く唇を噛みしめていた。
そんな、ふざけた事があってたまるか。
あのカス鮫の事だ。大げさにしといて意外といつも通り、あのリング戦の時の様に俺の所に入り浸るくせに決まっている。
頭に張り付いて離れない紅は知らないフリをした。
「カスの部屋はどこだ」
「待ってボス!ボスだって重傷なのよ?ちゃんと回復した後でも・・・」
「良いじゃんルッス。俺が一緒に行くよ」
ガラッと病室のドアが開き、ベルがルッスーリアの言葉を遮りながら入ってくる。
ちゃっかりとどこからか拝借して来たのか車椅子も一緒に。
「ベルちゃん!!」
「元々、ボスがスクアーロの所に行く気が無くても連れて行こうって思ってた所だし。どう?ボス」
ベットの横に車椅子をつけて、ニィイっと口元を三日月型に歪ませて笑うベル。俺は何も言わず、ベルが用意したその車椅子に座った。
******
「本当に、何回死にかければ気がすむんだよ、バカ鮫が。ボスもそう思うっしょ?」
「あぁ」
車椅子のタイヤの音が響く廊下を歩きながら、普段から饒舌だったがそれ以上に良く喋るベル。本人曰く、俺が起きたこととたまに返事を返してくれることが嬉しいらしい。
「マーモンもさ、珍しく取り乱してフランから変な装置を奪い取ってきたし。まあ、そのおかげで一命をとりとめたんだけど」
なんせ、身体を思いっきり貫かれていたからね。
そう言ったベルの声がワントーン下がったのは気のせいではないだろう。
「ここだよ」
ドアを開けて中に入っていく。
中は俺が寝ていた所とそう変わらない。ただ、色々な専門的機械が多くあったこと以外は。
奥に入り、スクアーロが寝ているベットの横に車椅子を近づけ、そのままベルは静かに部屋から退室した。
「ハッ、本当にはた迷惑な奴だな」
目の前で寝ているスクアーロを見る。
最後の記憶の紅い姿ではなく、いつも通りの白い姿で寝ていて少し安堵する。
閉じたままの目元を優しく撫でてやる。温かい。
ピクリとも動かないが、生きている。
不意にドアが開き、今度はベルではなくルッスーリアが入って来た。
「ボス、そろそろ・・・」
「あぁ」
この時の俺は、人を待つということがどれだけ辛いことなのか何も知らなかった。
******
「ねぇ、ボスは?」
「また、いつものところさ。今日ぐらいはって1日休みだからね」
「なぁ、マーモン。どうにかならねぇの?」
「バカ言わないでくれよ、幻術はそんな都合の良いものじゃないんだ」
「んだよ、そんな怒ることねぇだろ?ただちょっとだけ思っただけだって」
「僕だって、出来ることならしたいさ。でも」
「あーあ、バカ鮫め。いつまで寝てるつもりだよ。今日はボスの誕生日なのに」−−−−
*****
ーーーー時は流れる。
あの戦いが終わり、ムカつくことに後始末に追われる日々だったが、今日ぐらいはと1日休みをもらい、朝からずっとここにいた。
アイツが俺を待ったという8年間よりもずっと短いが、俺に取っては長すぎる月日。ずっとコイツは一度も動かなかった。
鼻をつまんでキスをしてやるが、反応はない。
つまらない。
「スクアーロ」
めったに呼んでやらない名前を呼んでも動かない。
「・・・スクアーロ」
いつもの口癖が出てしまったあの時、名前を呼んでやれば良かっただなんて、俺の自己満足か?
「スクアーロ、起きろ」
もう一度言ってみる。命令すればコイツは起きると思っていた。悪態をついて、苦しそうにしながらもしっかりと自分の足で立ち上がると思っていた。
「てめぇが呑気に寝ているうちに俺の誕生日が来ちまっただろうが。今年は言わずに終わらせるつもりか?」
ベットに腰掛けて、スクアーロの顔を覗き込む。
ふと、まだ幼かった頃の事を思い出す。
まだコイツの髪が短かった頃のこと。
ーーー「なぁ、ザンザスって何が欲しいんだぁ?」
「あ”?てめぇみたいなカスに貰って嬉しいもんなんかねえよ」
「んだとぉ?!ぜってぇ貰って嬉しくてにやけちまうもんプレゼントしてやるからなぁ!」
「ハッ、カスには無理に決まってるだろうが」
「か、カスカスうるせぇぞぉお!」
「本当の事言って何が悪いんだよ」ーーー
不意にぱらぱらと、スクアーロの頬に雫が零れ落ちる。
それが自分から落ちたのだと気づいたのは、上体を起こして自分の頬が濡れていたのに気づいてからだった。
まさか自分が泣いてるとは思わなかったため、一瞬呆気にとられる。
とりあえず止め方は分からなかったため、自分の頬に流れるのは無視をして、スクアーロの頬にかかった雫を拭ってやる。
すると、少しだけピクリと動いたような気が。
まさかそんなドラマ的なことがあってたまるか。頭の中では否定しながらも、心臓は心拍数をどんどん上げていき、どこか期待しているようだ。
酷い矛盾。
じっとスクアーロの顔をのぞき込んでいれば、長い睫毛に覆われたブルーグレーの瞳が音もなく静かにすうっと開かれ俺を捉える。
「ザン・・・ザス?・・・泣いてんのかぁ?」
未だ止まっていなかった涙が見開いた両目から更にこぼれ落ちて、スクアーロの頬を濡らす。
スクアーロは特にそれを気にしていないようで、のびてきたスクアーロの手は俺の目元を拭った。
「ザンザスでも、泣くことあんだなぁ。・・・どうしたんだぁ?」
「んの、ドカスが。のんきなこと言いやがって」
まだ寝ぼけているのか普段のコイツからは想像もつかないが、ふわりと
笑い、首を傾げているもんだから、思わず俺も肩の力を抜いて、呆れた。
「あ・・・、れ?・・・そういえば、オレ」
少しずつ覚醒してきたのか、だんだんと見開かれていくブルーグレーの瞳。
わなわなと口元を震わせれば、いきなり起きあがろうとするスクアーロの頭を押さえ込んで、起き上がれなくする。
片腕だけではどうもバランスが取りにくく、無駄にスクアーロに体重がかかってしまうが気にしない。
「な”、オレっ・・・、また!!」
「るせぇ、黙れ。それ以上喋るな」
「でも、・・・!」
「でももなにもねぇ。忘れろ全部、夢だ」
頭を鷲津かんでいた手を今度は目を覆い隠してやる。すると未だ何か言いたそうに口をパクパクと動かしていたが、直に諦めて肩の力を抜いた。
「・・・あれからどれだけ、経ったんだぁ?」
「んなの、一々数えるか」
スクアーロから手をどかし、ベットの横にある簡易椅子に座り直して足を組む。
視界が明るくなったスクアーロは何回か眩しそうに目を細めて瞬きをしたが、直ぐに視線を動かして周りを見渡した。
ただ真っ白い天井。窓際に飾られた綺麗な花。
これまた真っ白い壁。ベット横には簡易椅子に座るザンザスとシンプルなサイドテーブル。その上に電子時計が一つ。それが表示している電子文字。
10.10 pm12.30.
自分の目を疑った。
まさか、今日は。
まさか、まさか。
スクアーロの瞳が電子文字を映したまま動かない。
「ぁ・・・、ボス。今日って・・・」
「・・・別に、なにもねぇだろうが」
「何言って!!今日はボスの誕生日だろぉ?!」
「落ち着け、カス。傷が開くぞ」
「だっ!だって、ボス!絶対毎年祝うって、なのにオレ、祝う所かむしろっ・・・!!」
「スクアーロ!・・・落ち着け。いいか、俺の話を聞け」
無理矢理乱暴に起き上がったため、細くて白い腕に刺さっていた点滴の針が抜けかかり赤く腫れ上がるがスクアーロはそんなのは全く気づいてないらしい。
今にもベットから身を乗り出して落ちそうになっているスクアーロの肩を掴み、その場に押しと止め目を合わせて言ってやれば、視線が揺らいでいたスクアーロだがゆっくりと小さく頷いた。
「てめぇは勝手に自分を責めてるがな、馬鹿な事考えてんじゃねぇよ」
「馬鹿って、オレにとったらボスが怪我するのだって許しちゃいけないのに!右腕を落とされたんだぞぉ?!」
「ハッ、そんなの、てめぇだって左手ねぇだろうが」
「オレが自分で切り落としたのとボスが敵に切り落とされた事の重みは全然違う!」
「違かねぇよ」
「違う!全然違う!!ボスは、怪我する痛みを知らないまま生きなきゃいけねぇだ」
「んなこと誰が決めた」
「オレだぁ。でも、また守れなかった・・・」
「勝手に決めんなドカスが。俺はてめぇみたいな負けっぱなしのカスに守ってもらおうだなんて思ってねぇ。反吐が出る」
「・・・!!」
うつむき加減だったスクアーロの顔が勢いよく上がる。
俺と目を合わせた瞬間に瞳にはだんだんと涙が溜まってくるが、なんとか耐えているようだ。
しかしこういう時のスクアーロはろくなことを考えてない。他の幹部曰く、俺はどうやら言葉が足りないらしい。だからこの鮫は良くない方に考えて無駄に傷つくのだと。
「ごめ、ん。そう、だよなぁ。折れた剣なんか使いもんにならねぇし、オレだって捨てちまう」
「おい、人の話は最後まで聞け。だからてめぇはカスなんだ」
「・・・ぇ?」
「俺は、カス鮫なんかに守られるほど弱かねぇし、盾代わりになる剣なんぞいらねぇ」
俺の言っている意味が分からないのか、目を見開いて忙しなく瞬きをしているスクアーロ。
「てめぇは後ろを気にせず敵を切り刻んでれば良いんだよ。俺がてめぇを守ってやる。スクアーロ」
一瞬の沈黙。
だんだんと言葉の意味を理解してきたのか、頬を少しずつ紅く染めるスクアーロ。
「な、なに言って・・・、それじゃあ、まるで」
「あ”あ?てめぇが大事だよ。なかなか起きやしねぇてめぇを見てて昔を思い出して泣いてんだ、悪ぃか」
俺は勢いに任せてとんでも無いことを言い放った気がした。
その証拠に目の前のけして馬鹿ではないが少し頭の足りない鮫は顔を真っ赤にしながら泣くという凄い芸当をしていて。
「う、嬉しいけどよぉ、だけど、それじゃあ・・・」
「ここまで言わせといてまだ納得しねぇのか。・・・だったら」
「な、んだぁ?」
「てめぇ、昔、誕生日に俺に嬉しくてにやけちまうもんプレゼントするって言ってたよな」
「そんな昔のこと覚えてたのかぁ?!・・・確かに言ったぜぇ?まだ、やれてねぇけど」
申し訳なさそうに苦笑する、その涙で濡れている目尻に指を這わせる。
「今年のプレゼントはてめぇだ、スクアーロ。これから一生俺の横から勝手に居なくなるな。俺の命令は絶対だ。いいな」
「そ、そんなの出会った最初っからオレは全部お前の物だぞぉ?!意味な・・・」
「るせぇよ。てめぇは直ぐ勝手に消えかかるから保険だ。誓え。もう勝手に消えかかるような真似はしねえって」
「・・・本当に、いいのかぁ?」
「俺が望むのはスクアーロ、お前が俺の横から消えねぇことだ」
「si、・・・Si、ザンザス。 ・・・Buon compleanno」
恥ずかしそうに俯きながら、だけれどもしっかりと俺の目を見て言う、今年は聞けずに終わると思っていた祝の言葉。
言葉を紡いだスクアーロの少し薄い形のいい唇にキスをして、片腕だけでギュッと抱きしめる。
「ん・・・、嬉しいかぁ?ザンザス」
キスの合間に真っ赤な顔のクセにやけに挑戦的な笑みを浮かべるスクアーロの額にもキスを落として嫌みったらしく笑ってやる。
「そうだな。今までの誕生日の中で一番”シアワセ”かも知れねぇな」
お互い足りない手を補う。
ずっと誕生日だなんて馬鹿げていると思っていた。
だけど、この日があるからこそ、今俺は満たされた気持ちになっているのだろう。
何となく、コイツが人の誕生日を喜ぶ意味が分かったような気がした。
(おめでとう!)
(その元気な声だけで僕は密かに満たされるのだ)
(ありがとう、僕の誕生日を忘れずにいてくれて!)
(君が寝ている間本当に寂しかったから、僕の誕生日に目を覚ましてくれて本当に)
(本当に嬉しかったんだよ)
end.
後書きというなの、ものすごい言い訳。
うわぁああああぁぁああああああ!!
オーマイガっ!!なんてこったい!!
ボス誕からほぼ3日もしぎてるだとぉお?!
しかも何だこの無駄にネタバレの意味不明な文は!!
誰だ!後少しで書き終わりそうだったデータをかっ消したのは!
・・・私だよ!コンチクショー!
最初から書き直したのはいいが、完璧精神があり得ん程だだ下がったせいで最初の時のように書けなかった・・・。
あーあ!せっかくそれなりに書けてたのになぁ!((うるせぇ
とにかく、そんな事は置いといて、
ボス誕生日おめでとー!!
凄く遅れちゃったけど、愛してるぜぇ!
不謹慎だけど、ボスとスクたん、右手と左手無いの少し萌・・・
やっぱり健全が一番だけど、足りない所を二人で補っていくのもいいな((ホロリ
なんかスクの台詞書いてて不意に某人気ゲーム、テヌルズの”マモレナカッタ”代表主人公を思い出してしまった。反省。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!