番外編

□まるで悲劇の物語ですね
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誰も私の話しなど耳を傾けはしないのだけれども、私のこの口が裂けて使い物にならなくなる限りお話致しましょう。


私はね、昔、人を殺したんですよ。

まぁ、殺すといっても、仲間と追い詰めて遊んでいたらあっちが勝手に飛んだ話ですけど。
世間ではそれも殺人に値するそうなので、間違いでは無いでしょう。私もそれが正しい判断であると思いますし、得に文句は有りませんでしたから。他の仲間は大変渋っていましたけど。

私はもともと、小さな農村の全校生徒が100にも満たない、本当田舎の学校にいたんです。
私は、ちいさな時から言葉を噛む癖がありました。
だから、周りの皆からは気持ち悪いと毎回のようにからかわれて、国語で読むように使命を受けた時が1番嫌いで。
今思えば、大変あの教師はえげつない方だったんですね。

そのまま、中学、高校と。私への扱いは変わらぬまま時間は過ぎていきました。
勘違いされている方も居るようですが。田舎の農村の学校が、穏やかで楽しいなんてただの幻想なんですよ。
子供には、子供の社会、階級が存在しますから、閉鎖された空間のような農村の学校は、大変残酷な世界なのです。素晴らしい子はいつまでも素晴らしいですが、その逆もあるんです。つまりは私はその世界の最下級の扱いのままなんです。

しかしながら、転機が訪れました。

始まりは、私とはなんの関係もない彼氏の取り合いでした。

当時、私のクラスでは気性の荒い女が二人いて、馬が合っていたというか、その二人は親友同士だったそうです。
ですが高校二年の頃、その二人が同じ人間に好意を抱いたのです。私にとっては、本当に関係の無い話でしたので、二人が争う声を聞き流している程度でした。

やがて二人は別々になり、互いに別のグループを作り出していきました。その時でした。私が、その一つに手を差し延べられたのは。不謹慎にも程が有りますが、ただの数合わせでも私にとって初めての救いでした。初めて他の人と話し、笑い、遊んだ…私は他人との触れ合いに飢えていたんです。最下級の存在でしかなかった私にとっては。
やがて私がいましたグループは、日に日に相手側を引き抜いて、醜く肥大化していきました。


気が付けば、クラスは20対1の世界になっていたんです。

いくら気性の荒いその子でも、皆が相手ではとても太刀打ちなんて出来なかったのでしょうか。私共のやったことは世間ではイジメという社会問題だそうですが、私にとっては彼女が受けている仕打ちがかつての私そのものでしたので、何故彼女が悔しそうに顔を歪ませ、何度も休むのか理解に苦しみました。私に彼女の嘆きはただの子供の我が儘にしか聞こえません。自分は無条件に愛される存在であると。勘違いしている子供のように。

そして彼女は死んでしまいました。

学校の屋上から飛び降りて、死んでしまいました。

彼女は自殺が救いと考えたのでしょうか。いえいえ、恐らく彼女は復讐の為に命を投げ出したのでしょう。そう思えば、彼女がどれだけ弱かった存在だったのか理解できました。それとも、私が強すぎただけだったのでしょうか。
子供の世界は独裁国家を縮小した人生ゲームのようなものです。全てを奪われて、逆転されて、サイコロをふることも出来なかった彼女は、ゲームを降りてしまいました。彼女は結局、かつての仲間からも、自分自身からも敗北してしまうという選択を選んだんです。
あれから何年経つのでしょうね。私側のリーダーだった彼女は、今でも元気ですよ。今でも病院の一角で、奇声をあげて泣き叫んでいます。彼女の仲間達も、そのことが半永久的に有りつづけるんでしょうね。

私?
ああ、私も元気ですよ。

しいて言うのであれば、私が言葉に詰まることは、もう無いでしょうね。


私は彼女が死んでしまうずっと前に。
壊されて、死んでしまったも同然でしたから。








まるで、悲劇の物語ですね。










だって私は今、笑ってますから。

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