たそがれにキミと

□その女華艶
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文久三年。
華の都、京は雪の降りそうな寒さだが、白い息を吐きながら街は人々で賑わっていた。



そんな忙しない人々を二階から眺める女が一人。



年が暮れることも、年が明けることも自分にはまるで関係ないとでもいうかのように遠い目をして外を見やった。




……今日は雪が降りそうね…




このところ夜になるとぐっと冷え込む。




「歩けないほど降るといいわ。」


まだ初雪は訪れていないが、雪が山程降れば、仕事をせずに済む…。ふぁぁと欠伸を一つすると、幼い声がそっと響く。



「華艶姐さん、替えの支度が整いんした。」


「あぁ、お武…お入りなんし。今日のつもりは如何程だすかえ?」


すすす…と襖を開け、部屋へ入るとぴったりとまた襖を閉めた。
お武(おたけ)は華艶についている禿で、歳は数えで十を越えた愛らしい顔立ちの少女だった。



「はい。夕刻より松屋の旦那様の宴に同席しんす。」


「松屋さん…久方ぶりね。」


「松屋の旦那様は今日はあまりごゆるりできねえそうで、華艶姐さんには終わり次第そのまんま別の席での宴に行ってほしいそうでおす。太客だって女将さんが言ってんした。」



太客ねぇ…。

うちの女将は面食いだからきっと顔がいいに付け加え、そこそこ金持ちって殿方ね。


あってはならないことかもしれないが、ここ桔梗屋の女将は華艶と3つ違いで二人は大変仲が良かった。
華艶が7つでここへ来た頃からなので十年以上の付き合い。


逃がすなよ…!という女将の気持ちと、褥が済んだら話し聞かせて!という魂胆が手に取るように伝わった。
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