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□【baton】西洋童話*完結
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†灰かぶり(シンデレラ)
長い階段に砕けた硝子の靴。
真夜中を告げるための12回目の鐘の音が響き渡る。
あぁ……!!
振りほどけなかった王子の腕。
みるみるうちに華やかだったドレスや髪は、元の灰かぶりの姿へ戻っていく…。
後ろを、振り返ることなんてできなかった。
「…きみ、は………。」
みすぼらしい姿、こんなお洒落なお城も、華やかな舞踏会も、素敵すぎる彼も自分には本来手にすることのできないものだった。
俯き自分の素足が映る。
今にも瞳に溜まった涙はこぼれ落ちそうだった。
「シンデレラ…、こっちを見てよ…。」
腕を離さない王子の手に力が入る。
………振り向くことなんて…できない…。
しばらくそのままでいた二人。
夜風が撫でるように優しく吹いた。
その時だった。
痺れを切らした彼は腕を引き、彼女の視界を変えた。
一瞬、何が起きたか分からなかった。
目を見開き、驚きながら見上げれば、眉を潜めて今にも泣いてしまいそうな顔をした彼がいた。
「そんな格好でいたら風邪をひいてしまうよ。」
抱き締める腕に力が入る。
「王子、わたし……。」
「何も言わなくていい。…君さえ、僕の傍にいてくれたら…。」
王子は町外れのこの娘を知っていた。
父を亡くしたこの娘が、継母や義姉達に辛い思いをさせられていたことも。
灰かぶりと噂された娘を通りがかりで見つけた時、確かに今目の前にいる彼女と同じように、薄汚れた姿をしていたけれど、見目の美しさだけは一目で分かった。
「こんなに早く、君と会えると思わなかった。」
迎えに行くつもりだったんだよ。
シンデレラの瞳からは、ついに涙が溢れ出た。
今度は悲しい涙でなかった。
二人を照らす月明かり。
長い長い階段の下では、魔法の解けたカボチャと、嬉しそうに二人を眺める二匹の鼠がいたのでした。
→白雪姫