唯憂専門

□日常と引き換えに…
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…朝か。 本当は起きているけど、まだ起きないでいよう。 
だって…     
ガチャッ
憂「お姉ちゃん、起きて。」
起きてるよ。 でも、もうちょっとだけ。 もうちょっとだけ憂の声を聞きたい。
唯「…んあ〜。。 ういぃ〜、後5分〜。」
たった今起きましたって演技で言って、私はうつぶせになってそう言う。
憂「もぉ〜。 後5分だけだよ?」
そう言って憂は出て行った。 やっぱり憂は優しいね。
…顔、見られなかったよね? うつぶせしたし。 だって、多分顔真っ赤だもん。

私が憂に抱いている気持は思いやり? 愛情? 友愛? それとも親愛?
ううん、違う。 そんな軽いモノじゃない。 女の子で、同性で、妹という家族として1番持ってはいけない感情。 そう、『愛』。 いや、恋愛感情って言った方が近いかも。
私は1人の女子として。 …いやこれはよく使われる言葉だけど、同性愛だって認められてないんだからこれもおかしいよね。
…私は1人の『人間』として憂の事が好きだ。 その好きは男の人が女の人に感じる感情よりもずっと熱くて、深くて、激しいと思う。 ずっと一緒にいたからその分激しいんだと思う。
いつからだっけ、こんな気持ちを持ったのは。 クリスマスの時に手袋をもらったあの時から? それとも、学園祭の時に「頑張って」と言ってもらったあの時から?
きっとどれも正解で、どれも不正解なんだと思う。 自分の事だけど、そんな昔の事覚えていない。 確かに意識し始めたのは少し前の事だけど、それはただ『気付いた』ってだけの話。 
ずっと好きだったんだ。。 その好きは私にとって当たり前で、無くてはならないものだった。 それに気付いたってだけ。
初めてメンテナンスしてもらった時、私のギターが凄く綺麗に見えて、思わず「ギー太」
と名付けてしまったみたいな感じ。
手元にあったものを遠くから見て、改めて美しいと感じる、そんな感じ。
この気持ちは誰にもバレてはいけない。 りっちゃんにも澪ちゃんにもムギちゃんにもあずにゃんにも和にも、誰にも知られてはいけない。
だってこんな気持ちがバレてしまったら「日常」が壊されてしまうから。 誰もが気を使わず笑えるこの平和でベストな日常がくずれてしまうから、絶対に知られてがいけない。 だから、この気持ちは心のずっと奥のそっとしまっておかなくちゃ。
…でも、本当は憂が誰かの手に渡っちゃうと考えたら、凄く嫌な気分になる。 今はまだ学生だし、一緒に住んでいるから2人でいられる。 でも大人になったら、憂ほどのスーパー人間ならすぐに恋人ができちゃうだろう。 その時こそ間違えなく憂は私のモノじゃなくなる。
…本当に、苦しい…

ー・−・−・−・−・−・−・−・−・−・

憂「お姉ちゃん、5分たったよ。」
もうそんなにたったか…。 でも、多分赤さは引いているから大丈夫なはず。
唯「うん。 今行くね!」
階段を下りてリビングへ行くといつも通り憂が朝ご飯を用意していてくれた。 さすがはスーパー妹!
唯「いただきまぁ〜す。」
一生懸命食べているふりをして、下を向く。 …だって顔を見るとまた顔が赤くなっちゃうから。
憂「…お姉ちゃん? どうしたの?」
やっぱり下を向きっぱなしだと変に思っちゃうかな?
唯「憂のご飯がおいしすぎて、食べるのに夢中になっちゃったんだヨォ〜」
いつも通り、普通に、普通に。
憂「お、お姉ちゃんほめ過ぎだよ〜。」
そうしてエヘヘと頬をゆるませる。
ッ!! ダ、ダメだよ。 今の顔は反則だよ! 可愛いすぎるっ!
私はまた赤くなった顔を下に向けてご飯を食べた。 

ー・−・−・−・−・−・−・−・−・−・

タッタッタ。 憂となるべく目を合わせないようにしながら、いつも通り登校をしていると、りっちゃんがやって来た。
律「オッハヨーウ! 唯に憂ちゃん!」
唯「おはよう。 りっちゃん。」
憂「おはようございます。 律さん。」
律「に・し・て・もぉ〜! 本当に唯と憂ちゃんは仲良いなァ〜。」
唯「だ、だって姉妹だもん!」
律「いやぁ〜? うちはそんなに弟と仲良くないぜぇ〜!
憂ちゃんは本当に唯が好きだなぁ?」
憂「はい、大好きです!」
ッ!!// う、憂に好きって言われちゃった…。 大好きって言われちゃった!!
って、ち、違う! いつも通り普通に、普通に。 あっ、でも自然に顔が熱くなってきちゃったよ…。
律「唯ぃー。 顔、真っ赤だぞぉ〜。 ニヤニヤ
唯は憂ちゃんが本当に大、大、大好きだよナァ〜!」
唯「ッ、なっ…。 …からかわないでよ! 憂はただの妹だよ!」
…あっ。 思わず、大声で言っちゃった。 りっちゃんも憂もキョトンとした顔でこっちを見てる。 どうしよう。 普通にしなきゃいけないのに。。。
唯「ごっ、ごめんねぇ〜。」

ゴチン。 りっちゃんの頭に鈍い音が響く。
律「いっ、いってェ〜!! 澪ー! 何するんだよォ〜!!!」
澪「何もどうもないだろ。 今のは律が悪い。」
律「ッ! ご、ごめんなあ、唯。 からかい過ぎた…」
子犬のようにシュンとして頭を下げられた。 りっちゃん悪くないのに。。 私が普通を保てなかっただけなのに。。。
唯「ごめんねはこっちの方だよ。 大声だしてごめんねェ〜。」
律「あぁ! …でも何であんなに強く反発したんだ?」
澪「そうだぞ。 別にいくら律が悪いといっても、あんなに強く言わなくても良かったと思うけどな。」
唯「ッ。 ちょ、ちょっと恥ずかしかっただけだよ! …憂もごめんねぇ。」
なるべく憂の目を見ないようにしながらいつも通り笑う。
憂「ううん。別に何とも思ってないよ。」
憂はそう言って私じゃないと気付かない、寂しい笑顔で笑った。 …そんな顔しないでよ。 
憂「あっ、梓ちゃんだ。 おはよー!」
そして、あずにゃんの方に行って2人で話始めてしまった。

ー・−・−・−・−・−・−・−・−・−・

その日の授業は何も頭に入ってこなかった。 …いや、いつも入ってこないんだけど今日はもっとひどかった。 私の頭の中のはずっと同じ事しかなかった。
憂にあんな顔させちゃった。 傷付けちゃった。 私のせいで。。 私が普通になれなかったせいで。 憂は何も悪くないのに…。
壊れたカセットテープのように同じ言葉がリピートされる。 別の事を考えようとしても、カセットテープに吹き込まれた私の暗い声が何度も繰り返される。
お弁当になってもずっとぼうっとしていた。
いや、行動はりっちゃんとおバカな事を言い合って、澪ちゃに怒られて、謝って、ムギちゃんに笑われて、私も軽く笑い返すといういつも通りの行動だけど、それは体が勝手にやってしまう事。 
笑っている時も何をしている時も、頭の隅では、心の奥では、何回もカセットテープが回っていた。 繰り返される度にチクチクと痛みを覚えた。

ー・−・−・−・−・−・−・−・−・−・

何もできなかった授業が終わり、部活へ向かう。
…でもやっぱり気が晴れなくて、ムギちゃんんのお菓子も心配かけないように全部食べたけど、はっきり言って味なんか全然分からなかった。 演奏も何回も間違っちゃって、間違う度にいつもの笑いを見せて、いつも通り元気に振る舞った。 部活が終わって、下校の時も普通を意識して、みんなと分かれて、1人の道に入った。

…私は憂と一緒にいたらいけないのかなぁ?
また傷付けちゃうかなぁ? でも、、でも私は卒業して、2人が別れる時までの残り短い時間を憂と一緒に過ごしたいんだよ。 …だからますます普通に振る舞わなくちゃ!

ー・−・−・−・−・−・−・−・−・−・

…とは言っても入りずらい。 憂は傷付いただろうし、とても合わせる顔がないよ。。

バタンッ!
…バタン? 今、家の中から音がしたよね…? 中には憂しかいないはず。。 まさか!

唯は顔面蒼白で急いでドアの鍵を開け、中に入った。

唯「憂ッ!?」
憂「……ぉ、お姉ちゃん…。」
思った通りそこには倒れている憂がいた。 顔は真っ赤で見るからに熱がありそうだ。 唯は急いで体温計を持ってきて憂に熱を計らせてた。
ピピピッピピピッ。  …39度2分。
こんな高熱今までに出た事ないはず。。 どうしよう…。 私のせいだ…。
い、いやそんな事を考える前に憂を寝かせなきゃ!
謝って家事をしようとする憂を唯は半ば無理矢理薬を飲ませて、ベッドまで運んだ。

ー・−・−・−・−・−・−・−・−・−・

唯「憂ィ〜、大丈夫?」
憂「大丈夫だよ。 ごめんねお姉ちゃん。」
そう言って私を心配させないように笑った。

改めて憂の顔を見てみると、目は潤って、顔は真っ赤、わずかに汗までかいている。
…なんというか凄くいろっぽい。 いや、本人はそんな気はないだろうし、調子が悪くて辛いだけだろうが、唯の目にはいろっぽくしか見えなかった。
そして、いつもは合わせないようにしているその大きな目を吸い込まれるように見た瞬間、唯の頭の中で何かがプツリと音を立てて切れた。 気付くと唯はゆっくりと憂に近づいていた。

ダメだよこんな事しちゃ。普通を保たなくちゃ。 ダメ、近付いちゃダメ。 普通に普通に …あれ? 普通ってどんなだっけ? いつも通りってどうやってするんだっけ?
そしてあのカセットテープの声が唯にささやく。
―いつも我慢してるんだからいいじゃん。 憂だって対して気にはしないよ。 だから、別にいいじゃん。
その声を聞いて、わずかに残って反発していた唯の理性がゆらいだ。 何かに動かされているようにゆっくり憂に近付く。
憂「? お姉ちゃ…んッ」
唯の異変に気付いた時はもう遅かった。 憂は唯に押し倒され、反発する間もないまま唯に口付けをされた。

唯が唇を離した途端、我に返り、現実に引き戻された。

…どうしよう、憂にキスしちゃった…。 もう、ダメだ…。。 心の奥の気持ちがバレちゃったよ。。 もうダメだよ私!
そして今にも泣きそうな憂の目を見た瞬間、唯の体は急に熱くなって、気付くと唯は外に出て走っていた。自分でも信じられないスピードで何もかも忘れようと思いっきり走った。
そして、どこかの公園ら辺でさすがに体力が持たなくなり、ベンチに座って休んだ。
その途端さっきまでの現実が襲いかかってきた。

ダメだよ、ダメだよ私。 また、自分を抑えられなかったよ。。 決心したのに! 結局ダメだったよっ!! 何で私はこうも中途半端なんろう…。 もう元には戻れないよ。 普通にはならないよ。 また憂にあんな顔させちゃったよ。 また、あんなに悲しませちゃったよ…。
タッタッタ。
『お姉ちゃーん!』
あーあ、幻聴まで聞こえてきちゃったよ。 本当に私は変態で最低だよ。
「お姉ちゃん!」
え…、本物? だって、憂あんなに高熱出てたんだよ? 多分、ここから家までかなり距離あるよ? 私なんあのためにこんな夜道を追いかけてけないよ…。
憂「お姉ちゃんてばっ!」
唯「…憂?」
憂「いきなり出て行っちゃうから!」
唯「ッ…。 ダ、ダメだよ! 憂は私に近付いちゃ!」
憂「…なんで?」
唯「だって、、だって私は女なのに、家族なのに、憂にキスしたんだよ!? 憂を嫌な気分にさせちゃったんだよ!? でも、でもっまだ私は憂を求めてるんだよ! こんな変態な私が憂に近付いちゃいけないだよ!!」
ガバッ
憂は急に唯に抱き付いた。 そして今にも消えそうな声で言った
憂「…あのねお姉ちゃん聞いて。
私はお姉ちゃんにキスされたの嫌じゃなかったんだよ。」
えっ!?
憂「ううん、本音を言うと嬉しかった。 逆に朝、お姉ちゃんに『ただの妹』って言われた時、凄く苦しくて嫌だった。 …お姉ちゃん最近目も合わせてくれないし、合ってもすぐそらしちゃうし…。 その度に泣きそうだったんだよ?」
唯「そっ、それは違う! 私は憂の事が好きだから! …好きだけど…、好きだけどっ、こんな気持ち変だから、ダメだから、かくそうとしてたんだ。 でも、憂の目を見たらきっと気持ちを抑えられなくなっちゃう。 だから目を合わせないようにしていたんよ!」

憂「お姉ちゃんが変なら、私も変だよ。」
? それって、つまり…
唯「え?」
憂「私はお姉ちゃんが好き。 こんな気持ち持っちゃダメだけど、それでも、それでも好きなの。 
…こんな変な私でも付き合ってもらえますか?」
…私と同じ気持ち? それなら、それなら答えはもう決まっている。
唯「だっ、ダメなわけがないよ。 私も憂の事が好き! 付き合ってください!」
憂「!それなら私たち好き同士だね。」
そう言って憂はエヘヘと笑った。
その笑顔を見た瞬間私は憂にキスをした。 …だってもう抑える必要はないから。 それは触れるだけのキスだったけど、私は世界中のどんなキスよりも甘いと思った。 大好きな憂としたから。

私は『日常』をなくした。 でもそれと引き換えに私にとって1番大事にできるモノを手に入れた。 それはちょっぴり苦くて、でも甘い甘い恋。 その恋はずっと終わらない。 そんな気がする。
憂とならどんな壁を乗り越える事ができる。 そんな気がする。
私と憂のちょっぴり苦くて、でも世界中のどんな食べ物よりも何よりも甘い甘いこの恋は永遠に続いていく。私はそう思う。
だって憂の事が大好きだから。 その気持ちが分かれば何にも負けない。

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