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□似ているけど相容れないぼくらわたしら
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「何であやめなのにさっちゃんなの?」
「言いたくないわ」
「ふーん」


あやめ
綺麗な響きだと山崎は思う。
だが、知り合って間もない頃、彼女のことをあやめさんと呼んだら物凄く睨まれた。
さっちゃんと呼ぶのも何だか違うような気がして、結局未だに「猿飛さん」だ。
彼女も山崎を「貴方」としか呼ばない。

呼び合い方をお互いの距離感とするなら、自分と彼女を近しい関係だと回りは思わないに違いない。

例え昨夜の下着の色すら知っている仲だとしても。


「貴方にはあだ名があるの?」
「知りたいの?」
「そうでもないわ」
「じゃ、俺も言わない」


普通の恋人同士なら相手を「知る」喜びにときめくのだろう。

相手のことを知りたくないわけでない。
けど、それ以上に自分のことを明かしたくはない。
そんな自己完結な性格が、あまりに二人ともよく似ている。
似すぎているから踏み込めないし、踏み込ませたくない。


「昨夜、俺たち何しましっけ」
「男女が素っ裸になったらやるべきこと一通りはすませたんじゃない」
「実も蓋もない言い方やめてください」
「じゃ、セックス」
「更にひどい」


赤裸々なことを言っても、頬など染めない彼女。
そういうところを好ましいとは思う。
思うけれど、


「たまにはデレてみない?俺にも」
「じらして刺して垂らしてなぶってくれたら考えるわ」
「そこまではできません」「あら?」
「何?」
「貴方白髪あるわよ」
「ええええ!!」
「…よく見たら光の加減だったわ」
「びっくりさせないでよ」
「貴方の驚いた顔は割りと好きよ」
「…」
「なあに」
「俺も、ちょっとだけ唇あげる猿飛さんの笑顔割りと好きだよ」


視線が絡まる。

このままどちらが先に視線をそらすのかわからない。わからないけど、そらしたら負けだと山崎は思った。

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