novel

□桜恋唄
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◇◇ 桜 恋 唄 ◇◇

「俺、ちょっとダイナマイトの仕入れとヤボ用済ませに行って来ますね」
そう言って獄寺がイタリアに帰って行ったのは3月の修了式の直後のこと。
ボムの輸送の手配や何やらが思ったより長く掛かってしまい、結局彼が再び日本の空港に降り立ったのは4月に入って1週間も過ぎた頃―――つまり、明日から新学期が始まって学校に通わなければならないという日の夕方だった。
「…ッントについてねぇなオイ」
予定よりも手間取って大幅に予定が遅れてしまったことや長時間の移動、時差ぼけでただでさえ機嫌があまりよろしくないのに、獄寺は手の中の小さな端末に新たな不機嫌の要素を見つけ出してしまう。
出国時から切っていた携帯電話の電源を入れなおしたら、内蔵電池の残量がほとんど残っていなかった。
帰国に備えて前日にきっちりやっておいたはずの携帯電話の充電がどうやら失敗していたらしいのだ。
これでは何のために変電機をわざわざ買ってまで持っていったのかわかんねぇぞ、と心の中で悪態をつきつつ、とりあえず不通になっていた間のメールチェックだけでもしておこうとボタンをいじろうとした時…
『♪〜♪♪♪・♪♪♪・うでをー前から上に上げてーのびのびと背伸びの運動ー〜♪♪・♪〜〜〜〜』
「おわ…っ!!!」
突然、日本人なら誰もが知っているあの曲と男性の声を鳴り響かせながら、獄寺の携帯の着信ランプがチカチカと点滅し始めた。
小さなディスプレイ画面には『山本武』の名前が表示されている。
『あーもしもし獄寺?おかえりっ、帰って来たんだな!』
「…てめぇっ!いきなり掛けて来んな!恥かいちまっただろーが!!」
着信音が着信音なだけに、周囲の空港利用客の笑いを誘ってしまった獄寺は、不機嫌に恥ずかしさも加わって、電話に出るなり思わず叫んでしまう。
「テメェにはお似合いだ」と言いつつその着信音を設定したのは、他ならぬ獄寺自身であった事はすっかり心の棚に放り投げていた。
『お前さ、今日の夜、予定空けといてくれよ。ちょっと見せたいもんあるからさ』
「あぁ?ふざけんな。俺は十代目に帰国のご報告とお土産を渡しに―――」
『あー、ツナ今日はダメ。おふくろさんたちと一緒に出かけてて、帰ってくるの夜中近くだって』
「だったら家帰って寝る!テメェのわがままに付き合っ…」
そこまで捲くし立てた時、電池切れを知らせるアラームが10回ほど鳴り、受話器から回線がつながっている気配がふつりと消えた。
変電機に続き、携帯電話までもがただの荷物になってしまった。
「あのやろぉ…」
なけなしの電力を全て使い切られた怒りに携帯を握る手が震える。
こうなったら、何が何でも山本に会ってやらなければ、と心に誓う。
会ってその首を締め上げでもしない限り自分の気は収まらない、と獄寺は不機嫌の矛先を全て山本に向けて憂さを晴らそうとしていた。

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