番外編
□“Esther”のお料理処に関するマル秘ノート
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〈晴隊長の遊戯〉
縮んだ。
冗談でも何でもなく、縮んだ。
突然に。ポンッという軽い効果音と共に。
頬杖をついてそれを見ていた綱吉は、今の変化は日本で話題になってた名探偵の少年ーーではなく、どちらかというと、随分前に見た改悪10年バズーカに近い変化だよなぁ、と。冷静に分析していた。
妙な予感は感じ取った綱吉だが、この手の事に関しては、害意がないためにいつも直感が働くのが遅い。
今回も、止めるのはタッチの差で間に合わなかったようだ。
取り敢えず、何が起こったのか分かってない様子の彼に、手鏡を渡す。
それからフォークを持ったまま固まっていたシェーナとガイに「そっちは大丈夫だと思うよ」と、声をかけておく。
出されたものを残しては、作った人が悲しむから駄目だ。でも、アレ見た後に食べるのも怖い。
そんな葛藤をしていた二人は、ホッと息をついて食事を再開する。
恐怖に叩き落とされていた周囲の『家族』も同様に、安心して食べ始めた。
そっちは大丈夫って、言ってないんだけどなぁ。
再び綱吉が口を開こうとしたその時、手鏡を見て自分の顔をぺたぺた触って確認して硬直化していた骸が、漸く起動する。
「なんじゃこりゃぁあああああ!!!!!」
イタリア育ちの割りに骸は色んなネタを知ってるなと感心しながら、綱吉は言った。
「骸。小さくなったね」
五歳児くらいか。記憶というか、中身は変わりないらしい。
ダボダボの服を纏わりつかせた小さい骸は、その事象の衝撃にぷるぷる震えている。
「しかし、この相変わらずの引きの良さは美味しすぎると言いますか、安定の不憫さと言いますか・・・」
此方も妙な勘の良さで、食事が終わった後も周りを静観していた風が、感嘆の声を上げた。
「取り敢えず、服を何とかしなくては」
「あ、大丈夫。シェーナ姉さんが速攻で食べ終わって、たった今、子ども服を漁りに走ってった」
答えたガイも食事を終えたのか、「ご馳走様です」と食後の挨拶をした。
綱吉はいそいそと骸を膝の上に抱え上げるが、骸はまだ立ち直っていないのか、抵抗はない。
と、そこに午前中の仕事を一段落させた黒影がやってきた。
テーブルについたところで涙目の骸に気付き、ピタッと動きを止める。
表情に変化らしいものはないが、綱吉と風は彼が怪訝そうに目を細めたのを読み取る。
暫く無言で男の子を睨んでる(ように見える)黒影だったが、やがて溜め息をつき、骸の頭をむぎゅっと撫で下ろした。
「・・・・・・・・・骸。だからあれほど好き嫌いはするなと」
「こくえーくん! この『家族』の中でなにキミまでボケてるんですか!! というか、好き嫌いはしてもウチのごはんを残したことはありませんから!」
たまらず骸も幼い声で絶叫した。
確かに黒影は、ハルが来てからボケの一途を辿っている気がする。
綱吉は風と顔を見合わせた。
これも一つの平和な変化だろうか?
そして、次に欠伸しながらやって来たのはヴィルヘルム。
ヴィルは骸を見るなり「なんだ、小さい骸か」と、すぐに視線を外す。
思ったより小さいリアクションだと思ったところで、ヴィルは一瞬止まり、バッと再び骸を凝視する。
「はあっ!? アイツいつ子どもこさえたんだよ?」
そこが限界だったらしい。
まともに取り合ってくれる人間を待つのも諦めた。
骸は大きく息を吸い込み、
「れいかぁぁあああああっ!!!!」
敢えて今まで誰も口にしなかったであろう名前を叫びながら、厨房に特攻をかけに行った。
それを微笑ましく見ながら、風は綱吉に尋ねる。
「あれは鈴華の仕業だけではないでしょう?」
「まぁね。ただの薬効で身体を変化させるなんて負担も副作用もデカすぎるから。あの10年バズーカと似た効果を見るに、医療班というよりは科学班の開発部が噛んでるよね」
「うわマジすか、兄さん」
聞いていたガイが青ざめる。
鈴華姉さん。お願いだから科学班と結託して実験とかは勘弁してほしい。
彼女の作るご飯なら、毒が入っている可能性があるとしても食べずにはいられないのだから。
「アレ、骸は? まだ帰って来てないのか?」
「・・・・・」
自分達の昼食と旗つきお子様ランチ、子どもが喜びそうなデザート類(ややチョコレートを使ったものに偏り気味)。
それらを両手一杯に持ってきたヴィルと黒影の姿に、流石の風もいつの間にと呟き目を丸くする。
「・・・楽しそうだね、君ら」
綱吉は温い笑みを浮かべた。
(兄さん達って、骸隊長に構えるとなったらウキウキし出すよなぁ)
こういう時にあの隊長も弟扱いされてる事を実感するのだが、それも如何なものだろう?
ガイは遠い目になりながらも、周りに意識を配る。
「それよりどーすんの、コレ?」
綱吉は困ったように笑う。
「流石に鈴華と科学班には釘を差さないと駄目かな? これはちょっと被害が多すぎ」
骸の他にも運悪く当たりを引いた『家族』が十数名。
辺りは阿鼻叫喚の図と化していた。
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