番外編

□“Esther”のお料理処に関するマル秘ノート
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〈厨房テロ〉



いつもほわほわした様子の儚げな美少年・美少女である双子が、その日は珍しく息を切らせて執務室に飛び込んできた。

「兄さん!」

執務室にいた綱吉と守護者数名、グラディスが顔を上げる。
切羽詰まった様子のシュウに、綱吉に任務の進行具合を報告に来ていた骸は特に驚く。
一方、先程から妙な喧騒を耳に捉えていた綱吉は、双子を落ち着かせるようにのんびり返事をした。

「なにー? なんか下の方が騒がしいね。ヴィルがなんかした?」
「・・・おい、ツナヨシ。俺、実はさっきから此処にいるんだけどな?」
「あ、御免。つい」

「ツナさん!!」

そこへ、双子の後ろから更にハルが乱入してくる。
ぜーはーぜーはー、と荒い息を整えた後、ハルは表情を引き締め、口を開いた。

「黒影さんが!」

悲痛な顔のハルの横で、レンが必死にこくこくと頷く。
それを見て綱吉は「はて?」と首を傾げた。

「黒影? アイツが騒ぎの中心ってのも珍し「料理し始めました!」・・・くもないなぁ」

ハルの叫びに納得した綱吉と風は、思わず遠い目になる。
綱吉は諦めたように溜息をつき、骸に告げる。

「取り敢えず骸、今すぐ廊下のバイオハザードボタン押してこい」

しかし、事態を知った骸は青ざめた表情で動かない。

「ちょっ、黒影くんが作ったアレ。どう処理するつもりですか」
「ん。黒影が一生懸命作ったやつだからさ。生ゴミに直行ってことはしない 」
「『家族』に危険物を食わせる気ですかっ!? 」
「まさか」

綱吉は事もなげに肩を竦めて見せた。


「肥料にする」


綱吉は「Estherの私有地だから埋めても苦情はこないだろう」と呟きながら、報告書に目を通す作業に戻っている。

まぁ、速攻で横からツッコミが入ったが。

「私の育ててる区画はご遠慮します」

いつもの微笑みを湛えながら、その鋭い瞳は全く笑っていないグラディスに、頑とした要望を食らっていた。
綱吉は笑ってひらひらと手を振る。

「大丈夫大丈夫。研究開発のところに回すから」
「肥料蒔いた一帯、枯れるんじゃねーの?」
「別にいいよ。もしかしたら新種が育つかもしれないし」
「本当にろくでもないものが成長したらどうするんです?」
「そん時は学会で発表しよう。科学班は喜ぶから」

骸は顔をひきつらせた。

これが毎度の会話である。
黒影は気にしてないようだが、コイツらの科白、もしかして「生ゴミ直行」より酷いんじゃないか。



その頃、階下ではーーー。

「・・・・何でだ。化学変化として、これはおかしい」
「まず、料理に『化学変化』って言葉が出るのがおかしいわ」

難しい表情で鍋を睨んでいる黒影の横で、笑顔の鈴華が米神をひくつかせていた。

「俺には毒サソリのようなスキルは無かったはずだが」
「取り敢えず、止めなさい」
「・・・・もう一回、この現象を突き止め」
「止めなさい」
「次は成功しそうな気が・・・」

幼馴染みにずっと付き合っていた慈愛の守護者も、ここで爆発した。

「黒影! 貴方のせいでいくつ鍋が臨終したと思ってるの!!」
「・・・戦に犠牲はつきものだ」
「晩御飯抜きにしましょう」
「・・・・・」

鈴華はにっこり笑顔でトドメを刺した。


「料理、だけどな」

危険区域と化した厨房の外で、誰かが間違って入らないように見張っていたランチアは、その会話を聞きながら遠い目で呟く。

「しかも、あの信じられない危険物を作り出してしまうのを、一番信じられないのが本人とか」

味覚は正常なのにねぇ、と。シェーナも頬に手を当てて溜息を溢した。

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