水彩画の空が落ちてきたなら。

□落ちてきた空
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「……だから、友達に迷惑書けないようにね、
ハイ、では自分のスケッチブックをとって書き始めてくださいね。
あと30分しかないから、できるだけ早く描くもの、
場所は決めてください。ではどうぞはじめてくださ〜い。」

男子も女子も、適当につるみながら、ざわざわと教室を出て行く。
どうせこの美術1時間じゃあ、
場所も決めないで終わっちゃうんだろうな。



なんとな〜くめんどくさくって、美術室のベランダから見える風景を描くことにした。

水彩画なんて、まず、描いて何の意味があるんだ?

水っぽくて、色が薄くって、なんかボヤ〜っとしていて、
なんだか、めんどくさい割にはやり終えた感がないじゃないか。


それで、また、なんとな〜くめんどくさくなった俺は、
空をおおく描いちゃえばすぐ終わるんじゃないか、という、
またなんとも天才的な案が頭に浮かんだ。


「あら、まだかいてないの?
はやく決めないと、あと20分で終わっちゃいますよぉ〜」
……今決めたとこだったのにっ!
天才的な案が浮かんだとこだったのにっ!

「今描きます」
「あら、そぉ〜お?」

ふぅ。
早く終わらそう。

まだ使ってもいない鉛筆をガシガシと削っていることに気づいて、
鉛筆の身を案じ、あわててやめた。

さっきから何回も思っている通り、早く終わらせようと思って、
空に挑むべく思いっきり上を向く。

青。快晴。あおあお。

上を向きすぎて後ろまで見えそうになったので頭を元の位置に戻した。


くっ…あたまがふらふらするゼ。



やっと鉛筆を、
まともに描ける持ち方で持ち、

目の前にある校舎の、屋根のほんのちょっとの部分だけ丁寧に下書きし、

また、中庭にある大きな木のてっぺんのほんのちょっとの部分を綺麗に描いた。


これでいいかな。

と、思った時だっ……

バシャッ

……た。











………………………?!?!?!?!?!?!?

……なに?ん?なんですか?はい!?

まず落ち着こう。

こういうときは、自分の置かれた状況を、

素早く、かつ、しっかりと確認するんだ。


……たぶん、こんなにあわてている俺は、他人から見たらものすごく恥ずかしい奴だろう。

まず、おれの頭。サラサラヘア〜が、みごとにびしょびしょでべったりだ。
そんで、ぺったりぺしゃんこ。

次に俺の上半身。こっちもまたぜーんぶびしょびしょだ。
新しく発見したのは、その水っぽいものが、薄く青色だということ。

そして下半身。もちろん俺の。腰から太ももの半分にかけて濡れてる。
……いくらなんでもこんなぬれ方ないだろう…

全部濡らしてくれたらよかったんだ得体のしれない奴め。

最後に全体的に。

絵具くさい。

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