本棚 5
□のーたいとる
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湯を浴び、浴槽に浸かれば思わずじじくさい声が出る。
「う゛ぁぁ!気持ちい…」
雛菊が背を流そうとしてくれたが、俺はやんわり断り久しぶりの湯に浸かる。
肩まで湯に浸かり、手足を伸ばし筋肉をほぐす。
こんな風に身体を労る様になったのは、あのフザケタくそ野郎のお陰だ。
まあ思い出したくも無いので割愛させて頂く。
のんびりと湯に浸かっ居れば雛菊が湯加減を聞いてくる。
『うずまき様、お湯加減はいかがですか?』
「おう、ちょうど良いよ。雛菊は熱くないか?無理はすんなよ」
外で薪を焼べている雛菊を労い声をかける。
『あい…うずまき様は三ツ葉姉様の言う通りお優しいお方や』
何だか雛菊を愛しく感じ、俺は出来るだけ優しい声を掛けた。
「ならそろそろ上がるから、かき氷の準備をして貰おうな雛菊?」
すると雛菊の嬉しそうな声が聞こえる。
その声をもっと聞きたいと思うようになる。
俺は自分では気付かない内に、雛菊に心を奪われて居た。
ーーカカシSideー
肉欲に溺れて居たカカシも一応は忍び、五代目からの緊急連絡を受けると、重い腰を上げ火影室に向かう。
途中テンゾウと合流し、一体何の用件で呼ばれたのか分からないまま、火影の登場を待つ。
するとドタバタと騒がしい声がしたかと思えば、ナルトと綱手の怒号が響く。
『縁談は断るって言ったんだよ!
俺は好きな奴が出来たんだ。だからそいつを幸せにしてやりてぇんだよ!』
『遊郭の禿だろうが!そんなの認めやしないって言ってるだろうがくそガキ!』
『何度言ったら分かるんだよくそババア!俺は雛菊を揚がらせて嫁にするって言ってんだろうが!!』
あまりの剣幕と雰囲気に俺とテンゾウが、二人が居る部屋に飛び込んだ。
「ちょっと何してるんです綱手様!」
俺が綱手様を止めテンゾウが、ナルトの身体を引き寄せる。
「何があった?落ち着けったらナルト!」
ナルトは息を荒げ、綱手を睨みつければ、女傑綱手も戦闘体制。
「コイツが遊郭の禿なんかを嫁にすると言ったから説教してただけさ!」
「雛菊を蔑む様に言うんじゃねぇ!くそババア!」
「なんだとぉくそガキ!いっぺん地獄でも見せてやろうか?!」
「おう!ヤレるもんならヤレ!ケチョンケチョンにしてやる!」
訳の分からない展開では有ったが、ナルトに結婚したいと思う人が出来た事にショックを受けた。
俺と付き合い、浮気を知ろうが、浮気現場を目撃しようが飄々として居たナルトが、今は全身を震わせ好きな人を蔑む言葉に怒りを現している。
こんな姿…初めて見た。
本当に初めて見た姿に、俺の胸は張り裂けそうになる。
今だ続く口論は耳には入っては来ない。
『なら鈴華姫と結婚した後その禿を揚がらせ愛人にでもすれば良いだろが!』
『くそババア!何回言ったら分かるんだこの野郎!俺は雛菊と家庭を作りたいって言ってんだろ!』
ねぇナルト…、もう俺はお前の心の中には居ないの?
違う…初めから俺はナルトの心の中に居なかったの?
教えてよ…ナルト。
ーーナルトSideー
綱手のバアちゃんに遊郭に入り浸って居る事を咎められ口論になった。
だから俺は本音を言えば、バアちゃんの眉間のシワが深く刻まれてゆく。
途中バアちゃんは緊急連絡を入れた事を怪訝に思い俺は荒げた声を上げた。
「まさか雛菊に何かしようとか考えてねぇよな綱手のバアちゃん?!」
「馬鹿言え!遊郭で働いて居るとはいえ幼子に誰が手を出すか!お前の考えを改めさせるだけだ」
「俺は気持ち偽るなんてしねぇぞ?!舐めんなよくそババア!」
「くそガキは黙ってな!お前はその禿に同情してるだけだ。同情と恋情は違うからな!」
確かに最初は同情して居たのかも知れない、幼い頃の自分が思い重なった。
大人達に怯える日常はナルトも経験が有ったからだ。
「同情…だったのかも知れない最初はな…。だけど…愛しいって思うようになって、今は幸せに笑って欲しいって思うから…」
「それは恋情じゃない同情の延長だ!
中途半端な思いは捨てちまいな!」
「だったら鈴華姫も同じじゃねぇかよ?!俺が気持ちが無いのに鈴華姫は幸せになれんのかバアちゃん?」
綱手のバアちゃんは頭を抱えるとため息をつく。
「火影になるならネームバリューは必要だよナルト?
もし何のネームバリューの無い禿が火影の嫁になってみな?
この国そして里は潰れる、いや潰される」
「くっ…なら火影なんて夢捨ててやるよ!」
堂々巡りの口論が続き綱手のバアちゃんが、壁を叩けばひび割れる。
若干怒らせるのは恐いのだが、気持ちを偽るなんて出来はしない。
激しくなる口論を遮る様に、カカシ先生とヤマト隊長が現れる。
ヤマト隊長に押さえ込まれた身体は、見る見る内に力が抜けてゆく。
バアちゃんはそんな俺の様子を一瞥すると、カカシ先生に何かを告げる。
カカシ先生は一つ頷くと、俺を悲しげな瞳で見つめる。
なんか嫌な予感しかしねぇ…。
ーーカカシSideー
何とか冷静を努め、綱手様の言葉を聞き頷き、テンゾウに目配せする。
結局はナルトが禿を諦めるまで監禁しようって話しらしい。
期間は無期限…根性勝負と言った所だろうか?
用意された部屋に入れば、外側から結界をテンゾウが張る。
俺とナルトはと言えば何も話しはしない。
ナルトはベッドに転がると窓から外を見つめ、小さな声で呟いた。
「雛菊…」
何て声を掛けたら良いか分からず、気まずさのあまり愛読書を開き読むフリをしながら、ナルトの様子を伺う。
ねぇ…ナルト俺を思ってそんな風に声を出してくれた?
俺は付き合ってた頃は何度もそんな風にナルトの名前を呼んでたんだ…。
だけど…どこで間違えちゃったのかな俺達…、付き合えば付き合うほど心が離れてゆくのを感じて俺は浮気をした。
何度も何度も浮気をして…ナルトに見て欲しかったんだ。
もっともっと…俺を見て欲しいって。
「は…ああ…」
後悔しても遅いのに、俺はため息を吐き出した。
「辛気臭えな…先生。気分落ちるからため息は止めてくれよ?」
本当に嫌そうに声を出しナルトは顔を歪め俺を一瞥する。
「あ…ごめんねぇ。なら何か楽しい話しでもしよーかナルト?」
「いい…アンタの口から惚気話しでもされちゃぁ気分悪いしな」
睨らまれる視線が痛くて、服の裾をギュッと掴む。
「あの…ナルト、そのごめんなさい」
「なにが?別にいい。アンタがヤラカシてくれなきゃ雛菊とは会えなかったから。オアイコだろ?」
ナルトの口から出る雛菊とゆう名前を聞く度に本当に胸が張り裂けそうだ。
「その…雛菊ちゃんと、ナルトは所帯を持つつもりなの?」
「ああ…、守ってやりたいって思った。
もっと色んな世界見せてやりてぇし」
「そう…雛菊ちゃんは幸せ者だね?ナルトにそんなにも思って貰え…て」
胸が苦しくて涙が出そうになる。
けれど散々ナルトを裏切った俺が、縋り泣き付く事なんて出来ない。
だからナルトに聞こえ無い様にに鼻を啜ると、こぼれ落ちる前に涙を拭う。
ナルトも忍び、俺の気配を感じたのか優しい声を掛けてくる。
「カカシ先生泣きそうな声出して大丈夫か?」
「う…ん。風邪かな?最近歳の所為か身体弱くなっちゃってねぇ」
「そうだな…俺もあと少しで21だしな。
先生は幾つだっけ?」
「30代前半…」
「おいおいゴマかすのかよ?!」
ナルトの明るい声に救われる。
「雛菊ちゃんと結婚して子供出来たら俺にもちゃんと見せてちょうだいね…ナルト?」
「おう…、だが子供が女の子だったら先生には絶対近寄らせねぇ!」
「うっわ!酷いなナルトったら…さすがに先生稚児趣味無いからねぇ」
「どうだかな!まあ子供が出来たら先生に真っ先に見せるよ…約束する」
けれど、ナルトと雛菊ちゃんの子供を見る約束は果たされる事はない。