本棚 4

□龍を護る者
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『あの糞ガキ!どこ行きやかった!!!蒼獅さんの客を寝取りやがって』

路地裏に逃げ込み、息を潜ませる。

人の気配が無くなり、しゃがみ込み汚れたスーツの砂を払う

「いちいち客を取られた位で騒ぎやがって。なら管理しとけよ馬鹿共が」

悪態を付きながら煙草を取り出し火を付ける男は、顔付きは幼さが残るが体格もよく、雰囲気が大人っぽい

彼は神乃木荘龍、歳は22歳、今は大学へも行かずホストとしてブラブラと生活をしていた

今日も今日とて、先輩の上客を奪い取り、後を追われ一息ついた時だった。

スラックスに入っていた携帯が路地裏に鳴り響く

見に覚えの無い番号だったが、店の客かも知れないと思い通話ボタンを押すと、まったく覚えの無い男の声が聞こえてくる


『初めまして、私は神乃木組の細川と申します。』

『神乃木組だ?一体何の用だ?俺は縁を切ったはずだ』

神乃木の問いに男は少し声のトーンが変わると、泣きそうなか細い声で言葉を続ける


『若が…成歩堂の兄貴が先程息を引き取りました』

その言葉に吸っていた煙草が地面へと落ちていく


それはスローモーションの様にゆっくりとゆっくりと地面に落ちる

『坊ちゃん?聞いてますか…これから遺体を屋敷へ運びます、良かったら坊ちゃん最後に兄貴を見送って下さい。
ずっと貴方を心配なさってましたから』

それから男との電話は切れ、地面へとしゃがみ込む。

携帯を開けば、画面にはニュース速報が届く

力無くボタンを押してみれば、画面に映し出されたトップニュースの見出し

【関東巨大組織、神乃木組若頭が逝く】

「本当に…死んだのかよ。」

小さな頃からの世話役だった、兄の様に慕った人。

お人よしで、鈍感で…言ったら切りがない。

いつの間にか涙が頬を伝う。

携帯を握りめ神乃木は立ち上がり、もう一度しっかりと砂を払い路地裏から飛びだし走る

あの人をちゃんと見送る為、一度は縁を切った屋敷へと向かう為に

大きな通りに出れば、多くのタクシーが順番待ちをしていた

タクシーに乗り目的地を伝えると、運転手は顔を強張らせるが、金を多く払うと言えば渋々車を走らせる

屋敷に着く迄の間、ホストクラブの支配人に理由を説明し休みの許可を取る

タクシーは都心から離れた広大な屋敷の手前で止まる。

そこには多くの報道陣や警察がいた。

そして続々と黒塗りの高級車が門を潜り屋敷へと入っていく


「おっお客さん?本当にこんな所に用があるのかい?!
此処ってさっきニュースで流れてた人の所だろ!大丈夫かい?」

神乃木は懐から数枚札を取りだし運転手へと渡す

「あぁ、釣りはいらないから。
さっさとドアを開けてくれ」

その言葉に運転手はドアを開くボタンを引くと、もう一度神乃木を見る

「そんな心配しないで平気さ、俺はこの屋敷で生まれた事実は変えられないからな」

車を降り、報道陣やら警察が居る門ではなく、裏口へと向かう

そこには、報道陣はなく居るのは警察だけだ。

「アンタここの関係者っすか!」

よれよれのトレンチコートを着たヒゲ面の無骨な男が声を神乃木にかける


「そうだが、何か用かよ」

すると男は懐から瓶を取り出すと、神乃木に押し付ける

「はっ?いらねぇよ!」

突き返そうとすれば、ヒゲ面は言葉を続けた

「アンタにじゃないっす!ただあの男の仏前にこれを備えてほしいっすよ…、たくさん世話になったんっすよ」

その言葉に瓶を受け取ると、神乃木は裏口から屋敷へとはいってゆくのだ。
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