本棚 4
□のーたいとる
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『ゴドーさん…が…。
僕は貴方が好きでした。』
まだ若かりし頃に伝えた一世一代の男への告白。
ゴドーさんからの返事なんて分かりきっていたから、僕は思いだけを伝え…その場から逃げ出した。
赤く光るバイザー越しの仮面の下で、貴方が一体どんな表情をしていたかは分からなった。
だけど僕が背を向け歩き出すと、後方から聞こえてくる声に胸がきつく締め付けられ苦しくなった。
『成歩堂…!』
普段ならば“まるほどう”とか名前を呼び間違える癖に、あの日に限り一字一句間違えず貴方は苦しげな声で…僕の名前を呼んだ。
あの別れの日からもうどれくらい時間が過ぎたのだろうか?
ぼーっと顎に手を当て外を眺めていれば、オデコ君こと王泥喜が怪訝そうな顔をしなが僕に声をかけてくる。
もう少しだけ過去の記憶にトリップしていたかったが、若き青年に視線を向けた。
「んっ…どうかしたオデコくん?」
「オデコじゃない王泥喜ですってば!
成歩堂さんが妙なあだ名付けるから、最近じゃ皆して俺の事をオデコとか呼ぶんですよ!」
「あははっ…良いじゃないか、沢山の人に名前を覚えてもらって、事務所のアピールしてきてよ。」
プンスカと頬を膨らませるオドロキを見ていると、若かりし頃の自分を思い出してしまい思わず笑えてしまう。
「何笑ってるんですか!」
「ふっ、君を見てると若い頃の自分をつい思い出してしまってね」
今日に限って何故こんなにも貴方の事が頭に過るのだろう。
もう忘れたはずなのに…。
自分の気持ちを一方的に伝え逃げたあの日に忘れると決意したのに…。
なんで貴方への想いや感情は今も消えないのだろう。
「成歩堂…さん?」
貴方との美化した思い出に浸り、またぼーっとしてたらしく、オデコ君は首を傾げ僕の名前を呼んでいる。
「大丈夫です…か?」
「うん、大丈夫。
でもさ(好きって感情は)何年経っても消えないみたいだよ、オデコくん?」
「はぁ…?全然意味分からないですよ!心配して損しました!!」
「へぇ…心配してくれたんだ王泥喜君」
たまに若き青年の名前をきちんと呼べば頬が赤く染まっていく。
「っ〜、卑怯…です」
「歳を取るとさ、卑怯になるもんだよ覚えておきなオデコ君」
ニィッと笑いオデコ君の腕を引き抱き寄せる。
「からかうの止めて下さい!セクハラです!」
身体を抱き寄せ首に顔を埋め肌に吸い付き、耳たぶを甘く噛みそっと囁きかける。
「ねぇ、王泥喜君」
「っぁ…んくっ…」
大人はさ卑怯なんだよ王泥喜君…。
気持ちは他に向いてるのに、卑怯な大人は嘘をたくさんつき罪を重ねるんだ。
「“偽りの世界に連れてって…龍一さん。”」
快楽に弱いオデコ君は瞳を潤ませると一筋の涙が頬を伝う。
そしてか細い消え入りそうな小さな声で囁いた。
クスリと笑みを浮かべ頬に伝う涙を舌先で舐め取って言葉を紡ぐ。
「好きだよ…法介」
「龍一…さん」
「そろそろ夢の世界に行こうか?」
男にしては艶めいた口唇を塞ぎ啄むようにキスをする。
口唇を合わせながら若き青年の腰を引き寄せ深いキスを交わしてゆく。
キスに不馴れな青年の薄く開いた口唇に舌を入れ、熱い口腔の透明な甘い蜜を吸い取りながら、ざらついた舌で口蓋や歯列を丁寧舐めれば、若き青年の口唇から甘い吐息が聞こえ出す。
「んぅっ…、は…ぁ、んんぅ!」
「ンっ…、早く…忘れてしまうとイイよオデコ君」
あの人を忘れられないのに、僕はそれでも酷な言葉を君に囁く。
そして傷付いた君の心に愛の言葉を捧げ、身体には極上の快楽を与えて上げる。
「ひっ…ぁ、…せんせ、…っ」
「法介」
口唇を離せば透明な蜜が一糸になり照明に照らされ輝き見える。
ソファに押し倒しトレードマークである髪を軽く撫で、額にチュッと音を立てキスを落とす。
潤んだその瞳に僕がちゃんと見えてるのかな?
「せ…んせ…」
「先生じゃないだろオデコ君?」
肌に吸い付きながら舌を這わせ首筋を舐めあげながら囁きかける。
「ひ…ぅ、り…ゅいち、さん」
「上出来…。ご褒美を上げる」
偽りの世界ではなく夢の続きを一緒に見よう。
『まるほどう」
低く掠れた甘い声が脳裏に谺する
ゴドーさん。
一度だけ口唇を重ね合わせたあの日を思いだしながら、僕は若き青年の口唇を塞ぎノスタルジックに浸る。
若き青年の口腔からコーヒーの味はしないが、いつも以上に舌を絡め口唇を合わせていると苦し気な声が漏れ聞こえるのだった。
*ナルナル攻めを描きたいが為、オデコ君に登場して頂きましたが…
最終的にはハッピーエンドでゴドナルになります。
(JOKER設定も好きなんですけどね…)