記念本棚

□白龍と黒龍
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《プロローグ》

古の地にて神とされた白龍と黒龍の話しを此処で聞けるとは本当なのだろうか?

そう尋ねれば白龍の神子はコクりと頷くと、ニコニコと笑いながら代々受け継がれる白龍の話を饒舌に語り出す。


逆に黒龍の地に赴き同じ事を聞いて見れば、黒龍の神子は表情を歪めながらも声色は酷く冷たかったが話してくれた。

白龍の神子と黒龍の神子の話しを聞いてみて、一つだけ分かった事があった。

伝承が違うとしても通ずる白龍の話には胸を打たれた。

白龍は多くの人を愛し人の為になるならば、己の身を犠牲にまでしても命あるかぎり人間の味方で居ようとした。

そして黒龍の話を聞いた時には胸は痛み、人間とは醜く身勝手な生き物なのだとも実感した。

黒龍は白龍を騙し楽しようとする人間達に憎悪を抱き、命尽きる時には最後の力を振り絞り白龍を騙した人間達に罰を与えた。

神と崇められた白龍と黒龍の最後はどうなるのだろうと語りを聞いていれば神子達は一字一句違わず同じ言葉を紡ぐ。

『『黒龍にとって白龍は唯一の光だった。

だから人間に殺される前に…黒龍は弱りきった白龍を喰らった(のだ)』』

白龍は最後まで人間を愛しすぎた。

黒龍は白龍が愛した人間を憎しみ続けた。

結果、黒龍は白龍を喰らい命尽きる時には人間達に復讐した。

神話とは悲しい物語が多い、例えばギリシャ神話などでもそうだ。

神ゼウスの手癖の悪さに、妻は嫉妬し怒りゼウスが手を出した女や男達に罰を与え復讐しようとするなど数々の有名な話がある。


話がそれてしまったが、最後にどうしても聞かなければならない事がまだあった。

『白龍と黒龍が再び復活するって話し聞いたのだけど?
それは本当なのかい?』

そう問えば白龍の神子は酷く悲しげな表情をしながらも静かに頷き。

黒龍の神子は口角を上げるとシニカルに笑う。

『黒龍は何度も目覚めてるゼ
龍としてではなく人間となり社会の中で生きている』

『白龍は黒龍に喰らわれてから一度も目覚めていません。
白龍はきっと待っているんです。
黒龍が人間達を許し、自分と同じように人を愛する日が来るのを待ち続けてるのです。』

まさか神が人間社会の中でも転生し生きているなどとは驚きは隠せない。

『どうして白龍はそんなにも人間に固執するんだ?』

人間風情には分からない事だらけだ。

『どうしてでしょうね?
それだけは私達にも分からないんですよ。』

白龍の神子は話し終えると、白龍の魂が祀られているとされる泉へと案内してくれた。

場所はそう遠くなく歩いて15分ほどで泉に到着する。

白龍の神子は神聖な泉の畔で膝を付くと、澄んだソプラノボイスで美しい歌を奏でた。

黒龍の地では泉などはなく険しい山に連れて行かれただけだったので驚きは隠せない。

歌詞はよく分からなかったが昔の言葉なのかも知れない。

心地よい声がピタリと止まれば、一陣の風が吹き森がざわめき出す。

他にも小鳥や小動物まで現れだし目を疑ってしまう。

『もう少しだそうです』

『へっ…え?』


白龍の神子は立ち上がると、自分に言葉を投げ掛けてくる。

『白龍がね少ししたら、この地に戻ってくると言っています』

神子は振り返るとニッコリ笑う。

『き…きみは、白龍と…言葉を交わした、の…か?』

『はい、それが神子のお仕事ですから。』

ある種の都市伝説的な話だと馬鹿にしていたあの頃。

あれからもうどれだけの月日が経過したのだろう?

私は鏡を覗き込み皺の増えた顔を見つめた。

「黒龍は人を許せたのだろうか?」

白龍は目覚めこの地に戻って来たのだろうか?

物思いに考え込んで居ればバタバタと足が聞こえてくる。

どうやらひ孫が幼稚園から帰ってきたらしい。

『白龍はね…きっと…×××れ…る』

別れの際に言われた言葉が頭を過る

「はて…なんだったか?」

モヤモヤとして何だか気持ち悪いが、何度思い出そうとしようが分からなかった。


白い美しい龍が空を泳げば、後を追うように黒い龍が空を舞う。

身を絡ませながら空を舞う光景は吉兆の証。

黒龍が地を這うように泳ぐ年には必ず災いが起こる。

黒龍の怒りに触れた地は暗黒、光さえ差さない闇は人々に飢餓をそして恐怖を与える。

そうなれば人々はいつものように白龍の名を叫びながら、空に向かい祈りを込めた。

だが時は遅く白龍は黒龍の腹の中。

どんなに叫び願おうが白龍は姿を現さない。

黒龍は命尽きるまで暴れに暴れ、人々の命を奪い続け復讐を果たす。

白龍と黒龍が消えた地に光が差すのは、黒龍が再び白龍に出会い恨みが消えた時…。

白龍と黒龍の物語はこれから始まろうとしている。


プロローグ END
 

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