本棚 3
□惚れた弱み 2016年夏
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2016年 4月
この地獄の高校は半寮制であり、通学が不便な生徒は皆学校近くにある寮で暮らしている。
ちなみにサンジは寮生活を強いられていた。
右を見ようが左を見ようが男しか居らず、女の子が近くに居ない生活に嫌気が差していた。
身嗜みを整え部屋を出れば群れる野郎(カップルだったり)の数々が目に映る。
可愛いらしい?生徒とガッチリムッチリ男子生徒がお手手を繋いでいたりと、朝から大変目にも心にも悪い物を見てしまったサンジの眉間も心も大惨事だ。
朝食を取るため食堂にサンジが足を踏み入れた瞬間、ぎゃーっやらきゃーと黄色く野太い声がする。
『『好きですサンジくーーん!』』
やら
『『サンジの兄貴!!俺を蹴っ飛ばして下さい!』』
などなどちょっぴり可笑しい声を掛けられる。
だがサンジはそんな声をさらっと無視して食券を買うと厨房の兄ちゃんに渡した。
「お待たせ」
暫く待って居れば厨房の兄ちゃんが皿に盛られたサンドイッチをトレイに乗せた。
「どうも」
ぶっきらぼうに礼を言い席を探す。
サンジが歩けばどこからともなく声を掛けられるが、無視しあえて人が寄り付かない席に腰を下ろした
人が寄り付かない席すなわち、そこを普段陣取る野郎はこの学園で恐れられた存在。
サンジとその人物は知り合いだったので、この席に座っても何の問題はなかった。
もくもくとサンドイッチをほうばり、あらかた食べ終えた頃にこの席を陣取る野郎が現れた。
「アゥ!今日もスーパーかこの野郎!!」
今日も無駄に元気な顔見知りは、きっちりリーゼントを整えアフロシャツを派手に着崩していた。
「朝からウルセェよバカンキー!」
「オウオウ!言ってくれるじゃねぇーかよサンジ」
コーラをグビビと飲み椅子に腰を下ろしたバカンキーこと、学校一の不良と恐れられているフランキーは手下に命じて朝飯を買いに行かせた。
「今日も随分と機嫌悪そうじゃねぇか?」
「分かるだろうが此処は俺にとっちゃ何にもねぇ地獄だ。」
ガシガシと髪を両手で掻きため息を吐き出した。
「女か?
女なら俺様が幾らでも調達してやるぜ」
悪い顔してコーラをグビビと飲みフランキーは言うが、サンジは力なく首を横に振った。
「お前が紹介してくれる女…あれは俺には上等すぎるぜ」
遠くに視線を向けサンジはふぅっと息を吐いた
以前サンジは女日照りに耐えきれず、フランキーに女の子を紹介してもらった事があった。
フランキーいわく誰もが振り返る程の美女を紹介してやると言われ、サンジはフランキーの言葉を信じて期待して待ち合わせの場所に向かった。
待ち合わせ場所には予定の時間より30分も早く着いてしまった
久しぶりの女性。
フランキーが太鼓判を押した麗しの美女。
どんな女性が俺の名前を呼んでくれるのか?
その声は可愛らしい感じなのか?
それとも大人っぽい凛とした声を持つ人物なのか?
想像という名の妄想をしてぴくぴくと鼻を膨らませていれば、背後から自分の名を呼ぶ声が聞こえた。
少し予想とは違う低い声ではあったが、もしかしたら風邪を引いてるのかもと思い込み。
俺は事前に聞いていた名前を口に出し振り返った……………………………………………。
ふくよかと言えば聞こえはいいが、少しと言うよりカナりふくよかな女性が白いワンピースに身に纏い立っていた。
まん丸のお顔に小さなオメメがあり、お鼻は少し上に向いていて口唇がやけに厚い。
『おっ…おお…えっと』
『うふふっ、貴方がフランキー君が言ってたサンジきゅんね』
女性には優しくをモットーに騎士道を貫くサンジ
だが上手く口を動かす事が出来ず相手の言葉に頷く事しか出来なかった。
『聞いたわよ。
女日照りが続いてて欲求不満なんでしょう?
うふふ、お姉さんが今日はタップリ可愛がって上げるわ』
『あっ…その』
『あらあら緊張してるの?大丈夫よホテルに行ったらね…うふふふ!』
この後サンジは訳も分からぬ理由をツラツラと並べこの女性から逃げ出したのだ。
「そういやオメぇは醜女のが良かったんだったな。」
こいつ何言ってんだろう?
なんて思いながらサンジはとりあえず話を流す事にした。
「まあ、お前が望む女は紹介してやれねぇが、近々面白い奴が転校してくるからよお前にもそいつを紹介してやるよ」
「転校生?やれやれこの地獄にまた野郎が増えるのかよ」
「ククッ、本当に面白い奴だからお前も気に入るさ」
「俺が野郎を気に入るね…。ねぇわ…絶対にない。賭けてもいい」
どんな奴が来ても気に入らない自信があった。
「ほう、なら賭けるか?」
「イイゼ。やってやるよ」
だが皆もう知ってるよな?
俺はフランキーとの賭けに見事に負け二年分のコーラ代を支払う事になる。