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□惚れた弱み 2016年夏
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2016年 4月下旬
今日も今日とて朝っぱらから黄色く可笑しな声を掛けられる。
いつも通り食券を厨房で渡した後、料理が出来上がればいつもの席に座った。
あらかた食事を終えればこれもいつも通りでフランキーがやって来る。
「アゥオウ!今日もスーパーかこの野郎!」
「毎回ウルセェんだよバカンキー!」
「何でい何でい今日も一段と機嫌が悪そうだな」
機嫌が悪いサンジに対し今日のフランキーはやけに機嫌が良いようだ。
「なんだよお前?
何か良いことでもあったのか?」
「アゥ!そりゃぁそうよ!何たって俺のマブダチが今日転校してくるからな」
「転校生?
ああ…確かに前そんな事も言ってたな」
「オウオウ、まさか賭けの事も忘れてるとは言わねぇよな?」
そういえばそんな話もしたな…。
まぁ、今まで忘れてたけど。
「あぁ、忘れてねぇよ。お前が賭けに買ったら二年分のコーラ代を払って、逆に俺が勝てばお前が二年分の学食代を払ってくれるんだもんな?」
「オウ!まぁ、言うまでもねぇが賭けに勝つのは俺だがな」
「はっ…言ってろバーカ。俺が野郎を気に入る訳がねぇ」
ふんと鼻を鳴らしサンジは自信満々に言い切り、フランキーはニヤリと口角を上げて笑うのであった。
フランキーと別れたサンジは鞄を取りに一度部屋へと戻り学校へ向かう。
ホームルームが始まるのは8時30分からだ。
寮から学校迄の道程はゆっくり歩いても10分も掛からない。
だが下駄箱にはちょっとした嫌がらせがある為サンジは少し早めに部屋を出る。
下駄箱で靴を脱ぎ上履きを取ろうと蓋を開ければ、ひらりひらりとピンク色やら可愛らしい封筒が落ちてくる。
これが共学の学校ならばサンジは奇声を上げて喜んだだろう。
だが此処は残念ながら地獄の男子校である。
可愛らしい封筒の中にはきっと恋文が書かれているだろう。
どんなに丸文字でも可愛らしく書かれた手紙だとしても送ってくる相手は男だ。
サンジにとっては嫌がらせでしかない手紙。
そんな手紙を読む訳もなく落ちてきた物そしてまだ中に入っていた手紙を取りだし上履きに履き替える。
ローファを閉まって近くにあったゴミ箱に手紙を捨て教室に向かう。
そう向かう筈だった。
歩き出そうとすればグィっと腕を引っ張られる。
「待てよ。
これってお前の為に書かれた手紙だろ?
読まずに捨てるのは書いてくれた相手に失礼じゃないのか?」
自分を誰だか知らないアホウがこの学校にいるとは思わず捕まれていた腕を思い切り振り払った。
「触るんじゃねぇ。そんな台詞まで言って俺の気が引きたいのかよ?気持ち悪いんだよホモ野郎」
「何言ってんだお前?俺はお前の事なんか知んねぇーし。気も引きたくないしちなみにホモでもねぇよ」
まさか自分に言い返してくる奴が居るとは思わず、いまだ自分を引き留めようとする相手を見るためサンジは振り返った
そこに居たのは自分より身長は低いものの、何も染まらぬ黒い髪と正義感の強さを感じさせる眼を持つ人物が立っている。
「誰だお前?」
「俺はルフィ。
んでアンタ手紙どうすんだ?」
媚びる素振りもせず物怖じしない物言い、そして眼を見て話す姿に少しだけ好感を感じた。
「お前には関係ないだろ。…しかし聞いた事もない名前だな」
「ヒデェ奴だなお前。
まぁ、アンタ俺を知らないのは当然だよ。
だって今日転校してきたから」
ヒデェ奴だと言いながら頭の後ろで腕を組んだルフィは人好きする笑みを浮かべた。
これがフランキーが言ってた転校生。
『面白い奴だからお前も気に入るさ』
確かに奴の言う通りこの転校生は面白い奴なのかもしれない。
だが気に入ったかは別だ。
「んでアンタゴミ箱に捨てたそれどうすんだ?」
「さっきも言ったがお前には関係ない。」
「確かに俺には全く関係ない事だけど、手紙を書いてくれた相手が可哀想とか思わない?」
「はっ、手紙を書いてくれた奴が可哀想だ?
毎日毎日下駄箱に見知らぬ野郎から手紙を入れられてる俺のが可哀想だと思うがな」
サンジはルフィと名乗った転校を睨み付け、今まで誰にも言った事がない思いをぶちまけていた。
「んーにゃ確かにアンタが言う意味は分かるけどさ。
アンタ一度でも好意を寄せてくれる奴等に面と向かって嫌だって言った事あるのか?」
人好きする笑みを浮かべつつ、転校生は何もかも見透かすような黒い瞳を向けサンジをじっと見据えた。
その力強い瞳と物怖じせず言い切る姿にサンジは何もか言えなくなった。
「っ…」
「その様子だと無いみたいだな?
ならよ一度くらい話し合ってみなよ。
きっとアンタの気持ち分かってくれるはずだぜ」
ニィっと深い笑みを浮かべた転校生はゴミ箱に腕を突っ込んだ。