迎春2011

□《ヒーロー見参》
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《ヒーロー見参》









 年末年始もイベントやらテレビやらに引っ張りだこな万丈目サンダーに休む暇などない。疲れを溜め込みながらも童美野にある有名な寺を舞台に行われたデュエルイベントに出た万丈目は、困惑気味に空を見上げた。息は白く染まり、夜空を隠す曇天からはふわふわした牡丹雪が降っている。野外フェスで大雪とは。
 こんなに寒い大晦日を過ごした事はあっただろうか。
『次のデュエルは、お待ちかね!真っ白な雪の精と見紛わんばかりのデュエリスト、万丈目サンダーだ!』
 MCの言葉に万丈目はため息を飲み込んで不敵な笑みを浮かべた。怒声の如きファンの声援に手を振って応える。対戦相手は万丈目と同ランクの新人デュエリストだ。MCによるとアメリカアカデミア卒のエリートらしい。目にもの見せてくれようと、万丈目はデュエルディスクを起動させた。
『アネキぃ〜ん!』
「なんだ?今からデュエルだぞ?」
 万丈目の精霊であるオジャマイエローが姿を現し、話しかけてきた。不安そうにきょろきょろと辺りを見回している。いったい何事だろうかと思うが、特に怪しいものもない。
「サンダー、君みたいな人とデュエル出来て光栄だ」
 うっとりと対戦相手が語りだし、万丈目は怪訝な顔をする。
「さぁ、デュエルで愛を語らおう!」
「……貴様が何を言っているのかわからんが、いいだろう」
「「デュエルだ!」」
 先行は万丈目。手札にさっと目を通す。モンスターゾーンに一枚、トラップに一枚伏せてターンエンドした。
「僕のターン」
 ねっとりとした嫌な視線に、万丈目は目を眇める。
「僕はブラッドヴォルスを召還、攻撃する!」
「っ!」
 伏せていたのはアームドドラゴンLv3。呆気なく破壊された。だが、万丈目には伏せカードがある。
「トラップ発動!『道連れ』を発動する!貴様のブラッドヴォルスは破壊される!」
 ブラッドヴォルスも破壊され、墓場へと送られる。しかし、対戦相手はにたりと笑い舌なめずりした。
「僕は二枚カードを伏せてターンエンド」
 何か嫌な感じのするデュエルだ。
「俺のターンだ。ドロー」
 引いたカードはサイクロン。手元にあるのは早すぎた埋葬、アームドドラゴンLv5、強奪だ。
「マジック発動!早すぎた埋葬を発動する!アームドドラゴンLv3を召還する!」
 墓場からモンスターゾーンへとカードを戻す。
「アームドドラゴンLv3を生贄に、アームドドラゴンLv5を召還する!」
 アームドドラゴンLv5が鼻息荒く立ち上がった。相手のモンスターゾーンは空だが、まだ油断は出来ない。
「攻撃だ!」
「残念。トラップ発動!レベル制限B地区を発動する!残念ながら君のアームドドラゴンは沈黙せざるを得ない」
 Lv3ならダイレクトアタック可能だったのに、などと対戦相手はうっそりと笑った。万丈目は舌打ちし、手を下ろす。
「ターンエンドだ」
 万丈目の言葉に満足したように対戦相手は鼻を鳴らした。
「僕のターン。ドロー!」
 モンスターゾーンに一枚セットする。
「魔法発動。終焉のカウントダウンを発動。ライフを2000ポイント払い、これより20ターン後、僕は必ず貴女に勝利する」
 にたりと笑う。その薄ら寒さにぞっとし、万丈目は自分の体を抱き締めた。これは雪のもたらす寒さとは、違う。
 ふと気付く。
 静かすぎる。
 いくらデュエルに集中していると言っても、こんなに静かな事は有り得ない。異常だ。そう思い視線を走らせる。
「!?」
 辺りは闇と雪に覆われていた。大観衆も、何も見えない。これは、まさか……。
「貴様、いったい」
「あはははは!僕が誰かなんてどうでもいいでしょ!それより早く僕のものになってよ、ねぇ」
 猫なで声にぞわりと鳥肌が立つ。こいつに負けるといったい自分はどうなるのか。万丈目はおののいた。
『アネキぃん!このままデュエルするのはマズいわぁん!』
 デッキから飛び出してきたオジャマイエローに、万丈目は苦い顔をする。
「わかっている!だが今更始まったものは止められないだろう!」
「そういう、お前の勢いあるとこ好きだぜ?」
 不安を吹き飛ばすような響く声に、顔を上げた。万丈目の胸に、わずかな安堵がもたらされる。空から影が降ってきたかと思うと、ダアーーーン!と音を立て両足で降り立った。よく見知った男はお決まりのポーズを決めた。
「ガッチャ!ヒーロー見参だぜ!」
 遊城十代。学生時代からの腐れ縁だ。相変わらずの赤ジャケットは彼の代名詞とも言えるだろう。
「十代!貴様、遅いぞ!」
 ほっとしたのが恥ずかしく、万丈目は久しぶりの再会にも関わらず、憎まれ口を叩く。万丈目の気持ちがわかってしまったらしい十代はにやにやし始める。
「万丈目ってマジで」
「さぁ、君の番だ!」
「邪魔すんなよいいとこで!」
 ヒーロー出現など関係ないらしい対戦相手に十代が目をつり上げ噛みつく。
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