迎春2011

□《アフターパーティー》
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《アフターパーティー》









「万丈目か」
 名前を呼ばれ、万丈目は振り向いた。見れば光沢のある値の張りそうな白いスーツの青年。シルバーブロンドに冷たく感じさせるほど整った顔。
「エド!」
 驚く万丈目にエドはサービスドリンクをボーイから二杯受け取り、万丈目に渡した。
「何も驚く事はないだろ。僕は千里眼の会長から招待状をもらったのさ」
 当たり前だと笑う色男に、万丈目も納得する。セレブの開いたパーティーで、万丈目は次兄の正司に女を誘うのは面倒だからとエスコートパートナーとして連れてこられたのだ。長兄は正月早々忙しいらしく、家を開けているらしい。支援者を集めた決起集会だかなんだかやっているのだそうだ。
 こんなパーティーで知り合いと顔を突き合わせる羽目になるとは思わなかった。年末年始はダメだと兄達にごねられ千里眼の会長には無理を言って休みをもらっている。エドはイベントなりテレビなりに顔を出しているものかと思っていた。いや、会長から言われてパーティーに出たのならこれも仕事に入るのか。
「へぇ、そんな格好するんだな」
 髪の先からつま先まで全身じろじろ見られ、万丈目は居心地悪く感じる。今日は胸元までのドレスを着ていた。ペチコートでふわりと浮かせた可愛らしい形だが色はシックな黒。高いピンヒールを履いた足はすらりと長い。
 エドは感心して万丈目を見やる。今まであまり意識した事はなかったが、確かに彼女からは育ちのよさがうかがえる。英才教育を受けていたというのも本当だろう。高いピンヒールでも姿勢は崩れず、女性らしさを強調している。ドレスは大胆だが、彼女の品性を奪うものではない。カクテルグラスを持つ指先も優雅だ。
 前から綺麗だとは思っていたが……。
 エドはふっと口端を上げた。
「テラスへ行かないか?」
「え?ああ、構わないが」
 万丈目がちらと視線を走らせた先には万丈目に面差しの似た青年。セレブに囲まれ離してもらえないでいるようだ。万丈目に近付くエドを敵ととらえているらしく、随分な目つきで睨んでいる。
「お前もパートナーを連れて来てるんじゃないのか?」
「ああ、エメラルダに頼んだ。彼女は仕事をしているよ」
「仕事?」
「千里眼グループの株主達へのおべっかさ」
 エドの言葉に万丈目はなんとも言えない顔をした。どんな業界でも大変なのだ。兄達の苦労がうかがわれた。
「彼も忙しそうだし、構わないだろ?」
 エドが正司がパートナーだと気付いていた事に驚き、万丈目は猫眼を大きくあけた。品よく振る舞う彼女は美しいかもしれないが、このくらい愛嬌がある方がエドの好みだ。さっと手を取り歩き出した。フィンガーフードの置かれた台をすり抜け、ひとけの少ないテラスへと出る。キンと冷たい空気が酒に火照った体に気持ちいい。外には雪が舞っている。エドは万丈目の手を離し、正面から向き合った。
 カチン、とグラスをあわせた。
「運命の夜に」
 エドは真っ直ぐな眼差しを向ける。
 いつだったか言っていた、エドのDヒーローの意味の一つ。万丈目は惹きつけられるように、目を離せずにいる。
「雪の夜の再会に」
 グラスを口に運ぶより早く、エドの唇が触れた。
「     」
 広く豪奢な庭園に、花火が上がる。轟音と共に夜空に美しい花が描かれた。日付が変わると同時に花火を上げると聞いてはいたが、見事だ。新年を無事迎えられたらしい。
「今なんて……?」
 エドの言葉を聞き取れなかった万丈目は聞き返す。エドは眼差しを細めて笑う。万丈目と変わらないくらいプライドの高い男が、優しい笑みを浮かべていた。
 ぽかんと惚けた万丈目に、エドは囁く。
「幸せにしてやる。僕のものになれ」
 花火の光に照らされるエドに、万丈目は目を奪われたまま、そっと頷いた。









終劇

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