迎春2011

□《今年の抱負》
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《今年の抱負》









「明けましておめでとうございます」
 三つ指ついて挨拶をする万丈目にならい、翔と亮も膝を折り、三つ指とは言わないが手をついてこうべを垂れた。
「「あけましておめでとうございます」」
 満足したように微笑み、立ち上がると万丈目はまた台所に戻って行った。どうやら料理をしているらしい。家主である翔と亮より早く起き、家の掃除までしたようだ。初詣にも行くといっておいたからだろう、既に着物姿だ。まだ座ったまま、亮が感心したように腕組み顎をさする。
「出来た嫁だ」
「だね」
 なんて頷いてみせるが、万丈目は翔の嫁でも亮の嫁でもない。まだまだ友達以上恋人未満から抜け出せない関係でいる。ちなみに何故元旦から万丈目が翔と亮の住むマンションにいるかと言えば、翔が年末頼み込んだからに他ならない。元旦には休みをもらったと聞いていた翔はすぐに「料理が出来ないから来てくれ」と拝み倒したのだ。面倒見のいい万丈目はしぶしぶながらも請け負ってくれ、約束通り除夜の鐘が鳴るより前にやってきた。大晦日の年越し蕎麦も作ってくれたのだ。とても出来た女性だ。
「教養もあるし、デュエルも強いし、可愛いし」
 指折り数えて翔はため息をつく。
 気付いた亮は不思議そうに首を傾げた。
「それがどうした?」
「はぁ、まぁ、高嶺の花だなぁと思って」
 彼女を慕う人は多い。翔や亮には見えないが、カードの精霊に愛される彼女は希有な存在だ。同じように精霊が見える十代やヨハンが彼女を求めるのもよくわかる。と言っても当の万丈目は迷惑そうにしていたが。言い方は変かもしれないが、同族で一緒になるのはしごく自然だろう。
「お前はカイザーだろう?」
「そうです。そして兄さんはヘルカイザーです」
 亮はふっと笑って頷いた。
「今年はサイバー流プロリーグを軌道にのせるぞ」
 なぜか翔の背中をばんばんと上機嫌に叩く。
「そうしたら見劣りしないだろう。プロポーズすればいい」
「ぶっ」
 翔は吹き出す。どうやらバレていたらしい。やっぱり兄は侮れない。
「そうですね、今年の抱負にしときます」
 顔が火照るのをごまかすように手で押さえていると、ガラリと引き戸が開く。
「おい、雑煮出来たぞ?」
 ひょいと万丈目が顔をのぞかせる。
 そうだ、兄の言うようにサイバー流プロリーグを軌道にのせ、彼女につり合うような男になるんだ。身長だって、もう少しで追い付くくらい伸びた。きっと、隣に並べる。
「どうかしたのか?」
 小首を傾げる万丈目の肩を亮はぽんぽんと優しく叩いて行く。
「万丈目君!」
「な、なんだ?」
 ガシッと翔に手を握られ、万丈目はたじろいだ。得体の知れない迫力に押される。
「覚悟してて!」
 翔の満面の笑みに万丈目はますます首をひねるのだった。









終劇

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