迎春2011

□《ヒーロー見参》
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「これだから空気読めない奴は……」
 ぶちぶち文句を言う十代をよそに、万丈目の意志に反し、右手がカードをドローする。普通のデュエルではない事だけは確かだ。いろんなわけのわからない危険なデュエルもしてきたが、これはDA高等部一年の時に遭遇した闇のデュエルに似ている。負けたらどうなるかわからない。カミューラのように人形にしてしまうような輩もいる。或いは二年の時に戦った斎王戦のような囚われ方も有り得る。どちらにせよ、負けるわけにはいかないデュエルとなってるようだ。
 引いたカードは魔の試着部屋。オジャマが出たところで、攻撃力0では攻撃出来ない。せめて装備カードかサンダー・クラッシュがあればと万丈目は唇を噛んだ。
「マジック発動!サイクロンでレベル制限B地区を破壊する!」
「ふふふ、トラップ発動。マジックジャマーを発動する。サイクロンの効果は無効となる」
「ちっ!」
 失敗である。
「ターンエンドだ!」
「あと、19ターン」
 対戦相手がほくそ笑んだ。
「おい、お前ら俺を無視するなよ!」
 気にもとめてもらえなかった十代が間にわって入った。
「そもそも俺の万丈目にちょっかいだそうってのが許せないぜ!」
「貴様のじゃない!」
「そう、彼女は僕のものになる」
「貴様のものにもならん!」
「俺に喋らせろよ!見せ場なんだぜ!?」
 ガヤガヤしてきたところでユベルが手を挙げた。実はずっといたが、発言出来ずに待っていたのだ。
「なんだ?ユベル」
 万丈目が発言を促す。
『闇、が見えてる』
「闇?」
 万丈目が改めて対戦相手に目を向けると、背後の夜と重なり合う、確かな闇が揺らめいていた。言われるまで気付かなかった。
「このデュエルは無効だな」
 十代が肩をすくめた。
「無効なものか!邪魔をするな!」
 対戦相手が嫌悪も露わに罵倒する。十代もカチンときたらしく、表情が消え、両眼はユベルと同じオレンジとグリーンのオッドアイに変わった。
「お前だぜ、邪魔なのは」
 言いがかりに近い事を呟き、十代は思い切り対戦相手の顔面を殴り飛ばした。ずるりと闇がずれる。
「ユベル!」
『わかった』
 ユベルは倒れた対戦相手からずるりと闇を引きずり出した。揺らめく闇をそのままゴクリと飲み込む。万丈目が事態を見守っていると、雑音が戻ってくる。
「万丈目!」
「へ?」
 除夜の鐘が聞こえてくるより早く、がっちりと腰を掴まれ、体が宙に浮いた。十代の顔が、息がかかるほど近くにあった。
「デュエルは中止だぜ。アイツは明日にならないと起きない」
「それは、わかってる」
「だったらさ」
 周囲の闇が晴れるより早く、ユベルが漆黒の羽を広げ、十代と万丈目を抱えたまま空高く飛び上がった。冷たい雪空を悠然と飛ぶ。
「俺と朝日拝みに行こうぜ」
 万丈目が答えるより先に、煩悩まみれのヒーローに、唇を奪われたのだった。









終劇
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