【 お そ 松 さ ん 】
□第十九マツ
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サカキです。
最近悩みがあります。
えっと、一応カラ松君と交際する事になって、一週間は経過してます。
それでちょっといくつかの問題点があるんです……。
その問題は、今の食事中にも起こっているのだが。
お「ウ〜ン、美味いねぇ」
チ「ちょっとおそ松兄さん、食べ方汚いよ」
お「え? 何だよお母さぁん」
チ「お母さんって言うな」
ト「十四松兄さん、お茶取って」
十「はいっ!」
ト「危ないから投げないでっ!!」
最近では俺も一緒に食事を取るようになり、いつもと変わらず黙々とご飯を食べている。
だが一つ大きな問題があるのだ。
カ「フッ………」
『………………』
それはカラ松君がところ構わずモーションを仕掛けてくる事だ。
今も意味もなくウィンクをされた。
いや俺はそれにどう返せばいい? ウィンクをし返せばいいのか? ただのイタイ二人じゃないか。
席も席なのだが、以前十四松君に言われたまま彼の左隣に座っており、俺の左隣にカラ松君がいる状況。
ふとした瞬間に肩をぶつけてくるのは何なんだ?
あと、ちょいちょい近づいてくるのは何だよ?
カラ松君はアホだから分からないかもしれないけど、いきなり距離感が縮んだりしたら変なところでカンの良い六つ子がいつ気付くのかも分かりゃしない。
だから俺は常日頃ハラハラしているのだ。
カ「今日も美味いぞ、サカキ」
『…………やめろよ』
カ「何故だ? 素直な気持ちを言葉にして何がいけないんだ、マイハ二……」
『アホかこのポンコツがあああああッッッ!!!』
カ「うぐッ!?」
ト「何!? どうしたのサカキ!!」
『え? いや、カラ松君がおかわり欲しいみたいだからご飯をあげようと思って』
チ「だからって茶碗ごと口に含めなくてもいいんじゃないの…」
『あ、茶碗も食べたいかなって思ったんだ』
チ「大丈夫かサカキ…」
もう分かると思うが、カラ松君はかなり危なっかしい。
心臓がいくつあっても足りないくらいである。
第十九マツ
カラ松です。
俺には一つ悩みがある。
いや、間違えたな。
悩みは一つじゃない。
どうして俺はこんなにも美しいのか、そしてこんなにもカッコイイのか。
どうして俺はこんなにもイカしているのか。
俺が美しいあまり皆に迷惑をかけてしまっている。世界中の人間は俺の美しさにひれ伏してしまうのさ……。
考えれば考えるほど悩みは尽きない。
これが雁字搦めってやつなのか……。
『何で一人で百面相してんの?』
カ「えっ?」
『カラ松君って変わってるよなぁ。今に始まった事じゃないけどさ』
話が逸れてしまったな……。
俺の今の悩みは、この世界一可愛いマイハニーサカキの事だ。
彼は少しシャイというか、俺達が交際しているのを公表したくないみたいでな。
先ほども食事を楽しんでいる間に、俺のトキメキ合図をこと如く無視されたんだ。
恥ずかしがり屋さんなんだな、本当に。
『何でニヤニヤしてんだよ……』
カ「ん? してないぞ?」
『いやしてるよ。大体な、さっきも思ったけどちょいちょいモーションかけるなよ!!』
カ「どうしてだ? 恥ずかしがらなくても良いんだぞ、ハニー」
『そういう事じゃねぇよ、バカ。お前は単細胞だから分かんないのかもしれねぇけど、他の兄弟は変にカンが良いんだからバレるだろ。……ていうか、既にバレてる気がするんだけどな。二人くらい』
カ「……俺には愛を抑えきれない」
『そんな顔されてもなッ……家じゃなかったら何でもしていいからさ、頼むから家では絡むの禁止!』
カ「家じゃないなら何でもいいのか」
『ッ! 変なところで食いつくな!!』
カ「フッ…痛いじゃないか。本当に照れ屋だな、ハニーは」
『……もう、つき合いきれねぇ。とにかく、あんまり家では絡むなよ』
カ「善処するさ」
『………ほんとかよっ』
カ「まあ待て、サカキ」
『あッ、ちょっと……』
早々に部屋を出ようとするサカキを背後から抱きしめてやった。
『お前! 話聞いてたのかよっ!!』
カ「今は誰もいないだろう?」
『そういう問題じゃないって!!』
カ「……サカキは俺が嫌いなのか?」
『なッ、そ、そんな訳ないだろ…』
カ「ん?」
『ッ……』
耳元へ顔を寄せると、途端に頬も染めるサカキを愛しく思う。
『ち、ちゃんと好きだからッ……だから離せって!!』
カ「分かった分かった。だが、ちょっと待て」
バタバタ暴れるサカキを一度離し、こちらに振り向かせてから口を塞いだ。
『んっ、んん!』
カ「……暴れないで」
『ッ…ふっん…からま、くっ……ふあっ…』
最近気付いたんだが、サカキは意外とキスに弱い。
だからキスをすれば抵抗が出来なくなるのだ。フッ…可愛い奴め。
『んっ、はっ…はあッ……』
とはいえ彼に夢中になっている俺も、かなりイカしているがな。
『この野郎ッ……』
カ「そんなに可愛い顔をするなよ」
『お、お前は最近調子に乗りすぎだ!!!』
カ「オーケー。退散するさ。グッバイ、愛しのマイハニー?」
これ以上いると本当に手が出てきそうだったからな、素直に出ていく事にした。
可愛らしい恋人の姿を堪能して十分に満足したしな。
しかしまあ……俺も少し中毒になり過ぎているな。仕方があるまい。何せ俺の恋人は世界一可愛いのだからな!!!!
───
『…………クッソ、何で最近あんなにグイグイ来るんだよカラ松君』
そう悪態を吐く割には真っ赤な顔をしているサカキ。心の中ではどうも喜んでいるらしい。
『俺はもともとそんなにイチャイチャするのが得意じゃないのに……大体恋人作るのも随分久しいんだぞ。まず男とつき合ったことねぇよ!!』
その大きな独り言こそバレる発端を作るのではないかと、誰もが思っただろう。
『……あーーー、買い物行くか』
大きく嘆息して肩を落とすと、サカキは襖を開いた。
『うわぁああっ!!?』
そして盛大に驚きの声を上げた。
『いいいい一松君ビックリするだろっ!!! せめて普通に立っててよ、そんな亡霊みたいに立ってたら腰抜かすよ!!!』
むしろ既に尻もちをついているのだが。
サカキが驚くのも無理はなく、襖を開いた先にのっそりと一松が立ち尽くしていた為に思いきり転げたのである。
一「…別に亡霊になったつもりはないけど」
『痛ててててッ……腰強打したぁ……』
一「…………」
蹲るサカキを見下ろし、一松は黙り込む。
『……何? 滑稽とでも言って笑うのかよっ……』
一「…そうじゃない」
『いや、冗談だって……って、え? まさかの乗っかってくる?』
仰向けになっているサカキの上に、一松が急に乗ってきた事に驚きを見せる。
一「ねぇ、気づいてないと思ってるの?」
『え? 何が……』
一「惚けないでよ。つき合ってるんだろ、クソ松と」
『はあ? 何言ってんだよ…』
一「…………」
『ほら、退いてよ。動けないだろ』
一「オイ」
『うッ……! 痛いよ!! 何するんだよ』
一「何か勘違いしてるみたいだけど、俺は質問してるんじゃなくて答えろって命令してるんだよ」
『わ、分かった分かった!! 分かりましたから両手を離してください顔近いからッ!!!』
一「…何でキューピッド役をやらされてるんだよ」
『え、何……?』
一「で、つき合ってるんだろ?」
『だぁッ!! 近い近い!!! 顔を近づけるな!! 大体、つ、つき合ってないし何の話だよ!!?』
一「ねぇ、余程のアホじゃない限り気付くって。二人して家空けてその上一緒に帰ってくるしさ。クソ松のあの態度見れば分かるでしょ。モーションかけすぎ。見ててうざい」
『(だから言ったじゃねぇかバカ野郎!!! カラ松君のアホ!! ポンコツ!!!)』
一「俺、別に何も間違えてないよね?」
『ッ……そ、れは……』
一「……何でよりによってクソ松なの」
『えっ……ムッ』
一「本当に生意気だな」
サカキの顎を掴むと、一松は低い声でそう呟いた。
『一松く……ぅンッ』
途端にデジャヴのように強引に口を塞がれてしまい、サカキは必死に抵抗する。
『んん! ふっ、ん…』
一「ッ……」
『ッ!? んっ…ふあ…、いちまつくッ…ん、んんっ!』
一「ハッ……暴れないでよ」
『んあっ…は、あっ…んんッ、ん
…ふっ…』
両手を押さえつけられており、必死に足をばたつかせるが全く意味を示さない。
口内を好き放題犯され続け、ようやく一松が離れた時には既にサカキの息は切れていた。
『うッ……はあっ、はあ…一松君っ、やめ……』
一「うるさい…」
『やっ……やめろって!!』
一「………そんなに嫌がるんだ」
『か、からかうつもりなら……もう十分だろッ……だからもう…』
一「からかってないよ」
『ッ……だったら…』
一「お前は俺のものって言っただろ。勝手に人のものになってちゃダメでしょ」
『だから、やめろよッ……もう、これ以上は……!』
一「うるさいって言ってるじゃん…」
『んッ……や、やめて、一松君っ……』
ワイシャツのボタンを外されてしまい、露になった鎖骨辺りに一松の唇が触れた瞬間にサカキは息を飲んだ。
『シ、シャレにならないからっ……もう駄目だって!!』
一「ねぇ、クソ松とはどこまでしてるの」
『何言ってんだよ……関係ないだろっ、良いからもう離して…何でこんなッ……』
一「お前が先にトモダチになるって言ったんじゃん」
『トモダチは普通こんな事しない……!!』
一「……他人に抱きしめられたのも初めてだったんだ」
『ッ……わ、分かった。何かしたなら謝るから! だから離して一松君っ!!』
一「…………」
そこで初めて動きを止めた一松は、顔を上げてサカキを見つめた。
『えっ……』
そして、サカキは驚く。
一松が酷く傷ついた表情を浮かべている事に──。
一「俺だって……サカキが好きなんだよ」
『い、一松君……』
一「だから、カラ松なんかじゃなくて俺にしてよ」
『ッ…………』
心臓を鷲掴みされたような気がした。
上手く言葉を出せずにいると、突如襖が開き、サカキにとってこの場で聞きたくはない声が部屋に響いた。
カ「サカキ、まだいるか………い?」
それは先ほど部屋を出て行ったカラ松だった。
全くもって理解できない現場を目撃したカラ松は、目を見開いている。
カ「何……やってるんだ、一松?」
『…ッ…………』
何も言えずに固まるサカキを抱えると、一松はカラ松を睨み付けながら口を開いた。
一「ねぇ、クソ松。俺にサカキくれない?」
カ「えっ……?」
一「弟に譲ってよ。兄さん」
無表情のまま告げられた言葉を理解出来ず、カラ松は立ち尽くしていたのだった。