【 お そ 松 さ ん 】

□第二十四マツ
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 時は夕方。それぞれの用事を終えて帰宅した六つ子達は、夕食が用意されている居間へやって来た。


十「ただいまぁーっ! サカキ!!」

ト「あー、お腹減った……あれ?」

お「はっ? オイ、何か俺とトッティだけ飯がないんだけど」


 確かにおそ松とトド松がいつも座る場所には、何も用意されていない。
 他の兄弟の夕食は用意されているため、明らかにわざとであると認識できる。


『あぁぁー、ごめん。ゴミ虫に差し出すような食事はこの家に無いんだよねぇ?』

チ「えっ……どうしたの、二人共サカキに何かしたの?」

お「はあっ? 別に何もしてねぇよ」

ト「そんな拗ねたって可愛いだけだよぉー、サカキ。ま、お昼の時の方が随分と可愛かったけどね」

『……殺してやるッ!!!!!』

チ「お、落ち着いてサカキ!!」

『離せ!! 俺はこのゴミ虫二人を抹殺しねぇと気が済まないんだッ!!』

チ「ちょ、とにかく落ち着いてよ!! ほんとに何したんだよ二人共っ!?」

お「だぁから何もしてねぇって」

ト「なにー? 酷い言いがかりだなぁ」

『知らばっくれんな!! 殺す殺す殺す絶対殺してやるッ……!!!』

チ「ああもう煽るなよっ!! そんなに暴れないでサカキ!」






 第二十四マツ





カ「………何事だ?」

一「…………」


 一触即発の部屋に、新たな人物が入ってきた。カラ松と一松だ。

 今にもおそ松とトド松に掴みかかろうとしているサカキを、チョロ松が必死に宥めている光景に、少々カラ松は焦りを感じていた。


『カ、カラ松君ッ……』

チ「カラ松、一松……! 手貸して!! サカキがご立腹なんだよ!!」

一「……もう収まってるじゃん」

チ「えっ……あれ、ほんとだ……急にどうしたの、サカキ」

『……………………死にたいっ……』

チ「えぇっ!? 急変しすぎだろ!! 情緒不安定かよっ!?」

カ「ど、どうしたんだサカキ」

『ッ……こんな年下の、しかもニートで生きる価値もねぇようは……そんな奴らに弄ばれる自分が情けないっ……!!』

チ「何か凄い侮辱されてるんだけど……」

お「何でもいいからさ、腹減った。早く飯食おうぜぇー」

カ「サカキ、気分でも悪いなら俺が付き添うぞ。横になるか?」

『……大丈夫だから、そんなマジに心配しないで』

十「お腹減ったよぉ!! 食べていい?」

『うん、どうぞ』

ト「僕達の分はー?」

お「俺ら餓死しちゃうだろー」

『自分で注いで勝手に食ってろクソ野郎』

お「何だよ用意してんじゃん」

ト「もう、手間取らせないでよ」

『………………』

チ「お、落ち着いてッ……サカキ、何があったかは知らないけど、あんな二人気にしないでさ、ほら、ご飯食べようよ!」

『…………分かってる』


 今にも怒りが爆発しそうであったが、オロオロしながらこちらの様子を伺うチョロ松に免じてサカキは必死に堪えた。


 ──すべて覚えているのが最悪だッ……薬の所為とはいえ、あの時の俺はどうかしてた……仮にもカラ松君という恋人がいるってのにっ……最低だよな。


『………………』


 突然大人しくなるサカキに対して、チョロ松は逆に落ち着かなかった。
 それも何やら考え込んでいる様子で、どこか落ち込んでいるようにも見える。

 一体おそ松とトド松に何をされたのか、どうにも気になるチョロ松だった。



──


『腰が痛い…………』


 部屋の掃除をしていたサカキは、ふと動きを止めて呟いた。


『うッ……俺はもうそんなに若くねぇぞ。クソ、痛ぇよ……作業にならん』


 部屋を出ようと襖に手をかけたが、先に開いて誰かが入ってくる。

 先日から冷静さを欠けていたサカキには、同じ顔をした六人がこの家にいる事すら忘れかけていた。


『うわああああああああッッッ!!!』

チ「アアアアアアッッ!!? 何ッ!!!?」


 その為、全くもって構える相手でもないチョロ松に対して、盛大な叫び声を上げてしまった。


『え、あッ、チ、チョロ松君か……あははぁ、ビックリした……』

チ「ビックリしたのはこっちだよ!? 何だよいきなり!!」

『ご、ごめん……お前らが六つ子なのを忘れていたッ……』

チ「? 誰かと勘違いでもしたの?」

『…………………………いや』

チ「それむしろ肯定の間だよね」


 ここ最近、チョロ松にとって理解しがたいような出来事が続いている。
 事実、カラ松とサカキが交際している事に関しては、未だに信じきれていないのだ。


『ハアッ…………』

チ「………………」


 溜息を吐いて座り込むサカキを横目に、チョロ松はドギマギしていた。


 ──サカキって、本当にカラ松とつき合ってるの…? いや、でも他のみんなは何か知ってるっぽいし…。というか、お、男同士なのにッ……どういう経緯で…そもそも何をしてるのかな…ど、どこまで、してるんだろうッ……。


『チョロ松君?』

チ「うひゃいッ!!?」

『……う、うひゃ……? 大丈夫かよ』

チ「だ、だだだ大丈夫ッ!!!」


 考えに考え抜いてパニックになりかけていたチョロ松には、サカキの一声だけでかなりの衝撃だったようだ。

 大いに飛び跳ねたチョロ松にさすがにサカキも不審に思ったが、何やらビクビクしている様子だった為、口出しするのをやめた。


──『んっ………?』


 痛む腰を摩っていた最中、サカキの耳に幽かな足音が届く。


『まずい、隠れろチョロ松君!!』

チ「えっ、何……ちょッ……」


 言うや否やチョロ松の手を掴んでサカキが起こした行動は、押し入れの中に入る事であった。

 いきなり隠れろとは何事かとチョロ松が問いかけるよりも先に、部屋の襖が開いて誰かが入ってくる。


お「あれ? 確かに声がしたんだけどな」

ト「やっぱり気のせいじゃない? 買い物にでも行ったんでしょ」


 それはおそ松とトド松だった。

 部屋の外から聞こえた足音、そして声を聞いたサカキは、彼らがやって来たのを即座に察知したのだ。

 とにかく顔を合わせたくないと考えていた為、反射的に押し入れに隠れるという行動を取ってしまったのである。

 それも、何故かチョロ松を巻き込むという形で。


チ「おそ松兄さんとトッティ……? 何で隠れるんだよ、サカキ」

『不本意だ……勝手に体が動いた』

チ「ていうか狭いよ……」


 現在二人はかなり密着している。

 チョロ松を押し込んだ後にサカキが押し入れに入ったので、必然的にサカキはチョロ松を押し倒すような体勢になってしまった。


『すまん……でも今さら出るのも嫌だ』

チ「え、どうして……」

『あの二人なら絶対何やってたんだと意地汚く笑いながら問い詰めてくるのが容易に想像できる。百パーセントからかわれるのが目に見えるだろ』

チ「………………」


 確かにそうだと否定できないのもなかなか悲しい事実ではあるが、それにしてもチョロ松はこの体勢が辛かった。


チ「ッ……」


 ──ち、近いッ……顔に息がかかるし、いや、そもそも何でこんなにドキドキしてるんだよ。相手はサカキなのにっ……。


 以前からサカキを男前だと認識はしていたが、それは同性として少し憧れを感じるような程度だった。

 それが今は、近距離にいる彼に対して違う感情を浮かべている。


 ──……いやいやいやいや!!! 無い無い無い無いッ!!! サカキは男だし!? こ、こんな……まるで恋焦がれるようなッ……僕は女の子が好きなのにっ…心臓が痛い……!!


 
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