【 おそ松さん -2- 】

□松5枚
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お「おし、とりあえず座ろうな」


 促されるがままに六つ子の前に座らされたリュウジは、今日が休みでよかったと考えていた。


お「そんで? 何が怖いの?」

ト「いや何この相談窓口みたいな展開」

チ「友達を作るのが怖いって……昔に何かあったとか?」

『………………はい…』

お「何が怖いの? 信用できないーとか、迷惑かけちゃーうとか、そういうネガティブ思考?」

『……大体当たってます』

カ「なるほどな。リュウジは友に裏切られた過去を持つ傷心ボーイなのか…」

『……まぁ間違ってはないです』

十「全然怖いことないよ! 一緒に喋って笑ってハグしたらもうトモダチっ! だから僕とリュウジも、もうトモダチだよ!」

ト「そうそう。それにここには友達を作れない人が若干一名いますからねー」

一「…俺は作ってないだけ。だって友達とか面倒臭いし」

お「俺さぁ、前に言ったじゃん。俺たち友達だろーって。それじゃダメなの?」

『…………い、いや……………ダメというか、その………やめた方がいいというか…』

ト「どういうこと?」

『俺といると、本当に迷惑かかるんで……それが申し訳なくて………』

お「バッカだなぁ、友達なんて迷惑かけてなんぼだろっ!」

チ「おそ松兄さんにしては珍しくまともなこと言うね」

お「フフン、俺もたまにはイイコト言うだろー?」

チ「今のはすごくバカっぽい」

カ「そうだぜ、リュウジ。モノは考えようさ。世界中の人間は友と同然。その中で出会い、会話し、分かち合う…そうすると生まれるのが愛なんだぜ」

一「テメェよく喋るなクソ松」

『…………………で、でもやっぱり、やめた方が…いいと思います』

ト「何もう〜! 一松兄さんに見合わずネガティブだねぇリュウジくん」

お「細かいことは気にしなーい、気にしない!」

『うッ』


 おそ松の手が頭に乗せられるのは二度目である。
 ただ二度目であっても慣れてはいない。実際前回乗せられた時も内心ドキマギしていたのが本音だ。

 よって思いきり身体をビクつかせてそのまま硬直してしまったのだった。


お「おっ、これだけでも無理なんか」

『慣れてないだけで…む、無理ではないです』

ト「何かここまでビクビクされるとこっちが申し訳なくなっちゃうね」

『す、すみません』

ト「いや謝らなくていいって」

カ「フッ…いい方法があるぜ、リュウジ。まずは人と触れ合うことが大切だ。これから街に繰り出してフリーハグを始めればいいのグぼぁッ……!!」

一「さっきからうるせぇぞ」

十「あらいジョージにしますか?」

チ「誰? あらいジョージって。もしかして荒療治のこと?」

十「そうとも言うっ! んーっとね、リュウジのお悩み解決方法だよ!」

チ「どうするの?」

十「こうするのっ!」

『ぎゃッ……………!』


 満面の笑みを浮かべた十四松が唐突に飛びついてきたので、何の抵抗もできずにリュウジは彼の腕の中に包まれた。


十「あっははー! 体がカッチカチですなぁ〜」

ト「何やってんの十四松兄さん…」

十「こうやってギューってしてたら、いつの間にか慣れちゃった! …とかにならないかな?」

ト「確かに荒療治だね…」

チ「良いか悪いかは別として、そろそろ離してあげた方がいいかも…。リュウジくんが限界っぽい」

十「うーん…全然慣れないっすなー」

『ッ……す、すみません…』

お「……ちょっと待てよリュウジ。お前人に触れるのが苦手っつったな?」

『そうですけど……』

お「だったらおかしくね? 何で童貞じゃないの!?」

チ「突拍子なさすぎ!!」

ト「えっ、そうなの? それは確かに驚きぃ……。はぁいっ! ここで一気に好感度が下がりました!」

お「ま、まさかお前……それきっかけで人に触るの嫌になったとか言うなよ!? 殺すぞっ!?」

チ「いやそこまで?」

『それは違います。別の理由があるんで…』

お「んだよッ…ビビらせやがって」

ト「ねぇねぇリュウジくんはさ、人嫌い…っていう訳ではないの?」

『はい……嫌いじゃなくて、苦手…ですかね。一線を超えるのが…何ていうか怖くて』

チ「ますます感心だね。接客業をしてるところが…」

『そうっすね…今さらながら自分でも思います』

一「…本当に無理なら働かないでしょ。克服しようとしてたんじゃないの」

十「どゆこと一松兄さん!」

一「…人と関わるのが嫌なら家に引きこもるじゃん。でもこの人は敢えて嫌な方向に向かってるし」

ト「確かに! 兄さんとは大違いだよね〜」

一「……………………」

ト「そんな睨まないでよぉ。だって本当のことでしょー」

一「…それに、観察するぐらいなら人嫌いってことじゃないでしょ」

お「おぉ〜、一松にしてはイイコト言うなぁ。よーしよし偉い偉いっ!」

一「……あざーす」

『…………………何か……おかしな人たちですね』


 思わず漏れてしまった声は、六つ子の耳に届いていた。


カ「フッ…確かに俺たちはクレイジーな男だ。もちろん良い意味でイかした男だがな」

『はい…本当に良い意味でおかしいなって思ったんで』

ト「なぁに、それ。どういうこと?」

『いや…会ったばかりなのに、真剣に話聞いてくれるし。不思議だなぁーって思って』

十「うーん…そうかな? 僕はお話するよりも野球の方が好きだし! でもねでもね、リュウジは話してておもしろいよ! 何か子どもみたい!」

チ「それを十四松が言う…?」

お「まぁぶっちゃけ俺たち暇を持て余してるからな。時間が有り余ってんのよ」

『やっぱり変ですって』

カ「フッ…昨日の敵は今日の友と言うだろう?」

『……………何か意味違いませんか?』

ト「こんな事言っちゃなんだけど、僕たちって同世代カースト圧倒的最底辺の連中だからさ。こんなので良ければ話し相手になるよーって感じかな」

一「…そうだね、扱い不可能な燃えないゴミだから」

チ「この歳でニートだしね…否定はしないよ」

『……………………』


 リュウジは声に出てしまうほど心底不思議に思う。
 やはり彼らは普通ではない。

 優しいのかそうでないのか。
 ネガティブなのか開き直っているのか。
 同じ顔をしているが性格は違う。
 そう思うと6人全員が同じ反応を示したりもする。

 もしかしたら自分はとんでもない人間を日々観察していたのかもしれない。
 特に後悔はしていないが。



『やっぱり、本当は仲良いんじゃないですか?』

お「はっ?」


 おそ松に向けられた言葉だったが他の兄弟も即座に反応した。


ト「ないないないないっ」

チ「しょっちゅう喧嘩してるし」

一「…むしろ喧嘩しかしてないけど」

十「そうかな? 僕はみんなのこと好きだよ」

カ「同意見だな。俺もブラザーのことを愛してるぜ」

『いや、おそ松から聞いてた話だと…何ていうかお互いに嫌悪感抱いてるのかなって思ってたんです。でも全然そんなことないじゃないですか』

お「お前何を見てたんだ? コイツらの俺に対する冷たい態度を見たよな。どーこに好き好き大好きな感情があるってんだよ」

チ「うん、リュウジくんはそこまで言ってないと思う」

『傍から見たら仲良い兄弟喧嘩にしか見えないですけど…』

ト「えぇー? そうかなぁ…。僕にとっては抜け出せない泥沼、むしろ足枷にしか思えないんだけど」

お「お前が一番冷たいんだよ!! 心がギュンってするんだよっ!」

チ「トド松に関しては全員に冷たいからね!?」

カ「安心しな、ブラザー。何度も言うがお前らは血の分けた愛しき兄弟だぜ」

一「あ…? 何か言ったかクソ松」


 口を開けば喧嘩が始まる六つ子。
 先ほどから苦笑いを浮かべていたリュウジは遂に笑い声を上げた。


『それが仲良いってことなんじゃないですか? 無自覚かよアンタ達…』

お「………何かムズ痒いわ。そんなん言われると」

十「あぁ、リュウジ! いいねぇ〜っ! スマイルまんかーい! 笑ってると幸せになれるんだよ。やっぱスマイルが一番だね!」

『…子どもっぽいのはアナタじゃないすか』

十「十四松だよっ!」

『十四松…さん』

十「十四松だよっ!」

『わ、わかりました』

お「ていうか変なのはリュウジの方だろ」

『えっ、そ、そうですか?』

お「なんつーの? オンオフの差が激しいっつーか…店で会うときはそんなワタワタしてねぇだろ。お前がそんなに分っかりやすい男だとは思わなかったわ」

『俺分かりやすいですか…? バイトしてる時は、ほぼ表情筋は働いてなくって…。それに昔から笑ったり泣いたりするのも、あんまり得意じゃないというか…』

ト「そうかなぁ。普通に笑えてると思うよ? こう…二ーッて」


 あどけなく笑ってみせるトド松は、自分の中の満面の笑みを分かっているようだ。
 リュウジも真似て微笑んで見せた。


『にーーっ……………』

ト「ブファッ…! ちょ、無理やめてその顔っ…!」

チ「さっきは普通に笑えてたのにね…。今の笑顔はその…言っちゃなんだけど不気味だね」

十「んー、意識せずに笑ってみたら? こんな感じ〜っ!」

一「…十四松は年がら年中笑ってるようなもんでしょ」

『………努力します』

お「そうそう。働いてるっつっても、やっぱりコミュニケーション大事だろ? まずは顔作りだな」

チ「なに顔作りって」

お「克服するにはさ、まず向こうから近寄りたくないとか思わせたらダメだろ?」

ト「僕みたいに可愛いスマイルだったら、みんな寄ってくるじゃない?」

チ「トド松が可愛いってのはどうかと思うけど、まぁ確かにそうだよね。リュウジくんって話すのは苦手ではないみたいだし」


 酷く真面目に考えを巡らせている六つ子に対して、素直に有難いと感じた。

 六つ子で全員ニート…などと聞いたときは正直引いていたが、彼らは根は良い人のようである。

 出会って数分の会話で知れるのは大したことではないかもしれないが、少なからず現時点でリュウジはそう思っていた。



『ありがとうございます………』



 この数ヶ月、会話をするのもバイト先のスタッフくらいだった
 特にプライベート的な会話はしてはいないのだが。

 久しぶりに感じるこの気持ちを、どう呼んでいいのか分からない。


 親身になって話を聞いてくれる六つ子───やはり変なのは彼らではないかと、リュウジはどこか照れ臭く感じた。



ト「もう目覚めちゃったね。僕お腹空いたな〜」

一「…今日は確か母さん飯作らないって言ってたよ」

ト「えぇっ!? 朝ごはんないのぉ…」


 朝食と呼べる時間帯ではないのだが、この場には誰も突っ込む者はいない。


カ「フッ…任せな、ブラザー。この俺が丹精込めて美食をメイキングしようじゃないか」

チ「リュウジくんは料理しないの?」

カ「えっ」

『……俺料理はからっきし無理なんで』

お「んじゃ誰かに作ってもらってんのか?」

『いや、一人暮らしです』

ト「一人暮らし? 羨ましい〜! え、じゃあ夕飯とかどうしてるの?」

『外食かコンビニ弁当…ですかね』

ト「意外〜。見た目結構得意そうなのに」

『本当に何もできないんで…。包丁とか持ったことないです』

お「料理に関しては俺たちニートの方が上をいったな」

十「大勝利っ!」

チ「いや料理できたからってニートであることに何も誇りはないからね?」

お「しゃあねぇなぁ…何か適当に作るか」

十「やったー! おそ松兄さんの作るごはん僕大好きーっ!」

お「誰も俺が作るなんて言ってねぇぞ!?」

ト「リュウジくんも食べて行きなよ。兄さんの料理、案外美味しいんだよ〜」

『え、でも』

ト「いいからいいからっ! ね?」


 ようやく重い腰を上げた六つ子が部屋を出ていくため、流れるようにリュウジもついて行くハメになるのだった。



カ「俺は構わないぜブラザー。愛をたっぷり投入したカラ松ブレイクファーストを差し上げようじゃないか」

お「面倒臭ぇからチャーハンとかでいい?」

十「兄さんのチャーハン星五つ!」

一「…異議なし」

カ「えっ」





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