【 おそ松さん -2- 】

□松7枚
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お「一人暮らしにしては結構広いじゃん。んでもって綺麗。意外」


 リュウジの自宅へやってきた二人。

 我が家のようにズカズカ上がっていくおそ松を咎めることはなく、リュウジは台所へ向かいもてなしの準備を始めていた。


お「てっきりおんボロアパート予想してたわー」

『…アパートには変わりないですけどね』

お「全然綺麗じゃん。このソファとか自分で買ったの?」


 おそ松はそう言ってドカリとソファに座った。


『…それは両親からです』

お「ふーん、良い親だねぇ」

『どうぞ』

お「おっ、あんがとー」


 ソファに前にある机にコップを置き、リュウジも少しばかり距離を置いて座り込む。


お「とりあえず飲も飲もー」

『俺は飲まないですからね』

お「分かってるって」


 缶ビールをコップに注ぐおそ松。
 それを横目に、別に用意したコップを手に取るとリュウジは話を切り出した。


『………あの、一つ聞いてもいいですか?』

お「ん、何?」

『おそ松は昔からそういう感じなんです?』

お「何だよそういう感じって」

『えっと………フレンドリー?』

お「俺ってフレンドリーか? 別に誰も彼もに笑顔振りまいてるわけじゃないよ? 俺だって人は選ぶからねー」

『………………じゃあ俺は手玉に取りやすそうだった、とか?』

お「お、鋭いな」

『今までの言動を見れば何となく』

お「怒ってる?」

『別に怒ってないです』

お「俺も最初はそうだったけどさ、今は普通に友達やってるの楽しいよ?」

『……………………』

お「何つーか、一緒にいて気が楽? そんな感じ」

『この数日で信頼厚いっすね…』


 思わず苦笑いが零れた。
 冷えたビールを喉に通しながら何食わぬ顔をしておそ松は続ける。


お「ていうかお前ってさ、流されやすい性格だろ」

『……そう、ですか?』

お「いや無自覚。ちゃんと自己主張した方がいいぞー? 俺ら兄弟はみーんな主張しまくりだかんなぁ」

『…こっちが引いてた方が何事も平穏に済むじゃないですか』

お「そうかもしんねぇけど、お前絶対負担大きくなるって。今は平気かもしんねぇけどよ。やっぱ損するタイプだなぁ、リュウジ」


 スラスラ言葉を並べるおそ松こそ無自覚ではないかと、リュウジは頭の隅で考えた。

 先日、本人は長男でいることを否定していたが、どうにも彼は世話焼きな気がする。
 おそらく何だかんだで自宅でも兄弟の尻拭いをしているのだろうと予想していた。


お「あ、分かったぞお前…。なーんでずっと敬語なんかなーって思ってたら、距離置いてたんだな」


 おそ松はふと閃いたように指を差して言い張ってきたために、リュウジは内心ドキリとする。


お「当たりだろ?」

『…………間違っては、ないですけど』

お「ちょっと素になる時もあるっぽかったけどな。他のヤツらにも敬語だし。真面目キャラ? そう思ってたけどやっぱ違ったな」

『…でも一応年上なんで』

お「はっ? ンなの関係ないだろ。別に気にしなくていいって。そんじゃ今後は敬語禁止でーす!」

『えっ』

お「タメ口で喋ってくださーい!」

『い、いや何で』

お「一回の敬語につき罰金でーす! ワンコインな」


 得意げに手のひらで丸を作るおそ松は本意でそう述べていた。

 傍から見て分かるほどリュウジは困惑している。
 あながち真面目なのも間違いではないかもしれないとおそ松は思った。


お「分かったか?」

『……………………分かりません』

お「はい罰金罰金罰金!!」

『…………………どう言われてもやめませんからね』

お「頭でっかちだなぁオイ。変わったヤツだわ…」

『……………………何してんすか?』


 おそ松が急に立ち上がってテレビの前に移動したので、身を乗り出して様子を伺う。

 どこから取り出したのか、DVDプレーヤーに何かを入れているようだ。


お「強行突破? いや、何か違うな…。ま、頭お堅いリュウジくんのために俺様が歩み寄ってあげようってこと」

『……………………はい?』

お「えーっと、リモコンリモコン…あったあった。よいしょっと」


 リモコンを手に取ると再びソファに戻るおそ松。
 それを目で追っていたリュウジは、彼が再生ボタンを押したので流れるままにテレビ画面へ視線を移した。


『…………………えっ?』


 流れ出した映像に言葉を失い、そのまま硬直する。


お「お、当たりだな今回は。表紙の通り可愛子ちゃんだぜぇ」

『……………………』

お「しかも初っ端からエッロ」

『……………………』

お「ん、リュウジどした? 顔死んでんぞ?」

『いやそりゃ表情筋死にますよ。えッ、何なんですか、何なんですか本当に』

お「AVだけど」

『んなモン見たら分かります!! 何で急にAV見だしてんすか!? 何か持ってきてるって思ってたらAVだったのかよっ!』

お「いやー、家だとおちおちオ〇二ーも出来ないんだなコレが。俺らニートだから誰かしら家にいるしよ」

『………………………………はい?』

お「たま〜〜に掻き合いしたりすっけど、やっぱ兄弟に触られんのって抵抗あるんだよなぁ」

『……待ってください。ちょっと待ってください。……いや、待ってください。本当に意味が分からないです』

お「細かいことはいいからさ。あ、ほらほら! あの子も気持ちよさそーに喘いじゃってるし」


 テレビ画面を指差すおそ松に釣られて、引き攣らせた顔のままリュウジは視線を動かす。

 艶かしい光景を映し出す自宅のテレビ画面に、思わず呆気に取られた。


 ──唐突に行動を示したおそ松は、どういう訳かアダルトDVDを流し始めたのである。

 全くもって思考がついていかず混乱するリュウジ。むしろ理解など不可能だろう。
 先程おそ松は歩み寄るだの何だの言っていた気がするが、全然理解が出来ない。


『……………………………いや無理です。理解できないで…………ッッッ!?!!??!』


 テレビ画面からおそ松の方へ視線を戻したリュウジだったが、しかめた顔が今度は驚愕する事となった。


『何でもうシコってんですか!!!???』

お「久しぶりだからすぐに勃つわー」

『話聞いてます!!?』

お「あぁもう良いからッ…。リュウジもほら、早く出せって」

『ちょちょちょちょッ……!!! 近寄るなバカ野郎!!!!』

お「はッ? いや別に触んねぇし。んだよお前往生際悪いな。男なんだしこれくらい普通だろ」

『全く普通じゃないです!! いやいや話の流れ…!! 急変しすぎですって……!!!』

お「何お前包茎なの? そんなの気にしないよ俺」

『だから違います…!! 俺はいいですっ! 大丈夫ですからおそ松一人で抜いてください!!』

お「…………まぁ別にいいけどよ」


 近寄ろうとしてくるおそ松を必死に押し返していると、ようやく離れてテレビ画面に集中するようになった。

 一安心したリュウジは一息つくと、一刻も早く映像が終わるのを待った。


 ──やっぱりこの人本当に理解できない…。多分一生理解できないと思う。


 考えが読めないのはまさにこの事を言うのだろう。

 先ほどから眉間にシワが寄りまくっているが、薄目でテレビ画面へ視線を向けながら、リュウジは無心で時が経つのを待っていた。


 ───しかし。


お「なぁリュウジ…」


 突如耳元で名を呼ばれ、身体全体に電流が走るような感覚に襲われる。


『ッッ……!!!?』

お「ハハッ、まじビビり過ぎ…」

『ちょ、近ッ…』

お「手、貸して」

『ひぇっ』


 吐息が肌に伝わるほど真横に迫っていたおそ松が掴む手は、やけに熱く感じた。


お「触られんの嫌ならさ、俺から触んねぇし…そのかわり手、貸して」

『は、はい…?』

お「ほら」

『うッ』

お「…触る分には別にいいだろ。やっぱ他人に触られた方が気持ちいいんだよな」

『……………………………』


 リュウジは頬が引き攣りすぎて痙攣を覚え始めた。
 この現状をどう奪回したらいいのか、もう何も分からない。
 むしろ意味不明のあまりおかしな笑みが零れる。


 掴まれた手がおそ松に誘導されたのち、硬く主張するイチモツを強制的に握らされた。
 混乱しか生まない状況のなか、ただただ恐怖が浮かんでいた。


お「はぁっ………なぁ、もっと強く握ってくんない?」

『………………ぇ』

お「お前が好きなトコでもいいから、とりあえず触って。俺テレビ見てるし」

『……………………ぃ、ぃゃ………えっと…』


 ──えっ? 何なんだこの状況? 全然理解できないんだけど……? 何でこんな事になってんだ? どうして俺はおそ松のナニを握らされてんだ?


 冷や汗すら滲んできたリュウジは、おそるおそる視線を下に移し、さらにギョっとした。


 ──いや本当に意味が分からない!! 夢かと思ったけど全然夢じゃない!! 普通に現実っ!! 俺が握っているモノは列記とした本物です!!


 見たくもない現実を突きつけられたように愕然とした為、もはやどこを見て良いのか視線が定まらずに泳いでいる。

 いつまでも行動を起こさないリュウジに歯切れを切らしたおそ松は、リュウジの手に自分の手を重ねると、ゆっくりと動かすのだった。


『ッ…………』

お「もしかして、知らない…? こうやって…擦るんだよ」

『……ぅ……………』

お「…あぁーッ……ヤッてみてぇな…」


 おそらくテレビ画面を見ながら言っているのだろう。

 脳内がパンクしそうで気にしていなかったが、ふと耳を傾けると艶かしい女声が聴こえてくる。


 ──死にそう。恥じらいで死にそう。何でこの人はこんなに普通なんだ? えっ…こういう事って普通にするもんなのか? と、とにかく一刻も早く終わらせてこの状況を変えないと何かヤバい気がする…!!


 正常な思考回路は既に回らなかった。
 だからこそ殴るなり蹴るなりして離れるという事が思いつかなかったのだ。
 と言うより、相手に悪いなどと甘く考えていたのは他でもない。


 ──こ、これはただの棒……!! 何物でも無いただの棒っ!!


 リュウジはキツく目を閉じると、何か別の事を考えようと思考を巡らせる。


お「ッ………やっべ、超気持ちいー」

『……ッ……………』


 耳元で感じる吐息と甘ったるい声がやけに脳内に響いた。

 わざとなのか無意識なのか、むしろおそ松は男に触られて何も嫌だと感じていないのだろうかと、疑問が絶えない。


 ──嫌だったらこんなにギンギンにしてねぇか……。いやいやおそ松はAV見て硬くしてんだよ。ただ借りてるだけ、俺の手はただ借りてるだけ…。


お「…んッ……そろそろ出そー」

『…ぇ………』


 ティッシュも何も用意をしていない事に気が付いたリュウジは、取りに行かなければと目を開いた。

 そこで思わずおそ松の顔を伺ってしまった。
 一体どんな顔をしているのかと興味本位が湧いたのだ。
 だがリュウジの予想を覆す事実が発覚する。


『…………はっ?』


 てっきりテレビ画面を見ていると思っていたのだが、おそ松の視線は確かにこちらを向いていた。

 これではまるで──リュウジの行為を目の当たりにしているようではないか。


『…え? なッ…』


 欲望に満ちた熱い瞳を向けられ、否応なしに頬が熱くなるのを感じた。

 今浮かぶ感情は果たして恥じらいなのか分からず混乱していると、突如おそ松に後頭部を掴まれて強制的に下を向かされる。

 思わず目を見張った先にあるおそ松の自身に身震いをしたリュウジは、そこでようやく思い出した。


 ──えッ、まさか、コイツ出すつもりか?


 何故そんな現場を間近で目撃しなければならないのか。

 咄嗟に抵抗を示したリュウジだったが、行動するのが少し遅かった。


お「…ハッ……もう出る」

『え? い、いや、ちょッ』


 耳を疑う言葉にギョっとしたのも束の間、真下にあるおそ松の自身から白濁色の液体が飛ばされ、リュウジの顔に見事命中した。


『……………………………………ぇ?』

お「ハハッ、顔射ー。一回ヤッてみたかったんだよな」


 ようやく解放されて顔を上げたリュウジが目にしたのは、満足そうにそうボヤくおそ松だった。
 対してリュウジは、頬に伝う生暖かい液体に背筋が凍る感覚を覚えながら硬直している。


お「……何つーかさぁ、嫌がる奴を無理に強要させるっての? 思いのほか興奮するな」

『……………………』

お「今までで最高のオカズだったかも、ハハッ」

『…………な、なん…ですか、それ…』

お「え? そのままの意味。リュウジがさ、必死になって俺のち〇こ擦ってんの見てるとスゲー煽られちゃった」

『バカ真面目な顔して何言ってんですか』


 とにかく顔を拭こうとソファから離れた。目の前にいる男から距離を置くことが先決だと考えたのである。
 しかしそれは叶わなかった。


『ぇ、うわ、ッ…!』


 一歩踏み出したと同時に腕を引かれ、再びソファに腰を預けることになる。正確には背中を預けたのだが。


『…えっ……? な、何です、か…?』


 押し倒されたリュウジは、見下ろすおそ松の表情を見ても、彼の感情までは予想ができない。

 しかしながらここまで来ると、確信的な恐怖が浮かぶのが分かる。


『え……………』


 リュウジの頬を伝う液体を、おそ松は指で掬うと流れるようにその指をリュウジの口元へ移動させるのだった。



お「舐めて?」





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