【 おそ松さん -2- 】
□松9枚
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微笑んでいる筈のおそ松の目は、心底笑っているようには思えない。
息をするように当たり前に吐き出された言葉を理解しようと、リュウジは思考をフル回転させていた。
『続き…………』
お「ほら、ここ座って」
先程までの歓喜が薄らいでいくのを感じながら、おそ松に指示された場所へ素直に座り込むリュウジ。
ソファに座るおそ松の前にリュウジがしゃがんで居座るという、まるで主と召使いのような体勢である。
お「よしっ……んじゃあ、とりあえず舐めてくれる?」
『えっ………?』
白い歯を見せて無邪気に笑うおそ松の手が、頭を優しく撫でてくる感覚に歯がゆく感じていたのも一瞬で、さすがに理解の領域を超えてきた。
お「ん? 分かりやすく言おうか? フ〇ラしてくんない?」
『………………………』
お「お前のその柔らかぁーい口で、俺のち〇こをしゃぶってほしいんだよな〜」
頭を撫でていた手が口元へ移動し、思ったより男らしい指が唇を滑る。
呆けて口が閉じきれていなかったので、そのまま指が口内に侵入した。
『…ぁ………ッ』
お「さっき俺の精液舐めてくれたじゃん? 正直興奮したんだよねぇー。それにさ、あんまり嫌がってないように見えるし」
『…お、おほまふっ………』
お「ん、何?」
『っ…ほ、ほんひ、れすか?』
お「冗談でここまでしないだろ」
『…あっ……』
やり場がなくあたふたするリュウジの手を掴むと、自身まで誘導させるおそ松。
随分近しく感じるデジャヴだとリュウジは考えていた。
お「さっきの余韻まだ残ってっし、今度はリュウジの口でイかしてよ」
『…………ッ…』
頬を赤く染めるリュウジは恥じらいはもちろんだが、高鳴る鼓動が別の感情を表しているのが分かる。
ずっと会いたいと思っていた人物が目の前にいる。
もう一度会える事ができたら、どうやって恩を返そうかと悩んで悩んで、何も浮かばずにいたのだ。
だが今、この男は分かりやすくどうして欲しいかと伝えてきた。
それに応えるのは簡単だが、果たしてそれは本当に正しいのかどうか──それを判断する余裕は今のリュウジにはなかった。
お「お前経験あんだろ。そん時のイイところ? それとなぁーくヤッてくれたらいいから」
『で、でも俺やり方分かんないし…』
お「あぁっ、そんなの適当にヤってくれたらいいって! そんでまぁ徐々に上達していけばいいし」
『上達って…』
お「とりあえずヤってよ」
『うッ』
再びズボンを緩めるおそ松が自身を取り出し、リュウジが対面するのは二度目となった。
お「んっ? もしかして嫌?」
先程までとはいかないが、若干の引き攣りを見せるリュウジの顔におそ松は笑いかける。
『ッ…ぃ、嫌というか……別にそんなことは…』
お「じゃあヤって。俺またテレビ見てっから」
そう言ってリモコンを操作したおそ松により、テレビ画面から艶かしい音が流れ出した。
そっと見上げると、言った通りにおそ松はテレビ画面に視線を移している。
どことなく見られているのは恥ずかしいと感じていたリュウジは安堵した。
そして視線を戻すと、息を飲んで少しばかり身を乗り出す。
震える手でおそ松の自身を握った瞬間、おそ松がピクリと反応したので思わずこちらも身体を跳ねさせた。
お「ッ……早く勃たせて舐めてよ、リュウジ」
名を呼ばれると一気に身体に血が巡ったように感じた。
リュウジは先程と同様に、半ば理解をしていないまま懸命に奉仕するのだった。
──あ、あれ……? 何でまたこんな事になってんだ? 俺はただ…もう一度会えたことが、嬉しくて…。何か恩返しがしたくて…。
硬く主張を増すおそ松の自身から、先走りが溢れ出てリュウジの手を汚してきたため、混乱する頭でも一度は現状を改めて見るものだ。
高鳴る鼓動が外まで聴こえそうな錯覚に溺れながらも、意を決してリュウジは顔を近付ける。
キツく目を閉じるのとは反対に、震える口元を開いて舌を突き出した。
お「…ッ……」
おそ松の息を乱した音が耳に届く。
舌を滑らせて刺激を与えると、それに応えるようにビクビクと反応を示すので分かりやすい。
リュウジは不思議と嫌だと感じていないのが少し恐怖に思えていた。
──うわっ…俺何やってんだ。男なのに……でも、そんなに嫌じゃないって…おかしくね? 憧れみたいなのは思ってたけど、いくら何でもこれはさすがに…。
まずいのではないだろうか。
そう考えてはいるものの、結局こうして行動してしまっている。
『…ンッ……』
お「……はぁっ………」
精一杯舌を滑らせていたリュウジは、今度は手で擦りながら先端部分だけを口に含ませた。
──あ、あんまり味しないっ…。ていうか俺、本当にヤバい奴だって……何やっちゃってんの? それに何かこれ…この気持ち、変だよなっ……。
そもそも助けてもらった恩を返したいと思い、おそ松を探していた。
否、初めはそうだったのだ。
しかし今は、ようやく出会えたことに喜びを感じているのはもちろん───底知れぬ想いが垣間見えているような気がしてならない。
憧れや尊敬に似た感情を抱いていたのは事実だ。
だがそれだけでここまでするものなのだろうかと、疑問に感じていた。
──よく分からねぇ……。この数日普通に話してたのに…あの時の人だって思うと、何か全然違う人に見えるし…。この人のためなら、何でもしたいって思えるけど…本当にそれだけなのかよ。
脳内を巡るモヤモヤとした感情に、とある仮定を生み出したリュウジは既に赤い頬をさらに赤くさせるのだった。
──えっ? も、もしかして俺っ……この人のこと………。
そこで思考は一旦途切れる事となる。
思わず想像した事実から逃れようと口から出そうとしたリュウジだったが、後頭部を押さえられてしまい離れることができなかった。
頭を掴んできたのはおそ松しかいない。
何事かとリュウジは視線だけを上に向け、本日何度目かのデジャヴに駆られる。
『ッ………!(ま、また見てるっ……!)』
決して絡みたくない瞳がこちらを見つめていたので、忘れかけていた恥じらいが一気に引き寄せてきた。
それと同時に頭を押されて口内へ無理やり挿入されてしまい、訳も分からずパニックを起こすリュウジだった。
『…んぶッ……!? んんっ…!』
お「焦れったいから勝手に挿れちゃったよ? マジでやべーっ…すぐイっちゃいそうだわ〜」
『ふっうぅ、ぅ…ん…んンッ……!』
喉奥まで侵入してくる異物感に吐き気を催されそうになる。
しかしおそ松が差し出した両手でリュウジの顔を包むと、ゆっくり抜いていった。
『ンッ……ふぅ、っ…んん……』
お「へへッ、何だよリュウジ…お前全然嫌そうに見えねぇよ」
『ん、はふッ……ぅ…』
お「……とんだ変態野郎だ、な!」
『んぐぅう……ッ!?』
口内から抜け切る寸前で、おそ松はリュウジの頭を掴み再び奥まで挿入させた。その後はそれを繰り返される。
飲むことも吐き出すこともできずに、口端から溢れ出る唾液にリュウジは目元からも涙を流した。
──だ、だめだっ……何かもう、何も考えられない。頭が変になりそうっ……。
『んぅうっ、ン…ふぅッ……』
お「ッ、は……なぁ、もう出そうだわ」
『んぐ、ッ、ぅ…んん…っ…』
お「リュウジの口ん中に…たっぷり精液出してやるからさ、ちゃんと全部味わえよっ…」
『ンッ…ん、ふぅうっ……』
お「ッ……もう、出る…!」
『ッ!? んぅっ……! ぅうっ…ンッ…』
最奥で放たれる熱い欲望は、リュウジの喉に直接流し込まれた。
抵抗する間もなく、不本意ではあるが喉を鳴らせて飲み干していくリュウジ。
飲み切れない精液やら唾液が逆流し、時折むせ返りながら飲み続けた。
全てを出し切ったおそ松は満足そうに笑うと、リュウジの口内から自身を抜く。
『…がはッ、ぁ……んんっ…』
お「あーあ、綺麗な顔が台無しだな」
『ッ…………』
お「でも美味かっただろ?」
ポロポロ涙を零すリュウジが焦点の合わない目を向けてくるので、たまらずおそ松は彼の頬に自身を押し付けてそう囁いた。
『はぁっ……ん、そんなわけ、ないだろっ…』
お「えぇーっ? そうかなぁ? 結構嬉しそーうに咥えてたじゃん」
『ち、ちがいます……』
お「まぁでもめっちゃ気持ちよかったし! とりあえずシャワー浴びるか。あ、一緒に入る?」
『いいです、お先にどうぞ』
DVDを停止したおそ松は身なりを整えて立ち上がると、さっさと洗面所へ向かう。
その間もリュウジは必死に顔を手で拭っていた。
『タオルとか、置いてあるの使っていいんで…着替えは後で持っていきます』
お「ん、サンキュー」
あくまで自分が最優先の自由人な男を見送りながら、部屋に一人なったリュウジはとりあえず顔を洗おうと台所に足を進めた。
『はぁッ……何やってんだ俺』
手を洗い、口を濯いだ後に盛大な溜息を吐く。
──どう考えてもおかしいだろ…おそ松も何考えてんだよ。ていうか嫌とか何も感じてない俺って……。
顔を流し終えると再び溜息を吐くのだった。
『……………頼むから勘弁してくれ』
───
お「んっ?」
シャワーを浴び終えたおそ松は、着替えが用意されていなかったため不思議に思った。
お「何だよ、もしかして拗ねてんのか?」
苦笑いと共にボソリと呟くと、うるさく言われそうなので腰にタオルだけ巻いてリビングへ向かう事にした。
お「おいリュウジ〜、着替えはー?」
乱暴に頭を拭きながらリビングを覗いたが、リュウジの姿が見えない。
お「? アイツどこに……」
部屋を見渡してから気が付いた。
リュウジはソファで横になり、寝息を立てていたのである。
お「ハッ……本当にきれーいな顔してんな」
『…ん………』
ソファの肘掛に座り、健やかに眠るリュウジの頬に指を這わせるおそ松。
少しばかり反応するリュウジの顔を見つめていると、自然と声が漏れていた。
お「…純粋なヤツ…………」
───半年前
走り去る男の背中を見送ったあと、声を掛けられたおそ松は顔を振り向かせて返答する。
お「いや、何でもねぇよ」
「…はいこれ、今川焼き」
お「サンキュー」
「ちなみにそっちはあんこ」
お「……って事はそれはクリームか!? ズルいぞお前っ!」
「買ってきたんだから良いでしょ…」
腑に落ちない様子ではあるが、おそ松は受け取った今川焼きを素直に食べる事にした。
「あんまりマフラー汚さないでよ」
お「え、何で?」
「家に猫が来た時とか、暖を取るのに使ってるから……。汚れてたらアレじゃん」
お「ハハーッ、ほんとお前は猫にだけ優しいよなぁ」
「別に兄弟に冷たいとかじゃないけど…。おそ松兄さん限定」
お「何それ酷くない!?」
──帰路を歩く二人が会話をしている間に自宅へ到着する。
家に入ろうとしたところで、おそ松はふと声を掛けるのだった。
お「あ。あのさー、聞きたいことがあるんだけど」
「何? 改まって…」
お「前に俺があげたストラップあんじゃん。アレもしかして無くしたりした?」
「えッ」
お「お、やっぱり?」
「な、何で知ってるの…」
お「いや何となく? 強いていうならぁ、お兄ちゃんの勘?」
「ごめん…どこで落としたのか分かんなくて。探したんだけど…」
お「別に怒ってねーよ。また買ってやるし!」
「……兄さんが優しいと本当に不気味だね」
お「本っ当に根暗だなぁ、お前。大体俺は誰にでも優しくしねぇよ〜」
「え、そうかな…」
お「そうだっつーの。俺は俺を愛してくれるヤツにだけ優しくすんの」
鼻の下を擦るおそ松はどこか照れくさそうではあるが、自慢げに言い張っていた。
「…ふーん、じゃあ兄さんからしたら俺はその対象なんだね」
お「ん? そうだよ、だってお前一番分っかりやすいじゃん」
「………………」
お「寒がるお兄ちゃんのためにマフラー貸してくれたりするし〜」
「そ、それは気まぐれだし…」
お「あ、待てって!」
誤魔化すように家の中へ入っていく弟をおそ松は慌てて追いかける。
お「ありがとなぁー」
頭をがしがしと撫でると少しばかり頬を染める弟が、実に分かりやすいとおそ松は再び微笑んだ。
お「一松のおかげで帰りは寒くなかったよ!」
頭を撫でる手を嫌だとは一切思わない一松は、ボソリと呟くのだった。
「…大袈裟にもほどがあるでしょ」
【 松9枚 】