【 お そ 松 さ ん 】
□第六マツ
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六つ子は知り合いのチビ太という男が経営しているおでん屋によく訪れていた。
しかしそこにはかなりのツケの精算が貯まっており、無職の六つ子には払う金などあるわけが無い。
いつまで経っても払い気のない六つ子に対し、チビ太が歯切れを切らして起こした行動は、次男カラ松を人質に取って身代金を要求する事であった。
しかし、誰一人としてカラ松を救おうとする気力も浮かべず、次男そっちのけで梨を食べた兄弟にカラ松は心が折れ、挙句の果てにはチビ太すらカラ松を放置して去っていってしまう。
そしてその後。
家の前に捨てられてしまったボロボロのカラ松の元に、ただ一人救いの手を差し伸べる者がいた。
『オイ、大丈夫か』
それは松野家、家政婦のサカキだった。
第六マツ
カラ松を家に運び込んだサカキは、傷だらけ…と言うよりほとんど毎日怪我をしているのだが、彼の手当を行った。
カ「痛てててッ……痛いぞ、サカキ」
『あ? 我慢しろよ』
カ「………………」
『まあ、どんな言葉をかけた所で傷口に塩を塗るだけだろうけどさ、アレでも一応兄弟だから許してやってあげなよ』
カ「分かっている……」
『さすがに酷いとは思うけどな。でも家族は大切にした方がいい。どんなにクソでもゴミでもこの世に一つしか存在しない唯一の絆だから』
カ「…………」
『俺でもこうやって手当くらいなら出来るから、胸張って生きろよ。他人の俺が言うのもなんだけど』
カ「サカキッ……」
『安心しな。カラ松君はカッコイイよ。世界一の男だぜ』
カ「ウオオオオオオオオオッッッ!!!」
『おわっ! 急に抱きつくなよ……まあ、無理もないか』
泣きじゃくる子供のように抱きついてきたカラ松を、サカキは突き放そうとはせず、彼が泣き止むまでしっかり抱きとめていたのだった。
『あ、俺アレになってもいいよ。なんだっけ? カラ松ボーイ? ハハッ、ちょっとカッコイイよなッ…』
「サカキ!! お前は神だッ!!! アアアアアアアアッッ!!!」
──
翌日。
以前おそ松と言い合ってしまった日から、サカキはあまり六つ子と顔を合わせないようにしていた。
そして今日も同じように、食事だけ用意してあり、部屋には誰もいなかったのである。
チ「今日もサカキいないね」
ト「ご飯だけ用意されてるのもなかなかホラーだよね。ていうかサカキさんって生きてるの?」
十「僕普通に会ってるよ!」
ト「えっ? 僕全然会ってないんだけど」
一「この狭い家の中で会わないなんて避けられてんじゃない…」
ト「ええっ! いや、それはおそ松兄さんでしょ!」
お「…………」
チ「いい加減謝りなよ、おそ松兄さん」
お「はっ? 俺悪くないし」
チ「いや半分位はおそ松兄さんが悪いよ? 言い過ぎたとか思わないの?」
お「別に。向こうから謝ってくるまで絶対許してやんねえから」
チ「子供かよっ!!」
一「あれ、クソ松どっか行くの…」
ト「ご飯持ってどこ行くの? もしかして便所飯ってやつ?」
カ「ああ、ちょっとな…」
ト「え、本気なの? 嘘でしょ? 本当に痛いねえッ!」
そのまま部屋を出ていくカラ松を、他の兄弟は止めようとしなかった。
──
カラ松がやって来たのは二階だった。
いつもは六つ子が寛いでいる部屋に入ると、案の定サカキは一人で食事をしていた。
『うわっ! ビックリした……カラ松君か。えっ、どしたの?』
カ「フッ…俺もたまには二階で食べようと思ってな」
『いや、降りろって。家族団欒で食事しろよ。昨日も言っただろ』
カ「俺はお前と食べたいのさ、カラ松ボーイ」
『………………』
そう言って本当に朝食を食べ始めたカラ松に、少し驚いていたサカキは小さな声を漏らす。
『カラ松君…………』
カ「ん? どうした、カラ松ボーイ」
『ありがとう』
それはカラ松が初めて見るサカキの満面の笑顔だった。