【 お そ 松 さ ん 】

□第七マツ
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 友達が猫しかいないという一松を気遣ってか、五男十四松は顔馴染みであるデカパン博士の元へ彼を連れ出した。

  デカパンは何でも発明できるという凄腕の発明家であり、何でも十四松の頼みは猫の気持ちがわかる薬を作ってほしいとのことだった。

 そこでデカパンが用意したのは「本音を話してしまう薬」であり、猫の本当の気持ちを知りたいと願った一松は薬を飲む事を決意する。しかし……。


 それは「飲む」のではなく「刺す」という概念だったようで、さらに腕ではなく尻の穴に刺す行為に恐怖で怯える一松だった。

 まさに刺さってしまうという瞬間、一松が飼っていた猫が飛び出し、代わりに猫が薬を注入されてしまったのである。





 第七マツ





 相手の本音を見抜く猫。彼は六つ子により「エスパーニャンコ」と名付けられた。

 そこで暴かれたのは、他人に興味が無い。友達を作らなかった一松の本音。

 面倒臭いのではなく、ただ怖かっただけ。独りでも良いと言っていたのは、兄弟がいるから寂しくはないと、そう思っていたからだった。


 知られたくない本音を暴かれてしまった一松はエスパーニャンコを罵倒してしまい、彼は家を飛び出して行ってしまう。
 一度は喧嘩をしてしまうものの、十四松がエスパーニャンコを連れ戻し、素直に謝罪をしたことで無事に仲直りしたのであった。



お「良かったなあ、一松。お兄ちゃんたちに感謝しろよ」

チ「いや俺らほとんど何もしてないからね?」

ト「でもビックリだよね。あの闇松兄さんがねえ……」

一「うるせえな…」

〈ニャーッ〉

お「なあ、エスパーニャンコってまだ薬切れてないんだよな?」

一「え、まあ…そうだけど」

お「じゃあさ、じゃあさ。この猫使ってサカキの本音を聞き出してやろうぜ!」

チ「またバカな事考えるね」

お「バカってなんだよっ!! あのひねくれ野郎の恥ずかしい部分でも暴いて弄りまくってやるんだよッ。良い考えじゃない?」

ト「陰湿だねー」

お「でもさ、知りたくね? アイツの本音」

チ「本音も何も、俺らのことニートとしか思ってないでしょ」

お「どうだかねー。まあとにかくさ、実際に聞いてみようぜ! 本人に」



──


 一方その頃、松野家宅にはサカキとカラ松が滞在していた。


カ「聞いてくれ、カラ松ボーイ。ブラザーの扱いが全く違うんだ」

『いい加減名前で呼べって。カラ松ボーイでも名前くらいあるからね』

カ「ああ、すまない。サカキ」

『で、何だって? 扱いが違うって何と?』

カ「猫だ」

『はあ? 猫って、なんだそりゃ』

カ「いや、実はその猫はだな……」

お「ただいまー!!」

カ「NOOOOOOOOOOッッッ!!!!」


 話を遮ったのは元気よく帰宅したおそ松の挨拶だった。

 突如として現れたおそ松、他の兄弟も帰宅したようだが、あまりの急展開にサカキは尻込みする。
 何せ六つ子に揃って顔を合わせるのは幾分と久しかったからだ。


お「なあなあ、サカキ。聞きたい事があるんだけど」

『え、何…?』

チ「ちょっとおそ松兄さんっ」

お「ほら、この猫どうよ」

『えっ、この猫サマって一松君が飼ってる……』

お「そうそう! 実はソイツ喋れるようになったんだよっ!」

『はっ……?』

お「エスパーニャンコだぜ! すごくね?」

『エスパーって……』

お「そんでもってさ、サカキっていつこの家出て行くの?」

チ「直球すぎるだろっ!!」

『…………』

ト「おそ松兄さん本当タチ悪いよねー」

お「はあっ? どこがだよ」

『近々出て行くよ』

お「あ、そうなの?」

『俺だって見習いを卒業してさっさとこの家を出たいと思ってたし、清々するよ』

チ「サカキ……」

『そもそも六つ子のニートが暮らしてる家なんて疲れるだけなんだよな。お前らの事好きでもねえし、むしろ嫌いだから。俺だって早く出て行きたいんだよ』


 淡々と紡がれたサカキの言葉は、数日しか暮らしていない六つ子の心に刺さるには十分であった。

 だが──


〈本当は嫌いなんかじゃない。出て行きたいなんて思ってない〉


 エスパーニャンコから放たれた言葉は先程のサカキの言葉とは確実に相反していた。


『はッ…………?』


 サカキはもちろん、思わぬ言葉が出てきた事により、六つ子も黙り込む。


〈コイツらと過ごしてると楽しいんだ。疲れるなんて全く感じた事は無い〉

『な、何言って……』

チ「サカキ、その猫…本当の気持ちが分かるんだよ……」

『本当の、気持ちってッ……意味分からねえし。…いや、そんな風に思ってないからマジで。こんなクソニート共と過ごしてるなんて俺にもそんなモンが伝染ったら困るしッ……』

〈本当の兄弟みたいになりたいのになかなか馴染めない。そりゃそうか、家族でもなんでもないから〉

『だから違うって!! 家族とか兄弟とか俺にはいらねえんだよッ!!』

〈俺には家族がいないからコイツらが羨ましいだけなんだ〉

『……そんな事思ってないッ!! どうせいなくなるなら最初から好きにならきゃいいんだ!!』

〈もう離れたくないくらい好きなんだ。でもその中に入る価値がない〉

『好きじゃないってッ……』

〈俺は誰かに愛されたいだけなんだ。例え六つ子でも何でも良いから。だから俺もここで暮らしたい〉

『………………』



 初めて明かされたサカキの本音。

 今の彼は、飄々として六つ子を貶していた以前の姿など全く想像がつかない。


〈ニャーッ〉


 無邪気に鳴く眼前にいる猫を凝視したまま、サカキは固まっていた。


チ「サカキ……今のって……」

『ッ……』


 声を掛けられ我に返ると、この場にいるのを耐え兼ねたのか、サカキは六つ子と一切目を合わさず家を飛び出して行った。



 
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