短編

□俺と彼奴。
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恋愛と友情の好きの違いが判っていない俺が、恋に臆病な彼奴と付き合い始める話。


彼奴は、決して地味とかそういうんじゃない。
顔も並みの上くらい。
少し人に控えめなところ以外はごく普通の奴だ。
身長も小さくもなければ特別でかくもない。
友達が少ないわけでもない。
普通に数人の男子の輪の中にいる。
ただそれだけの奴に俺は、好きだと言った。

俺の恋愛は長続きしない。

自分から告白しといて、自分から別れを切り出す。
別に嫌いになったわけではないけど…
どこか違うと思ってしまう。
果たしてこれは、恋愛という名の好きに入っているのかと…
付き合い始めて3ヶ月で…必ず別れる。
それで、大体違いは判る。



「ねぇ、俺さ…お前のこと好きだよ。」

彼奴は一瞬、目をあわせてすぐ伏せた。
俺は、何も言わずに彼奴の言葉を待った。
彼奴は、口を薄く開いて

「ふざけんなよ…」

と、言った。
予想を越えた答えに俺は、笑った。
俺は、普通に流されるか「馬鹿か…」とか言われるかと思ってた。
「別にいいよ」なんていう言葉はあまり期待しない…

「何笑ってるんだよ…」

黒い瞳が俺を見る。
ずっと見ていたら吸い込まれそうな気がしたから、目をそらした。

「中途半端な気持ちでそんな大切な言葉を口にするな…」

彼奴は、真面目に応えた。
彼奴は、鞄に教科書やノートを詰めて教室を出て行った。

「中途半端…」

彼奴は、俺の言葉を馬鹿にしなかった。
人に控えめな彼奴が、はっきりものを言った。

ガラッ

考え込んでいたら突然ドアが開いた。
彼奴が…立っている。

「ごめん…」

振られた。
ただ、それを言うためだけにここに帰って来たのかと思うとイラつく。

「いいよ別に…」

はなから期待はしていなかった。
俺は、諦めが早いから…

「いや、その…少し焦って…言い過ぎた…」

彼奴は、俺を振りに来たわけではなかった

「ごめん…」

俺は、驚いていたのかしばらくぼーっとしていた。

「おい、大丈夫か」

彼奴が俺に近づいて、髪をワシャワシャしてくる。

「…返事がほしい」

俺は、彼奴のYシャツをつかみ彼奴の黒い目を見た。

「いや、いきなりそんなこと…」

彼奴は戸惑っている。

「…俺は、お前のこと友達としか見てなかったし、いきなりそんな」

「じゃあ、さ…今から見てよ」

彼奴の目が游ぐ。
俺は席を立って、逃がさないとばかりに肩を強く掴む。

「む、無理だって!」

「…気持ち悪い?」

「いや、ちょ…」

俺と彼奴の唇がくっつく。
彼奴はギュッと目を閉じる。

「…気持ち悪い?」

「〜〜〜っ////」

「返事…」

「わ、わかんなぃ」

再び、顔を近づける。

「待て待て待て待て!」

「…」

「…どーして、俺なの?」

「…わかんない」

そう、誰でもいいという訳ではないはずだ
クラスの男子にもとりあえず美形という奴はいたはずなのに

俺は、彼奴を選んだ

「わかんないのに、どーして」

「…わかんない」

「意味わかんない」

「うん…」

ただ…何となく…だったのかもしれない。
その、何となくが…

これから

どう変わって行くのか

知りたいんだ

女子のときにはなかった

“何となく”



どういう意味をもたらすのかを…


「俺は、」

キーンコーンカーンコーン

「「・・・・・」」

キーンコーンカーンコーン…

「なに?」

「・・・」

「…とりあえず、帰ろ?」

俺は、鞄の中にモノをしまう。
彼奴はただ立ち尽くしている。


静かな教室

小さな女子の会話の声音

時計の針の動く音


何も進まない俺ら

これから進む俺ら


変わらない何か

変わってゆく何か


紅い夕日

2つの黒い影



「ねぇ、」

「・・・」

「とりあえず、」

カラスの声

「手、繋がねー?」

「!?」

驚く顔

「ほら、ダレもいねーし」

差し出す手

赤くなる顔

少し縮まる手の距離


温かい


2つの手








繋がった



end.

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