短編

□儚い
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それは
雪が降ってきそうな

とても寒い夜の日

俺は

“儚い”

というものを知りました





時計の針が12時を回る時、俺は中学の同窓会の帰りで、少し薄めのジャケットと少し長めのマフラーを巻いていた

自分の口から出る白い息が、秋がもうすぐ終えることを意味していて、名残惜しい気持ちで息を吐いてはそれをずっと見ていた

「さみー…」

ぼやいてみても何も変わらないけど、呟いてジャケットのポケットに両手を突っ込んだまま夜空を見上げた

点々と光を灯してる星が変わりなく光続けている

歩いていると信号につかまり、待つのが面倒で歩道橋を渡ることにした

カン、カン、カンと少し鈍い金属音を出しながら階段を上っていく

そのまま、走る車を横目にぼーっと歩いていたら

「おっと!」

何かにつまずいた

暗くてよくは見えないけど、どこかの高校の制服のズボンが見えた

こんな時間に?

と、思いつつもとりあえず話しかけてみることにした

「……風邪、ひくよ?」

「……」

「高校生が、こんな時間にどーした?」

少し、顔を覗き込むようにしゃがんでみると、整った顔が見えた

「外にいたいだけ…なんで、気にしないで下さい」

「……なんかあったの?」

「……」

「深くは聞かないけど、それじゃ風邪ひくからコレ巻いときな?」

そう言って、俺は目の前の男子生徒にさっきまで自分が身に付けていたマフラーを首に巻いてやる

「誰かが心配しないうちにちゃんと、家に帰るんだよ?」

言い聞かせるように、頭を撫でてその場を後にした

歩道橋を降りるのに、再び鈍い金属音を鳴らせる

「(名前、聞いとけばよかった)」

なんて、思いつつ振り返らずに帰った





翌日の朝

蒲団に入っているのに、肌寒さを感じたからカーテンを少し開けてみると白銀の世界が広がっていた

「マジかよ…」

交通機関が停まっていることを予想して、早めに支度をすませる

玄関に行き、靴を履いていると郵便受けに何かが入った

紙袋に包まれた中には、昨日渡したマフラーが入っていた

それに驚いて、勢いよくドアを開けると

「!」

昨日見た、制服の彼の背中が見えた

急いで、鍵を閉めて彼の背中を追いかける

「ねぇ!」

俺は、彼の肩に手をかけ少し引っ張ると顔が見えた

寒さのせいか、頬が少し赤くなっている

「…」

「わざわざ、返しにきてくれたんだ」

付け足しのように、ありがとうと言うと顔をうつむかせた

「それにしても、よく家(マンション)がわかったね」

「…隣の隣」

「え?」

彼は、下に下げていた腕を少し上げて指をさした

「あそこが、俺の住んでるとこだから…」

一度、顔を指をさした方に向けて、すぐに彼を見た

「それじゃ、学校あるんで」

彼は、軽くお辞儀をしてエレベーターに向かって行った

その時見た、彼の微笑みは

消えてしまいそうで

壊れてしまいそうで

見ていることしかできなかった

(……なんて言うんだっけ…)

昨日もそうだった

あの時は微笑んでなかったけど

それでも…同じ気持ちになった

(あ…儚いだ…)

そう、彼は降ってきた雪が人肌に触れて溶けてしまうくらい

儚いんだ







(やべ、遅刻する!)
ズルッッ!!
(あべしっ)←転んだ

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