捧げ物
□紅薔薇(べにさうび)
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届かなくてもいい。最初(はじめ)からわかっていたから。
叶わなくてもいい。もう、いい。
だけど……。
冬の精霊がうとうとと居眠りを始めたのか、太陽の御光が地上に降り注ぎ大地を光で満たす。
それは、冬という厳しい季節になれど、蒼蒼と繁る森もまた然り。
冬に似合わぬあたたかい風が、そっと吹く。
静かにそこに佇む大妖の美しい白銀の御髪をフワリと揺らす。
「………」
…−−知っていて…。
あたたかい風が大妖の白い頬を撫でる。それはまるで清らかな女人の繊手の如く。
やわらかい風が顔に触れ、次いで彼の肉付きの薄い唇に触れた。それはまるで紅薔薇のように深紅に色付き、潤んで艶めく唇を持つ、婀娜な女人を想わせた。
「…いいだろう。お前の戯れに付き合ってやる」
白銀の大妖は、そっと目を閉じた。
唇に触れたそれは、実体がないはずだのに、あたたかく……やわらかかった……。
届かなくてもいい。
叶わなくてもいい。
ただ……。
知っていて欲しい。あたしの想いを…。
Fin
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