捧げ物

□紅薔薇(べにさうび)
1ページ/1ページ


届かなくてもいい。最初(はじめ)からわかっていたから。

叶わなくてもいい。もう、いい。


だけど……。


冬の精霊がうとうとと居眠りを始めたのか、太陽の御光が地上に降り注ぎ大地を光で満たす。

それは、冬という厳しい季節になれど、蒼蒼と繁る森もまた然り。


冬に似合わぬあたたかい風が、そっと吹く。

静かにそこに佇む大妖の美しい白銀の御髪をフワリと揺らす。


「………」


…−−知っていて…。


あたたかい風が大妖の白い頬を撫でる。それはまるで清らかな女人の繊手の如く。

やわらかい風が顔に触れ、次いで彼の肉付きの薄い唇に触れた。それはまるで紅薔薇のように深紅に色付き、潤んで艶めく唇を持つ、婀娜な女人を想わせた。


「…いいだろう。お前の戯れに付き合ってやる」


白銀の大妖は、そっと目を閉じた。

唇に触れたそれは、実体がないはずだのに、あたたかく……やわらかかった……。


届かなくてもいい。

叶わなくてもいい。


ただ……。


知っていて欲しい。あたしの想いを…。



Fin



.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ