小説【短編】
□廻る記憶
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朝起きると枕が濡れていた。
何故だろうと考えたチエは思い出す。
―また、あの夢だ。
チエは夢の中で丘に立っていた。
周囲を見渡しても何もない、灰色の丘。
ここはどこだろうとチエは考えるが、何もわからない。
すると、突然チエの頬には涙がつたっていた。次々とチエの目から涙は溢れ出し、涙を流すことを止めない。
チエ自身はその溢れた涙を拭おうとしない。しないのではない、できないのだ。
チエの流した涙は灰色の丘に染みを作る。
ただただ、泣く。懐かしい人を想うように。
ふと気がつくと、向こうに人影が見える。
チエは走り出していた。
「タクヤ・・・!!!!」
チエはその人物である、タクヤに抱きしめられていた。
『どうしてチエは泣いているの?辛いこと、悲しいこと、何でもいいから俺に話してごらん?』
「・・・・タクヤといると辛い。」
『どうして?』
「タクヤのこと、私ばっかり好きな気がするの。」
『俺はちゃんとチエのこと、好きだよ?だからチエは俺の彼女だろ?』
「・・・・じゃあ、その言葉本当に信じてもいいんだね?」
『いいよ。』
にっこりと微笑んだ彼は、薄くなって消えた。
そこでいつも目が覚めるのだ。
私を愛したのは誰ですか?
あなたを支えていたのは誰ですか?
あなたの[あの言葉]を信じた私が馬鹿だったの?
こんなに優しかったのも、こんなに酷いのも、全部あなた。
そしてチエはまた夢を見る。
あの夢を。