お題20 それは甘い
□1、鼓動
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1、鼓動
ある護衛の依頼が同時に、ユーリとフレンに届く。依頼主はある国王様で、直々の指名のようだ。
王様が寵愛していた、「飴色の占い師」の呪いを解くこと。期限は無制限で、様々な約束事が紙に書かれている。
占いなんて信じたことねーけど、そういうの、信じる奴はいるんだな。きっと全身から胡散臭いオーラとか発してるんじゃないのか。
エステルに呼ばれて何かと思ったら、詳細の書かれた紙を渡される。不安そうに2人を覗き込む彼女には、あくまでも悪気はないらしい。
自己紹介をすることから始まり、話をすること、飽きさせないようにすること等身勝手な約束事ばかり。余程彼女は我が儘なのだろう。
ちらりと見るに、そいつと短期間の旅をしないといけないらしい。めんどくささ極まりない。エステルから追い出されてフレンをちらりと見るが、彼も渋い顔をしていた。
「…やるか?」
「僕は遠慮しておくよ」
「何を言っているんですか!」
エステルから渡された紙を戻そうとそれをつき出すも、彼女は受けとりそうにない。こんな依頼やってられるかと2人は横目で顔を互いに見る。
ため息をついてテーブルの上に置こうとしたら、エステルが2人を部屋から無理矢理押し出した。
「どうすっかな…」
ふと、窓の外に目をやるとなんだか下町が騒がしい。風と共にやかましいラッパの音が入り、仰々しい警備のついた馬車が下町を歩く。
馬車には細やかな飾りをつけ、王家の紋章まで彫られている。野次馬が列をなす中、足元へと消えたのだからあれだろう。
「あれか」
「そのようだな」
相手がもう来てしまったのだから、依頼を受けなければその国に火種が燻(くすぶ)ってしまうだろう。
諦めて、一目見ようという好奇心に負けて辺りを見回す。たくさんの従者を連れているからすぐにわかった。
「…」
「……見れないようだね」
魔術師や魔導士、それらの区別は俺にはさっぱりで何かを囲うようにしずしずと歩いている。真ん中にいるっぽいがつむじすら見る事が出来ず、諦めて壁に寄りかかるフレンの隣に同じく寄りかかる。
両手を頭の後ろで交差してその真っ黒の塊を見ていると、隙間から極薄の黄色の髪が見えた。あぁ、だから飴色なのかと妙に納得した。
後ろからエステルが追いかけてきて、代理でも見つかったのかと淡い期待を持つがエステルの部屋に逆戻り。何やら、もう護衛が始まるらしい。
今日は町を見たいみたいよ、とエステルが2人に言う。腹をくくるか、と苦笑した。
彼女の部屋の隣の部屋に例の占い師がいるらしく、エステルは背をぴんと張りドアをノックする。返事は無く、ユーリはエステルの止める声を無視して扉を開けた。
「邪魔するぜっと」
「ちょっと、ユーリ!」
「失礼します」
待ち構えていたのは高く積まれた本の山、占い師の姿が見えない。倒さないように歩くも、脚の踏み場すら見えない程の本の量。
「すっごーい、本の量………あっ」
エステルがのんきな声を溢し、油断した一瞬が行けなかった。3人の慎重よりも遥かに高く積まれた本のビルが、ぐらりと揺れる。それに連鎖するように辺りの本にぶつかり、倒しそうになる。
『何をしているのですか』
幼いながら凛とした声が開いたままの扉から聞こえて、そちらを見る。頭上から落ちてくるはずだった本は光の粒子に縁取られ、空中で静止。巻き戻されるかのように本の山へと飛んでいった。持っている杖の光が止むと、本を包んでいた光は消えた。
こいつ、ただの占い師じゃなくて、魔法も使えるのか。しっかし目隠ししてんのに、なんで倒すってわかったんだ?それに俺達がいることもわかっていた、なにもんなんだよ。
部屋を移し、エステルの部屋のソファーに4人は座る。3人はルーシェの顔をまじまじと見るも、彼女は気付いていない。
何せ、目を包帯で隠しているからだ。
「あんたが「飴色の占い師」なんだな」
窓から差し込む光がルーシェの髪に当たり、白っぽく細く光る。所々に宝石を散りばめ、しつこくなくフリルをあしらったドレスが寵愛を受けていた事がすぐにわかる。
「失礼、彼は普段こういう口調なんです。なにとぞ…」
『構わないです』
「で、なんで俺たちを護衛に指名したんだ?」
「わ、私が教えたんです!」
若干喧嘩腰のユーリに焦るように、エステルが介入する。エステルがルーシェを庇うように間に入り、ユーリは不機嫌になる。
「俺がそいつに聞いてるんだ、エステル」
「私が彼女と前に会った時に、2人の話をして…」
「エステルはちょいと黙っといてくれよ、俺はこいつと話を…」
エステルは気が高ぶっているのか立ち上がり、続いてユーリも負けじと立ち上がる。2人の会話に、ふ、と小さく息を吐く。窮屈な包帯を解き、まぶたの裏にぼんやりと光を映した。
『破棄して貰ってもいいですよ』
「うし、じゃあな、占い師さん」
「エステリーゼ様、失礼します」
ユーリは小さくガッツポーズをしてエステルの部屋から出ようとし、先程まで我関せずという雰囲気だったフレンも会釈をして追随する。引き戻そうと半歩足を出すエステルの手を掴み、ルーシェは首を横に振った。
『残念ですね……この国と戦うことになるなんて』
わざと聞こえるように言えば、2人は足を止めてこちらに振り向く。エステルは唐突のことで戸惑うばかりであった。エステルを座らせ、ルーシェは2人に微笑む。
ユーリがギリ、と奥歯を噛んでフレンは眉間に皺を寄せた。無言で戻って来て再びソファーに座る。うってかわって、表情は険しい。ふてくされるユーリに代わり、フレンが聞く。
「どういうことですか」
『王に「この国を滅ぼさねば、後々の禍(わざわい)になる」と言うだけでいいのです。貴女方2人のせいで、戦渦になるということですね』
「あ〜ぁ、折角暇を貰えると思ったのにねぇ」
「ユーリ!」
明らかな不満を漏らすユーリにエステルが注意するも、本人に反省の色は皆無。どうだと言わんばかりにルーシェを見るが、気にしていない。
『ユーリ・ローウェル』
鈴を鳴らしたような声に、鼓動が変な音を出す。おかしい、ただ、名前を、フルネームを呼ばれただけじゃねぇか。何、慌ててんだ、俺は。
「ったく、なんだよ」
『1つ、何事もなく破棄する条件を出しましょう。ユーリ』
また、音がした。きっとその言葉に期待しているだけで、俺を呼んだからじゃない。絶対そうだ、そうじゃなきゃ、困っちまう。何なんだ、ホントに。
1、鼓動
それはありきたりなな出会いから。
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