お題20 それは甘い

□6、視線
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6、視線

夕方には目的の街に着き、門を叩く。ルーシェは昼食の後馬車の中で二度寝していたらしく、眠そうな声で応じていた。普段から眠そうな目をしていたためか、まぶたが降りて完全に目は閉じている。

ふらふらと立っているのもやっとで、ほとんどフレンに寄りかかって歩いていた。

門番が身体検査をやるというのでローブを脱いで、それに応じるがルーシェは渋い顔をする。

それはそのはず。触れられれば過去、未来という膨大な情報が見えてしまうのだ。拒否するしかないに決まっている。おそらく門番に言っても、信じてはもらえないだろう。

応じない人間は入れられないとテンプレートな言葉を発し、ルーシェに帰るように言う。乱暴だが仕方がない、ルーシェは彼らのおでこに素早く手を触れて唱える。

『ハイドランジア』

膝から崩れて倒れ、寝息を立てる。ユーリとフレンに手伝ってもらい壁に寄りかからせた。ルーシェは脳に直接眠る命令信号を送ったらしく、どうしてそんな特殊な事ができるかは教えてくれない。

ローブを着て、馬車を引いて中に入ろうとした。残りの2人には大きな扉を押し開けてもらっているので、自分でやるしかない。そこへ、ルーシェめがけて衝撃波が放たれる。

「何やってんだテメェら!」

長い赤髪の男が真っ正面に立ちはだかり、3人の行く手を塞ぐ。ルーシェは気にせずそのまま馬車を進めたので、彼は慌てて端に寄る。攻撃しようとするが跳ね返されて、不法侵入者を通してしまう。

「あ、お前国の坊っちゃんじゃねぇか」

「そういうお前は大罪人!!」

フードを取ってユーリが彼の正体を確認し、ふざけながら恭しく言う。彼はユーリを指差して叫んだ後、冷や汗をかいて後ずさる。からかうのはやめなよ、とフレンはユーリを効果がないとわかっているものの注意する。

彼の後を追ってきたのか、クリーム色の髪の女の子が息を切らせて走ってきた。げ、と彼は声を出してユーリと彼女を交互に見る。

「ルーシェ!久しぶりね」

『ナタリア、ずいぶん変わりました』

「そうかしら?」

馬車の手綱をフレンに任せ、馬車を降りてナタリアと話す。2人は知り合いのようで、彼は訳がわからないと言うように口をパクパク開閉する。ユーリとフレンも驚いたようで、彼女達が説明するのを待った。

ナタリアによれば、以前に占ってもらったのがきっかけで文通するようになったらしい。世界情勢やら国のこと、王位継承者のことを気にしてルーシェに相談をしていた。

城の裏口に案内され、こっそりと馬車を入れる。3人も中に入り、用意しておいたという客室に荷物を置きに行く。貴族には飴色の占い師はあまり有名ではなく、一部の王族だけが知っているらしい。彼女と接触を取ろうと、あわよくば占ってもらおうと裏で画策しているようだ。

さっそくナタリアを占うらしくルーシェは別の個室を用意してもらい、ナタリアを呼んだ。興味本意で例の彼がついてくる。

『出て行って』

「いーじゃねぇか別に、減るもんじゃねーだろ!?」

ため息をついてユーリとフレンによって無理矢理退室してもらう。跡で説明すればいい。扉の向こうでも暴れていて、2人は苦労していそうだ。

ナタリアをテーブルを挟んだソファーに座って、手袋を外してもらう。ルーシェも腕輪と手袋を取ってナタリアの手に触れ、指で皺をなぞるように撫でる。目を閉じてより鮮明に、彼女の全てをみる。しばらくして手を止めて、彼女の目を見た。

『………大丈夫よ、ナタリア。貴方は変わった』

「え?」

『今悩んでいる時間は蓄積され、貴方の力となる。どんな事があろうと先に進む勇気を育み、知性を身に付ければいい……未来の貴方は幸せそうに笑っているわ』

これ以上は言えない、とナタリアから手を離した。安堵したように胸に手を当てる彼女に微笑みかけ、手袋と腕輪を嵌めた。終わった途端に扉が開き、部屋の外にいた3人が入ってきた。

ユーリとフレンが止めているにも関わらず、ルーシェに掴みかかるように彼は怒鳴る。動揺せずルーシェが彼を一瞥すると目が合い、ルーシェがクスリと笑うとまた彼は騒ぎだす。

「そんなもんインチキだ!占ってねぇじゃねーか!!」

『貴方がルーク・フォン・ファブレ…あぁ、ナタリアの言っていた王位継承者の双子の兄ですか。弟と違い感情的で自分勝手に振る舞う事が多く、弟のアッシュ・フォン・ファブレや従者のガイ・セシルや師であるヴァン・グランツに迷惑をかけていますね』

「あら…」

彼はナタリアを見てコイツに俺の事を言ったのかと首を動かす、ナタリアは微笑みながら首を振る。王位継承者がいる事は話していたが、名前やその他彼女の言った事は話していない。押さえていた2人も驚きのあまりルークを床に落とした。

本人も何が何だかわからないらしく、目をしばたたかせて驚いている。ナタリアはなれているらしく紅茶をルーシェに出して、切り分けられているケーキを2人分テーブルに置く。フォークを貰って小さく切り、一口食べて固まっている男性達に言った。

『目が合えば、それくらいの基礎情報はわかりますから』

あのとき包帯を巻いていたのです、と呟く。

どうしたって人が大勢いれば、目が合ってしまうのは避けられないこと。それはルーシェにとって命取りになりかねない。情報が一気に多く流れ込めば、精神的に保てなくなる。だから外気と遮断され寵愛されていたのだ。


あとはナタリアと少し話して紅茶とケーキをいただき、自分の部屋に戻る。ユーリとフレンもルーシェについていき、部屋にはナタリアとルークだけが残る。

「なんなんだ、アイツ!」

「飴色の占い師…」

「はぁあ?」

「かの国では有名でしたの、手足のように動かし無敵を誇る軍隊の指揮者…の裏に彼女が未来を占って助言していたと」

独り言をルークに聞こえるように言って、その場を立ち去る。ルークはまだ納得しないのか、そのソファーに寝転んで頭をかいた。


ルーシェは国立図書館に行くと言うので、2人もついていく。道中は素性を知られたら人が殺到し大変な混乱になるので、フードをかぶって顔が見えないように地面を見て歩く。

すぐ近くにそれはあったので、ナタリアから貰った許可証を見せて中に入った。さすがに広くてルーシェは目を輝かせて背丈より何倍もある本棚に向かい、気になる本を2人に渡し机に置いてもらう。

日が暮れるまでテーブルと本棚とを往復するだけで、2人、特にユーリは暇そうにしていた。フレンは顔に出さないもののあくびを噛み殺し、ユーリは眠そうにあくびをする。

「俺らホントにいる意味あんのかねぇ」

「仕方ないだろう、これが依頼なんだから」

「彼女ふつーに魔法も使えて、護衛とかいらないんじゃねぇの……って」

新しく本を取りに行った彼女はやけに遅く、音もしない。今回2人がテーブルに残ったのは初めてで嫌な予感がして行った本棚に行くも、そこにはいない。焦って、見渡したり探したりするが気配がない。

入り口にのろのろ行って出ようとしたら、靴の裏に何か違和感があった。足をずらしてその原因を見ると、ルーシェの胸元に付いていた装飾の宝石が落ちていた。






視線
それは情報を得る剣





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