お題20 それは甘い

□7、はちみつ
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7、はちみつ

それは小さい時に誘拐されたことを思い出す原因になったが、冷静に装飾品を引きちぎり地面に落としていく。ある童話に同じことをやっている兄妹がいて、それにならう。すぐに直せるから問題ない。

彼は私を図書館から裏通りまで連れていき、両肩を壁に押し付け逃げられないように固定する。目から緊張状態なのがうかがえ、焦っていた。

「なあ、俺も占ってくれよ!」

不安、その一言に尽きる。彼は不安なのだ、双子の王位継承者ということが。何も言わずに見つめると焦りに苛立ちが混じり、小さな肩を揺さぶる。

『初見では、何万もの報酬額になります』

「じゃあなんでナタリアは占ったんだ!!」

『彼女は私が籠にいた時からの友達、貴方は初めて会った人』

同じだと思っているの?

そう言うと、怒り腰に据えられていた剣を引き抜きルーシェに突き付ける。いいからやれ、と脅す仕草は怯えている心情とは対照的だが震えているのは同じだ。

ルーシェと呼ぶ声が聞こえ、背が低い分有利だったのかしゃがんで肩を持っていた手を外し大通りに走る。追いかけて来るも短い距離だから捕まえることは出来ずに、ルーシェは飛び出した。

ちょうどユーリが探している所で、勢いよく腰に抱き着き目をつぶる。触れられる事を恐れて後ろに周り後から来るであろう足音はユーリの前で止まる。

「お坊ちゃんが護衛対象を誘拐する…いい度胸じゃねーか」

「うるせぇ!占って欲しかったんだ!」

そう言い残して城へと雑踏に消えていく。追おうとするユーリの袖を掴んで止め、別方向を指差す。そこは飲食店で、ルーシェはフレンを途中で見つけ2人をその店に連れて入る。

こじゃれた店で席につきメニューを貰って、料理を頼む。この見せは自家製のはちみつが自慢で、それに従いはちみつたっぷりのパンケーキを注文する。2人は値段にびびったのか水だけで、ルーシェの前にパンケーキが来るのを待つ。

ユーリはつまらなさそうに肘をつき、フレンはどこに行っていたのかと聞く。ルーシェは平然と誘拐されたと言うと、フレンは驚いた表情で目を見開いた。その話はパンケーキがきたので途切れ、ルーシェは付いていたはちみつを全てかける。

『ユーリ、一口食べますか?』

「いらねー」

『食べないなら口元をはちみつだらけにしますが』

既に一口だいに切られたはちみつ漬けのようなパンケーキがフォークに刺さっていて、ユーリに向けている。これでは口を開けて食べなければはちみつでベタベタになる。

ユーリは口を開いてルーシェがパンケーキを近付けた手を取り、手を添えてちゃんと口に入るように誘導する。無事に食べて手を放すと、ルーシェがユーリの触れた場所にもう片方の手で触れる。

フレンはその仕草にもやもやと奥底から黒い煙のようなものが現れ、心を不安にさせる。それに気づいたのか表情に出ていたのか、ルーシェはフレンにも切り分けてフォークを向ける。

素直に口を開けてパンケーキを食べさせてもらい、口いっぱいにはちみつが広がる。パンケーキの小麦粉の味など感じさせる事なく、はちみつの味しかしない。

食べ終わってそれが気に入ったのか、別売のはちみつのビンを店頭で買っていた。フードを被っていたので不審に思う視線があったが、お金を払うとそれは無くなる。

城に戻るとナタリアが気まずそうに3人を迎えたが、ルーシェは気にしていないようで部屋に帰る。ユーリは事情を知っていて、連れ去られた本人は何とも言わなかったのでナタリアに気にしていない事を伝える。けれどナタリアは申し訳ないと終始言っていて、最後はこちらが申し訳なくなってしまう。

ルーシェは部屋に戻った後に眠くなって、布団に潜る。小一時間ほどで起きて、枕元にある本を読もうとすると手が大きくなっていた。手だけではない、まな板だった胸も膨らみ、身長もだいぶ伸びている。

呪いが解けたのか、と思ったがまだ何もしていない。多分一時的な変化だろうと判断し、一応伸縮性の優れた服を着ていてよかったと安堵する。

扉がノックされたのでベッドから飛び起きて、扉を開く。彼は私を見た後驚いて、そして部屋の中を覗くような仕草をする。

「ルーシェってやつ見なかったか?」

『私』

「…え、俺が探してるのはもっと小さくて……」

そう言いながらルーシェの服を上から下まで自分の記憶と比べるようにまじまじと見て、わかると走ってフレンとナタリアを連れてきた。2人も驚いたがフレンの驚き方は普通ではなく、ルーシェを指差して地球外生命体でも見たような顔だ。

「な、な、ななな…」

『フレンは一度会いましたね』

「そうなんですか?」

『街にテロリストが出た時に私が軍を指揮したんです』

職業病なのか勢いよく敬礼して、母親に怒られる時の子供みたいにおどおどした。赤くなるフレンをおいて、ナタリアに向き直る。ルーシェの雰囲気で察したのか、ごめんなさいと言った。ナタリアは悪くない、私の体質のせいなのだ。こんな才能がなかったら会うことすらなく、一般市民で終わっていただろう。

後悔など城にいるとき数え切れないくらいして自分が憎かったが、今となってはありがたい。こんなにも個性的で飽きない人達に会えたのだから。

『気にしてないわ、この事は内密にしておきましょう。…彼を呼んでくれない?』

「わかったわ」

ナタリアは小走りにルークを呼ぼうと急ぎ、そこには3人が残る。2人はまだ信じられないようでまじまじと見てルーシェと目が合わないように、不自然な方向を向く。

ルークが嫌そうな、気まずそうに目線をそらしてナタリアに連れて来られる。ルーシェはナタリアが腕を放すと同時にルークの腕を掴み、引っ張って自分の部屋に入れた。

ソファーまで手を引いて座るように促し、紅茶を注ぎ今日買ったはちみつをスプーンで入れた。渋るルークの知りたいことはわかっているし、座らなくても別に構わない。だが、座ってもらわないと何となく気分がのらない。

『ルークは自分が王になれるのか知りたいのでしょう』

「っ!」

もう一度促すと座り、飲みやすい温度になった紅茶に口をつける。苦味が少なくて私の好み、彼をちらりと見ると多少は緊張しているらしい。そういう性格だとは思わなかった、案外繊細なのかもしれない。

手袋と腕輪を外し、手を見せてもらう。マメができていて、毎日剣術の訓練をしている。弟であるアッシュと何かと衝突し、毛嫌いして感情的だ。2人共互いが対照的な性格、外見、思想…相容れない存在。

『教える事はできないわ』

「なんでだよ!」

『教える事であなたの未来が変わる可能性がある…あなたはもっと他人に寛容になった方がいいわよ』

「はぁあ!?」

しっしと手を払うように彼に振ると立ち上がり、その衝撃でカップから紅茶が零れる。失態にくすりと微笑みかけて自分の紅茶を飲み、テーブルを拭いたタオルを渡す。彼は吹いている途中でもこぼし、最終的に全部飲んでから拭けばこぼすことはないという結論に至った。

いれ違いにユーリとフレンがやってきてソファーに座り、ルーシェに聞く。

「呪いは解けたのか?」

『多分、一時的に』

「一時的にって…!」

感情が身体で出やすいフレンは膝でテーブルを動かしてルーシェに当て、追加で入れようとしていたはちみつをルーシェの顔にかける。笑顔でフレンに言う。





はちみつ
舐めて綺麗にしてもらえるかしら?





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