Story:花嫁は男
□花嫁は男!?その1
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俺はその日まで、本当に普通の、なんでもない人間だった。
本当に本当に普通だったんだ。
あの事件さえなければ、俺はずっと普通でいたはずだ。
子供が街を駆け回っていた。
きゃーきゃー言いながら、そりゃもう楽しそうに。
それ自体は何らいつもとかわりない。
かわりがあったのはその直後。
「うわぁ!」
さっきの子供の悲鳴に、俺は手元から顔を上げた。
買い物途中だったもんで、荷物がいっぱいだ。
そちらを見ると、どうやらその子供は馬にぶつかってしまったらしい。
その馬というのが真っ黒な、いかにも貴族が乗りそうなそれで。
うわぁ……。
厄介なことになりそうだ、と心の中で呟いた。
「………」
騎乗の人物は黒いマントを身に纏っていて、顔まで隠している。
それなのに、子供を睨み付けているのがよくわかった。
「貴様!この方の馬にぶつかってくるとは、なんという恥曝しな!」
言ったのは近くにいた兵士らしき男。
男は腰に収めてあった剣を抜き去り、切っ先を子供に向けた。
周囲からは悲鳴が上がり、だんだんと雲行きが怪しくなってきている。
子供は今にも泣き喚きそうな顔をしていた。
「ごめっ……、ごめんなさい……」
「子供とて容赦はせぬ!貴様がしたことは大罪だ!」
もう黙っていられなかった。