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□ずっと一緒
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「呼び出したりしてごめんね、槙彦くん」



放課後の誰もいない教室に男女の二人の影がある。
二人の距離は近い。
女は隣のクラスの可愛いと評判の池谷だ。

よくこうして呼び出されることはある。
一週間に一回は呼び出されるし、毎日のように靴箱には手紙が入っている。



「槙彦くん」

「……なに?」



池谷は緊張した面持ちで、俺に可愛らしい封筒を両手で突き出してきた。
可愛い。
本気で可愛い。



「これ………」



でもそれは……



「幹彦先輩に渡しておいてください!」



池谷は俺に封筒を突き出して、パタパタと教室を出ていった。

あぁ、もう……。
ふざけんなよ!
なんで俺がこんな役回りなんだよッ!
いつもこんなんかよ!



「やってらんねぇ……」

「槙、どうしたの?」



ひょっこり一年の教室に現れたのは、先ほどの話題の人物だ。

いつもニコニコしてて。
優しくて。
温厚で。
頭が良くて。
格好良くて。
背が高くて。
でやっぱ優しくて。



「……なんでもない」



俺の一つ違いの兄貴で。


ムカつく。
なんでいっつも幹なんだよ。
俺は?
俺は好かれないわけ?
俺だって、俺だって……。



「槙?」

「……帰るんだろ。行こうぜ」

「槙、話してくれなきゃわからないよ」

「だからなんでもないって言ってんじゃん!」



誰のせいだよ。
構うな。



「槙」

「うるさい」

「……さっきの子に何か言われた?」

「!」

「そうなんだね」



反応した俺は馬鹿だ。
幹がそれに気が付かないわけがないのに。



「……違う」

「俺に嘘つかないで、槙」



幹に嘘はつけない。
ばれるから。
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