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□みんなのメリークリスマス
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拓に言われなくても、幹にはあげるつもりだった。
一応毎年あげてるわけだし。

でも改めて言われると、なんというか……。
尺に触るというか……。


幹はくれる。
絶対くれる。
しかも俺が喜ぶようなモノ。
だから俺が困るんだ。
幹がプレゼントごときで喜ぶとは思えないし、幹の欲しいモノなんてピンとこない。

あぁー!
くそっ!
あの万年笑顔野郎!


とか言いつつ買ってる俺は、一生幹から離れられない気がした。
兄離れ弟離れなんて、俺たち兄弟には縁遠い。



「メリークリスマス、槙」



幹からぽん、と渡されたのは、手のひらサイズの四角い包み。
幹は顔で「どうぞ」と示したので、ビリビリと包みを破く。
中の白い箱をあけると、ずっと前から欲しかった好きなブランドのネックレスだった。



「うわ、ちょーかっこいい!すご!」



毎年同じようなコトを言ってる気がする。
でもこれが俺の本心なんだから仕方がない。

幹はそんな俺の反応に満足したようで、より一層笑顔を濃くした。



「なんで俺の欲しいもんわかるの?」

「槙のコトならなんでもわかるよ」



この野郎……。
しれっと言いやがって……。
ますます渡しにくくなった。



「その……、あのさ……」

「ん?」



ごもごもと口籠もりながら、無造作にポケットを荒らす。
やはり小さな薄っぺらいソレは、少しだけ折り目がついた。



「こ、これ……。く、クリスマス……、プレゼント……」



どうにも上手くいかなかったが、なんとか幹の手に押し付けることに成功。

幹はきょとんとして、綺麗に包まれた封筒を開けた。
いつになく俺の全身が緊張した。



「これって……」

「も、もうすぐ幹は受験だろ?それに幹は難しいとこ行きたいみたいだし……。だから、さ……」



なんだか恥ずかしい。
毎年こんなんではなかった気がする。



「幹の受験が全部終わったら、ふ……」

「ふ?」

「ふ、二人で、行きたいなって……」



ペアの旅行チケット。
行き先は伊豆。
俺たち二人が生まれた奇跡の場所。

初めての二人きりでの旅行にはピッタリだと思った。



「槙……」



幹に喜んで欲しかった。
でもそれ以上に、最後のクリスマスになるんじゃないかって、すごく怖かった。


大学に行ったら、幹は遠くなるの?
俺から離れてしまうの?

そんなのは絶対いやだ。



「ありがとう、槙」



頭を撫でたあと、そっと優しく抱き締めてくれる。

離れるなんて、考えたくない。
いやだよ。
幹がいなきゃ俺は……。



「同じ大学に入ってね、槙」

「えっ?」

「槙がいなきゃ楽しくないんだから」



その言葉で俺がどれだけ救われてるか。
幹はわかってるのか?

最高にうれしいクリスマスプレゼントだってことに、気付け。



「ばか」

「兄弟だからね」



なんで兄弟なの?ということよりも。
兄弟でよかった。
今だけは、そう思いたい。
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