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□みんなのメリークリスマス
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雪がこんこんと積もり始める。

きれい、よりか、さむい。



「辰巳さん、寒いよ。窓しめて」



辰巳さんはちらりと僕を振り返ると、にっこりと微笑んでから窓を閉めた。

辰巳さんは雪が好きなのかな。
初めて二人で迎える冬。
なんだか胸の辺りがこそばゆい。



「拓は寒がりだな」



そう言って辰巳さんは後ろから抱き締めてくれた。

このぬくもりが好き。
なんでこんなに寒いのに、辰巳さんといるとあったかいんだろう?

あったかい。



「そうだ」

「ん?」

「辰巳さん、今欲しいモノとかありますか?」



辰巳さんは僕から体を離し、唸りながら頭をひねった。
僕は辰巳さんに向き合うように座り直す。



「あ」

「ありますか?」

「あぁ、ある。かなり欲しいモノ」

「なんですかなんですか?」



あまり物欲がなさそうなイメージだったから、興味が湧く。
無意識の内に僕は身を乗り出していた。

辰巳さんはにこりと笑ったかと思えば、次の瞬間には僕を押し倒しにかかった。
ふいのことで力が入らず、僕は簡単に辰巳さんに組み敷かれてしまった。



「うわっ」



頭こそ打たなかったが、出っ張った背骨が痛い。
冷たい床とは裏腹に、目の前のぬくもりは近づいてくる。



「拓」

「えっ?」

「拓がめちゃくちゃ欲しい」



かぁっと顔に熱が昇る。
そういうこと言ってるんじゃないのにっ!

辰巳さんはニヤリと口の端を持ち上げた。
わざとだ!絶対!



「辰巳さんは!すぐそうやってはぐらかして……!」



そう言って辰巳さんの胸板を押し返すと、それはあっさりと引いていった。

少しだけクスクス笑ってるのが気に入らない。



「もう……。僕は真剣に聞いてるのに……」

「いやいや、まぁ本当のことではあるけどな」

「だからぁ!」



その後いろいろと辰巳さんに聞いてみたが、

「拓」

というふざけた(本人曰く半分本気)解答と、

「ない」

という参考にならない答えだけしか返ってこなかった。





なんで聞いたのか、わからないわけではないと思う、けど……。

初めてのクリスマス。
二人で過ごす初めての聖なる夜。

女の子っぽいかもしれないけど、すごく楽しみなんだ。
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