オリジナルBL小説
□華道家の花嫁候補(?)SSのみ掲載
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宗一朗さんと宗汰くん
蝉が鳴り響く中、宗一朗は家政婦から出された冷たい麦茶を飲んで、グラスを卓袱台に置いた。
江戸中期に生け花の根源から枝分かれした家元の邸宅とあって、分家である自分の家より四倍の広さはある。
奥に位置する家屋自体はそうでもないのだが、やたらと広い庭が長く続いている。
春夏秋冬の名に相応しく、それぞれ四つの季節が楽しめる造りになっており、ここを訪れる客たちも雅やかな庭園に心静まるのだという。
網戸の向こうの庭を眺めながら、宗一朗は本家の客間で家元と対面していた。
「それで私に話とは?」
先日家元から電話があり、大事な話があると言って呼び出されたのだ。
「この生け花、どう思うか?」
家元の背後の床の間には、盛花が生けられてあった。
盛花は生け花の中でも基本中の基本だ。
初心者の多くは、まず盛花から学ぶ。
「まだ年数の経っていない方のようで。直弟子が生けられたのですか?」
家元の自宅に生けてあるということは、関係者が生けたものだ。宗一朗に見せるために、わざわざ床の間に置いたのだろう。
しかし家元の関係者が生けたにしては粗雑さが目立つ。形が整ってはいるから初心者ではないだろうが、習い始めて三、四年というところか。
「宗汰が生けた」
「え?」
宗汰とは家元の長男だ。今年の春に高校に入学したばかりで、もうすぐ十六になる。
「しかし宗汰は幼稚園児のころから……」
習っていたにしては、これは単純に生けてあるだけだった。どうすれば美しく見せられるか工夫が出ていない。
「今週は行ったが、先週も先々週もまた稽古を休んだと、篠田から連絡があったな」
親が教えるのでは本人のためにならないだろうと、家元は息子を篠田という講師の教室へと通わせていた。