いろいろ
□微糖
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俺の恋人――高杉晋助は、基本的に甘いモノが苦手だ。
それらはミルクチョコレートだったり、生クリームをたっぷりとつかい苺をあしらったケーキなどといったものは勿論、角砂糖を2個入れたコーヒーでも不快な顔をしていた。
だけど、そんな甘いモノ嫌いの俺とはまったく逆の舌をした高杉でも、大好きな甘い飲み物があった。
「銀八、ココア」
国語準備室の乱雑に置かれたバランスの悪い机に座っていた高杉は、俺の姿を見るなり足を左右にパタパタさせてそう願ってきた。
その姿に俺は苦笑する。
高杉の大好きな甘いモノ。
それは俺が作るココアだ。
「ココア、作れ。お湯沸かしといたから」
そう言って高杉が指差した先には旧型のストーブの上でしゅんしゅんと湯気を吹いている古びたヤカンがあった。
これが沸騰するには少し時間が必要なはずなのに、どれくらいこの準備室で俺をまっていたのだろうね。この子は。
「高杉、お湯沸いてるんだからココアくらい自分で作ればいいでしょ?俺の作るココアってもただの市販の粉で作ったココアだよ?」
少しいじわるをしてみた。
にやけようとする顔を抑えて無表情をつくるのは俺の十八番だ。
高杉はそんな俺をみて眉間に皺をよせムッとした顔をつくった。
美人っていうのはそんな顔をしても美人だからすごい。
「なんども言わせるなよ。お前が作れ。ココア」
「何度も言うけど、高杉がつくったらいいんじゃないの?バレンタインに志村姉にも負けないくらいのダークマターをプレゼントしてくれた晋ちゃんでも、粉入れてかき混ぜるくらいは出来るでしょ?」
「ダークマター言うな。・・・・・・だから!お前が作ったココアが飲みてぇんだよ!満足か!?速く作りやがれこの白髪!」
最後はほぼ絶叫するように叫んでプイっと顔を背けた高杉はそのままブツブツとなにかを呟いている。
そんな高杉の姿に俺はにへら、と破顔し、棚にしまっておいたココアの袋を取り出す。
ついでに、アレも。
高杉が後ろでブツブツいじけているのを確認し、こっちを見ていないのを見計らって、其れを入れる。
別にいけない薬とかじゃない。
甘い、黄金色のトローリとしたアレだ。
それをスプーンで掬い、ある程度の量を初めから用意してあった高杉のマグカップと俺のマグカップに入れる。ちなみにそれはペアだ。いやがる高杉を説得し、なんとか買った品物。
それからは普通にココアを作る。
隠し味には愛、なんて三十路間際のおっさんには痛いかもしれないことを心の中で呟き、高杉を呼ぶ。
「高杉、ココアできたよ」
そう呼ぶと高杉はいじけるのをすぐにやめ、トコトコと俺に向かって歩いてくる。正確には俺の手元のココアに向かって歩いてくる。
「はい、銀八先生の特製ココア」
「ん」
猫舌の高杉のために少しぬるいお湯。
寒がりの高杉のために暖かい部屋。
俺のココアが大好きな高杉のために特別な隠し味。
そして。
「んッ、」
寂しがりやな可愛い可愛い俺の高杉のために、俺から愛のこもったキスを。
「――、ぷはっ、なにしやがんだ白髪!」
「ぶほぉ!」
3秒後には瞬殺されたけど、顔が寒いからとか熱いからとかじゃなく赤いから、照れ隠しってとっていいよね?
おわり
恥ずかしいのは百も承知。
甘いの書けたかな?
ていうか短い。