いろいろ

□いつかのバレンタイン
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去年のバレンタインの話とリンクしてます。
先にそっちみたほうがいいかも。





もうすぐバレンタインデーだ。
口の中で溶ける茶色い西洋菓子を片思いの人もしくは恋人的ななにかにあげる日だ。

そして、俺は今人生最大とまでは行かないけど人生の雑魚ボス的な存在のものにぶちあたっていた。



それは、恋人、つまり、銀八に手作りのチョコレートをあげるかどうかだ。



チョコレートをあげることは決定事項なのだが、(一昨年上げなかったら酷い目にあった)手作りにするかどうかが問題だ。

去年銀八に手作りチョコレートをやったら銀八は次の日腹痛で一週間学校を休んだ。
チョコレートを食べた神威曰く、「この世の終わりのような味」だったらしい。
流石にそこまでは言いすぎなような気がしないでもない、かもしれない、かも、だけど。

つまり俺のチョコは破壊的な味がするらしい。

なので俺は今迷っているのだ。



銀八が腹をこわし一週間も会えないなんていやだ。
だから、今のところ買ったチョコレートをあげようかと考えているのだが。


悩んでいてもしょうがない。ここは、銀八と同じチョコを食べた神威に聞いてみよう。
また、あのチョコを食べたいかどうか。



「神威、ちょっとこい。」


アホ毛をぴょこぴょこと揺らし、神楽にチョコを強請っている神威を呼ぶ。
神威はすぐに俺を見て、「なにー?晋助」と俺に寄ってきた。


「バレンタインの話なんだけど、」

「晋助の作ったチョコはもう二度と食べたくないよ?」



笑顔で瞬殺された。そうか、と返して決意をする。
少し虚しい気もするが、仕方が無い。

今年のバレンタインは、店で買おう。











で、バレンタイン当日。




俺はその買った地味に高いチョコを握り締め、国語準備室の扉の前でこぼれそうになる涙を必死に堪えていた。

準備室の中には銀八がいる。
対して、俺は寒い廊下で一人だ。

理由は簡単、ではない。けど。


「・・・・・・う、」


たまらず、涙がこぼれた。
チョコレートの包装にそれはポトリと落ち、じんわりと広がり綺麗な包み紙に染みを作った。

「あ、やべ・・・、う、あ、・・・」

一つ落ちるとそれはとまらなくて、次から次へと包み紙に染みをつくった。

銀八には、このチョコレートを渡すはずだった。

少し高級な店で買った、少し高級な、あいつ好みの甘いチョコレート。恥ずかしいが、ハート型を選んでやった。

全部、全部、アイツが喜ぶと思って。

でも、





『いらないよ』

『・・・・・・え?』

『そんなチョコなんて、いらない』





チョコをあげようとしたら、断られたのだ。
他でもない銀八に。

「・・・ッ、」

パンッと、チョコレートを床に叩き付けた。
ぐしゃり、と音を立ててそれはつぶれる。
そしてそのつぶれたチョコレートを踏み潰した。
ぐじゅぐじゅに、痕跡なんて残らないようになってほしいと願ったけど、それは無理で、粉々になった茶色い残骸が包装からはみ出て廊下を汚すだけだった。

俺のこころみたいに。

ぐっしゃぐっしゃになって、つぶれて、それでもまだ残骸を保っていて、周りを汚して巻き込んで、溶けなくて、でも割れて、粉々になって、惨めな姿になって、
踏み潰して砕いて蹴ってすり潰してこすり付けて粉々になれ。

















「・・・なにやってるの」

「うわッ、」




最後のとどめをさそうとして高く振り上げた脚をパシリ、と後ろからつかまれた。
そのままバランスを崩して倒れそうになるけど、俺の脚を掴んだ張本人によってそれは阻止され、俺の体はソイツの胸に背中からボスリ、とおちた。


「・・・・・・。なにをトチ狂ってるの」


銀八が、若干呆れた顔をしながらそこにいた。















「で、なにしてたのか言ってくれる?」

銀八が廊下のつぶれたチョコレートに視線を向けながら、俺に質問する。
俺が逃げ出せないように俺の体に手を回しながら。

逃げ出せない。
泣き顔を、隠せない。

「高杉?」

銀八が、俺の顔を覗く。
その紅い瞳を、直視できない。

「・・・・・・。」

銀八が、ハァ、とため息をついた。

呆れられた?
重い、って、思われた?
お前も、俺を置いていくのか?

いやだ、銀八、好き、好きなんだよ。

どろどろと溶け出す気持ちが喉の奥で塞き止められ、言葉となる前に飲み込まれて胃に流れていく。胃はそれを受け入れれず、異常反応としてまた喉に戻す。
繰り返し、繰り返し。








「・・・俺はね、お前のダークマターでも、何でもいいから、お前の手作りが食べたかったんだよ」

喉からあふれそうになる寸前、その言葉は唐突に鼓膜を揺るがした。

「・・・え?」

驚いて振り向く。
紅い目と視線が絡まった。
いつもの濁った目ではなく、どこか暖かい瞳だった。
それだけで、なんか嬉しい。

違う、そうじゃない、今、こいつが言った言葉。


俺の手作りチョコが食べたい?





「俺ね、本当にこの日楽しみにしてたんだよ?高杉が一生懸命作ってくれたチョコレートを食べれる日なんだよ。顔赤くしながら、コレ、って差し出される暗黒物質を食べれる嬉しい日なんだよ」

銀八がしみじみと言う。
なんだ暗黒物質って。

「俺は、お前がそういう風に暗黒物質とか言うから、嫌だったのかって思ってわざわざ店から買ってきてやったんだよ・・・」

「嫌なわけないじゃない。俺の大好きな子からのプレゼントなんだから」

大好き、という言葉が心臓を大きく揺るがし、顔に大量の熱を送ってきた。

「だから、ね?高杉の手作りチョコレートを俺に頂戴?」







あ、やばい、幸せすぎる、かも。

















後日、俺が贈ったチョコレートを銀八は嬉しそうに食べ、見事に腹を壊していた。





終わり

おくれましたが、ハッピーバレンタイン!

びっくりだよな。こいつらこれ学校の廊下でやってるんだぜ。

ヤンデレになりそうなのを慌てて軌道修正したのは秘密。

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