いろいろ
□振り向いて高杉君!
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桜が舞う校庭と呼ぶには些か小さすぎる場所で、まだ生まれて5年ほども経っていない小さい幼児達が遊んでいた。
そこはとある幼稚園で、自分の子供の社会性を学ばせたい親が小学校に入れる年齢に達していない子供に通わせる場所である。
その桜の舞う場所で女の子はピンク、男の子は青色のスモックを着て各自自由に遊んでいた。今はどうやら自由時間らしい。女の子は砂場で泥団子を作ったりシートを敷いておままごとをやっている子が多いのに対し、男の子は追いかけっこをしたり、遊具で遊んでいる子のほうが多かった。
だけどそのなかで一人の男の子が女の子と混じっておままごとをやっていた。
彼の名前を高杉晋助といった。
この幼稚園ではクラスごとに「さくらぐみ」「うめぐみ」「いちょうぐみ」「もみじぐみ」「ぽぷらぐみ」「ももぐみ」「ひよこぐみ」と名前が別れていて、年長生がさくらぐみとうめぐみ、年中がいちょうぐみ、もみじぐみ、年少がももぐみ、ぽぷらぐみ、それ以外のもっと小さい、乳児といえるような年齢の子はひよこぐみとなっていて、彼は今年この幼稚園に入園したばかりのももぐみの生徒だった。
なぜ彼が男子に混ざらず女子と一緒にままごとをやっているかというと、彼のその容姿の影響が大きかった。
子供ながらに真っ白な肌、子供特有のぷくぷくしたからだ、少し猫ッ毛のカラスの濡羽のような細い髪の毛、くりくりっとした大きな目、どれをとってもすべて愛らしく、高校生ほどになればとても美しく(男の彼に美しくというのも変だが)なれるであろうと運命ずけられた容姿をしていた。
なので入園したその日から女子の人気も勿論の事、男子からも人気があった。仲には彼をお嫁さんにすると言ってのけた者もいるほどだ。
とにかく、とても容姿が優れた彼は、彼のことが好きな女子数名に半ば強引に引っ張られ、おままごとをすることになったのである。
まぁ彼を取り合って喧嘩する女子もいるのでそこには必然的に先生が着く事になるのだが。
「はい、晋助様、夕食ができたッスよー」
そういってにこにこと笑いながら彼に泥団子を手渡すのはぽぷらぐみの木島また子ちゃんである。
「・・・うん。ありがと」
「も〜、晋助様、そこは『夕食なんかじゃなくて、また子、お前が食べたい』って言うとこッスよ〜」
「え?」
「ちょちょちょ、また子ちゃん、それ、どこで知ったのかなぁ〜」
慌ててフォローを入れたのは黒髪の男の先生の土方十四郎である。彼は今だからこんな口調だが、普段はもっと乱暴な口調のヘビースモーカーであった。そして彼も容姿がとてもいいので、彼も女子からの人気が高かった。まぁ男の子で一人彼のことを好きな子もいるのだが。
「夜10時からのドラマでやってるッスよ。でもやっぱり今は体が目当ての男ではなくてやっぱり私のことを一番に考えてくれる男と結婚したいッスよね。」
また子は当たり前のように言ってのけ、土方が言葉を失っているうちに彼女は高杉にもっと過激な要求をする。
「その後晋助様は私の手を握って寝室にいこうって言うッス!はやく!」
「え?え?って、うわっ」
晋助がまた子の言っている意味に解らずと惑っていると、彼は急に何者かに後ろから背中を蹴られ、前に手をついた。
「こら、なにやってんだ!」
土方がそれにいち早く行動を起こす。
すばやく高杉を助けおこし、彼を蹴った人物をどなりつけた。
高杉を蹴った犯人は、土方に怒鳴られてもどこ吹く風のように飄々とした態度で晋助をみおろして、その口を開いた。
「なに女と一緒に遊んでるんだよ、女男」
幼児特有の高い声を精一杯に低くして喋る彼は、うめぐみの坂田銀時だ。
彼の容姿は少し特徴的で、何より目をひくのはその銀色の髪色だ。どうやら染めたものではなく、地毛らしい。その髪の毛は天然パーマであちこちに好き勝手はねており、飴玉をはめ込んだような暗い赤色をした大きい目をしていた。
彼はこの幼稚園に入園してきた初日こそ、髪の毛の色で園児から苛められていたが、彼がそれにキレて苛めてきた園児を殴り飛ばすという事件が起こり、それ以来彼は誰からも苛められず、かつ誰からも近寄られず、ひとりぼっちで過ごしていた。園児は彼に怯えてしまっていたのだ。それには彼自身解っているようで、ほかの園児とは必要以上に話したりなどしなかった。
高杉が入園してくるまでは。
単刀直入に言うと、銀時は高杉に一目ぼれしてしまったらしい。
だが銀時は今までほかの子供と社会性をもった行動などしてこなかったので、初めてのその恋にどうすればいいかわからず、混乱しているようだった。
高杉の気を引きたくて苛めて、喧嘩をして高杉を泣かせ、高杉の涙にどうしていいかわからず慌てて、でも結局逃げて自己嫌悪に走り、うめぐみの教室で一人落ち込んでいる彼の姿をよく見かける。
彼は不器用なのだ。
「女男っていうな!俺は男だ!」
「女とままごとしてんじゃね〜か、だからお前は女だ!」
「これは誘われたから・・・」
「言い訳すんなよばぁ〜か」
「ばかっていうほうがばかだ!」
「あ、ほらお前もばかっていってんじゃねぇか」
はぁ、と土方は溜息をついた。
なんという不毛な子供っぽいやりとりなんだろうか。いや、彼らは子供なのだが。
だがそろそろ止めないと高杉が泣き出し、銀時が自分の教室の隅で自家製きのこを栽培することになるので、二人の喧嘩を止めるべく土方はタイミングをうかがっていた。
「この女男!お前もう男子トイレ使うなよ!それから女みたく青じゃなくてピンクのスモック着ろよばーかっ!」
「・・・っ、女じゃ、ふぇ、ね、よ、ばかぁっ・・・う、うぇ、ふわぁぁぁぁぁっ!」
だが土方はタイミングを見誤ったらしい。
銀時の言葉に高杉は堰をきったように泣き出した。高杉の涙に銀時は驚き、目に見えて慌てだす。これもいつものパターンだ。なぜこの子供は学習しないのだろう、と土方は密かに思う。びみゃあああ!と泣く高杉を見て混乱した銀時は踵を返し逃げようとした。
そしてそんな銀時の首根っこを土方が鷲掴む。
「待てコラ」
「・・・う」
土方の鋭い視線に銀時は少し青ざめ、体を硬くさせた。
「今日という今日は逃がさねぇ。ちゃんと高杉君に謝れ」
土方の迫力は、大人もはだしで逃げ出すほどだったので、幼稚園児の銀時にはとても怖かっただろう。すこし涙目で、でも土方に反抗していやだ!と大声を上げると全力で土方から逃れようと暴れだした。
「だって、そいつが悪いんだ!俺だって、う、俺だってこいつと・・・、なのに、こいつが女ばっかと、うぇ、ふ、うう、うわぁぁぁぁぁっ!」
ついに銀時も泣き出してしまい、周りの園児は銀時が泣いた事にたいそう驚き、土方は困惑した。
この場合、銀時が悪い。
彼に少しの頭の良さと、ちょっとした紳士性が加われば、このような事態にはならなかったのだが、彼は幼かったのだ。
高杉のほうも、銀時が泣いた事に驚き、大きい目をくりくりと見開き、銀時が泣きじゃくる様子をぼんやりと観察していた。
銀時は、好きな子に自分がないている姿を見られるのが恥ずかしかったのだろう。泣きながら土方、また子、そして高杉のもとから走り去ってしまった。
「・・・なに、あいつ」
高杉が銀時の奇行を理解できず呆ける。土方はこの事態をどう収束させようか考えていた。とりあえず、銀時に謝らせるほうが先だろう。どんな理由であれ、これは悪いのは銀時だ。それから、銀時の気持ちをゆっくり聞くのがいい。本人が言いたくないのであればまた別の話なのだが、きっと彼はいいたくてしょうがないのであろう。だが、照れてしまいこのような事件が起きる。
ああ、なんとも幼い恋なのだろう!
おわり
でもこのあと坂田はこの恋心を小、中、高と引きずることになります。この小2病(笑)がピークなのはやっぱ小学校低学年くらいかなー。
あ、土方に恋する幼稚園児というのは基本読み手様の自由ですが私は沖田君あたりがいいかなーと踏んでおります。