いろいろ

□王子様はノイローゼ
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未完。








昔テレビで野球だかテニスだかのボールが頭に直撃して以前より記憶力が常軌を逸するほど良くなった少年の話を見たことがある。
頭にボールが当たって脳がその衝撃によりなんらかの変化をしてそうなったらしいのだが、いまだ現在の科学の力を持ってしてもその原因はよくわかってないらしい。

このように、脳に衝撃があるとなんらかの変化をもたらす可能性があるらしいのだが、流石にこれはどうかと思う。


「・・・なんなんだよ、コレは。」


俺はつい先ほどまで本まみれの自分の埃っぽい部屋を掃除していた。
何年もかけて集めた本の城を、流石にもう読まないものは処分しようと考えて昨日から掃除をしていたのだ。

そこで起こった出来事だった。

本をあまりにも高く積み上げて出来た壁に足がちょっとした不注意でぶつかってしまったのだ。
高いし硬いがとても脆い本の壁は、瞬く間にその姿を崩し、俺に向かって倒れて来た。
最後に見たのは、幼少の頃に愛読していた絵本の表紙で、それが頭に降ってくる、と思ったところで脳に強い衝撃が走り、世界が暗転した。


俺の予想だと多分、いや絶対といってもいい。あの絵本は俺の頭に直撃した。
絵本といっても大きくて硬いものだったし、それが高いところから降ってきたことによって加担される重力なども合わさって結構な重さになっていたのだろう。

だとしても、この状況はどういうことなんだ。



「・・・・・。」



俺が今踏んでいる土地は、薄汚れた自分の部屋の床ではなく、見たこともないような大草原だ。
たとえるなら、子供の頃によくみたアニメのあのどでかい空中ブランコに乗った少女が住んでいた場所のような。
柔らかい風が俺の体を通り過ぎていく。どこからか鳥の声が聞こえてくる。

そのなだらかな情景とは反比例して俺の心拍数はどんどん上がっていった。

俺が住んでいるのは現代日本の東京だ。
あんなコンクリートジャングルでこんな場所あるとは思えない。
あのアニメの舞台のスイスにならあるのかもしれないけど、此処は何度も言うが日本だ。
そして俺の部屋だ。俺は部屋の掃除をしていたところなんだ。


そこまで考えて、ある憶測が頭に浮かんだ。

もしかして、俺は死んでしまったのだろうか?


俺が最後に見た記憶は、本が自分の頭に当たりそうになる、というところだ。
そこで視界が暗転、目を覚ましたらこんな大自然の中だ。
もしかしたら、俺はあの本が頭に当たってあっけなく死亡したのではないか?それで天国である此処に来たのではないか?

人が一人も見当たらない中、悪い想像が次々と頭を過る。
いや、天国にこれたのだから良いことなのか?
否、いいことなワケあるか。俺はまだぴっちぴちの大学生なんだ。19歳なんだ。本が頭に当たってあっさり死亡なんてできるか。
大体、こんな大自然の中、なにをしろというのだろうか。
なにもしなくていいのか。
ううむ、と頭を捻りフル回転させる。普段読書にしか活用していない頭を使うととても疲れる。勉強なんて考えなくてもできるからな。・・・、アレ、なんか俺いますげー嫌な奴になった気がする。


ぐるぐるぐるぐる、自己嫌悪に陥っていると向こうのほうからパカラッ、パカラッ、と漫画でしか聞いた事のないような擬音とともに白い馬とそれに乗った男が見えてきた。

大草原の草を掻き分けながら確実にこちらに向かってくる馬と男性に恐怖とドン引きが合わさった表情で凝視していると、男がこちらに気づき、馬を俺の前で止めさせる。



「・・・誰?」


白馬に乗っていたその男は、生気を感じさせない濁った紅い瞳で俺を視界に入れた。
紅い目なんてこの世にあっただろうか。否、そんなことはこの際どうだっていい。

その男は、紅い目を勿論そうだが、何より目を引くのは、その透き通った好き勝手に跳ねる銀色の髪色だった。
目がまったく輝いていないのに、その髪はキラキラと輝いている。
男は、どこか懐かしい中世ヨーロッパのような服を着て居た。
顔が綺麗に整っているのに、目の下にはくっきりと隈が浮かんでいたのを、どこか残念だと感じた。

「名前は?」

男が、口を開いた。
その低いおちついた声は、耳ではなく頭に直接聞こえてくるように思えた。

「・・・高杉、晋助」

なぜか震える口で、自分の名前をなぞる。
男はふぅん、と興味なさそうに呟くと、こんな所でなにやってるの?とまた質問してきた。

「・・・それは、俺も聞きたい。気がついたらここにいたんだ。なんなんだ。此処は。天国か?」

天国。

その単語を言葉にしたら、とても恐ろしくなった。もし男にそうだと肯定されたら、どうしよう。まだ死にたくないのに。

「・・・違うよ。お前、よそ者?どっから来たの?」

「どこって・・・、俺の部屋?」

そう言うと男はまたふぅん、と小さく言い、俺を凝視してきた。
たっぷり俺を凝視したあと、もしかしてさ、と、男が少し楽しそうに俺に問いかけた。


「お前、人間?」










つづ、く、か、ない!

この話の評判しだいでつづく。

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