いろいろ

□夏祭り
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※いつになく高杉さんがハイテンション



「銀時ィ!こっちだ!」

いつもの冷血キャラはどこへ行ったんだ、とツッコミたくなるほどいつになくハイテンションの高杉に人ごみの中大きな声で名前を呼ばれ、俺は苦笑しながら、はいはい、と大人しく着いていった。


今日は、近所で小さな祭りがある。今時誰も拝んでないであろう古ぼけた神社の神様の為の祭りだ。藍色に染まる風景の中点々と並んだ赤い提燈はとても綺麗だが、如何せん数が少ない。屋台は15個ほどしかなく、集まる人数は50人以上100人未満ってところの、本当に小規模の祭りだ。
でも、そんな小規模の祭りも、この俺の恋人兼指名手配犯は大好きらしい。祭り好きも大概にしなけりゃ、いつかしょっ引かれるぞお前、と言ったらヅラに前同じこと言われた、と返ってきた。それからちょっと拗ねた顔で俺も子供じゃねーからわかってるよ、と怒られた。普通に可愛かった。

そんな恋人は、祭りはやっぱ派手に行かなきゃな!と顔の目立つ包帯を外し、(たぶん通報されないようにだろう。かわりに長い左前髪で左目の傷を隠していた)頭には白い狐のお面をかぶり、(狐の目の部分が金色の絵の具で書かれていて、さっき触らしてもらったとき素材が滑らかだったからもしかしたら高級品なのかもしれない。)いつもの倍派手な赤い着物には(これは多分特注で頼んだものだろう)金糸で縫われた金色の金魚が踊っている。そんな高杉の格好は、いつもより色気を倍増させていた。

今日の夜は寝かせらんねェな。
そんな(高杉からしたら)物騒なことを思っていたら、不意に高杉がくるりとこちらを振り返った。やましい事を考えていたので心臓がはねたが、ポーカーフェイスで耐える。

「銀時ィ!次アレ食いテェ!」

笑顔でそう言った高杉が指差していたのは林檎飴の屋台だった。笑顔が輝いている。ほんと祭り好きな、お前。言ってやろうと一瞬思ったけど、子供扱いすんなと怒られるのでやめた。

「ああ〜?林檎飴?俺あんまアレ好きじゃないんだけど」

「誰もテメェが食えなんていってねェよアホ。いいから金」

「高杉、お前、俺が金ないの知ってんだろ?だったらボンボンで金がたんまりあるオメーが買ってこいよ。お前が食うんだし」

「金忘れた」

「・・・・・・。ホラよ」

結局なけなしの金をあげてしまうのは、恋人に対する弱みなのだろうか。ああ、俺の懐に冷たい風がふく。ん、とありがとうの言葉もなく小さい返事をした高杉は、とたとたと林檎飴の屋台へ向かっていった。それを俺は少し離れたところで待つ。はっきり言って、人ごみは嫌いだからだ。そんな俺が、なんでこんな小規模とはいえ、祭りにでたかというと、それは高杉が行きたいと言ったからにほかならない。お前がそんなんだから、高杉が付け上がるのだ、と前ヅラに言われた。うるせぇ、解ってんだよんなこたァ。惚れた弱みってやつだよ言わせんな。

ハァ、と自分自身に溜息を吐き項垂れた瞬間、自分の額になにか冷たくて固いモンがゴツン、と音を立ててあたった。不思議に思い、頭を上げる。高杉の緑色と目が合った。

「なに祭りで溜息なんかついてんだよ、アホ」

そういうと高杉は俺の額に押し付けていたものを今度は俺の手に押し付け、無理矢理握らせた。無理矢理握らされたそれは冷たく、中に入っているビー玉がカロン、音を立てた。所謂、サイダーだ。

「たまたま林檎飴の屋台の隣にそれが在っただけだからな。お前が熱中症で倒れても運ぶのに困るからわざわざ俺が買ってきてやったんだよ感謝しろアホ!」

早口でそうまくし立てた高杉は、パタパタと走って次の屋台へ行ってしまった。


ヤッベェ、超可愛い。


ニヤケそうになる頬を押さえ、慌てて高杉を追いかけた。











「あー、疲れたー・・・。」

あれから数時間俺達は遊びまわり、流石に高杉も疲れたようで、休憩しようと行ってきた。それに俺は大賛成し、古ぼけた大きな鳥居に寄りかかりながら二人で座った。もう、人もまばらになってきた。なんだか、祭りが終わるのは少し寂しい気がする。なんでだかは解らないけど。

「俺達もそろそろ帰っか?」

「んー・・・」

少し嫌そうにぐずる高杉だったが、しかしこれ以上動きたくないらしい。ずっと家に(船に?)引きこもってるから、コイツは絶対に攘夷時代と比べて体力落ちたと思う。

「じゃあ、もう少しここに座ってるか」

「・・・・・・。」

沈黙が流れる。
だがその沈黙は苦ではない。雰囲気が和やかだからだ。高杉も身じろぎ一つしない。高杉に受け入れられていると感じる。でもコイツもしかしたらこのまま落ちるかもしれない。そうなったら残念だが今日の夜のことは諦めておぶって帰らねば。そんなことを思いながら俺はボーっと数十メートル離れた場所にある屋台の光と暗い中ぼうっと浮かぶ提燈を見た。チロチロと光るそれは、人工のものといえど、とても綺麗だった。粋だねぇ、なんて思いながらんーっと背伸びをする。高杉に貰ったサイダーはもう殆どなくなっていたけど、これは一生の宝物にするつもりだ。家に帰って、洗って、飾っておこう。

「銀時ッ」

「へ?え、な、なに?」

急にピクリと動いた高杉に、びくりと跳ねた心臓を押さえ、返事をした。きっと無意識なのだろう、きゅ、と着物の袖を握られた。その仕草にキュンとしながらどうした?ともう一度聞く。

「銀時、あいつら、なんだ?」

「へ?あいつら?」

高杉がピッと指差した先には、若い男女のカップルがくすくす笑いながら俺らが座ってる大きな古ぼけて色もはげかけている鳥居をくぐり、茂みしかないであろう暗い神社の闇の奥のほうへ手を繋ぎながら消えていく。女の髪飾りの音がチリン、となった。

「なんだあれ、闇取引でもすんのか?」

「いや違うでしょ晋ちゃん。あれはー・・・うん、あれだろ」

「? なんだよ」

高杉の不思議そうな返答に知らないんだ、と呟き、なぜか痒くも無い頭をガシガシと掻いた。

「・・・まだ天人がこっちに来る前、こういうとき・・・夏祭りのときに早い話ヤッっちゃおーっつー輩が結構居て、人妻も未成年もだれそれ構わず、ってわけではないと思うけど、この夜だけの、んー、なんつーの?逢瀬?みたいな?祭りのときだけでもお前を抱きたい的な?そーいう感じのみだらな風習があったわけよ。多分今のはその名残の奴らだと思うよ。お前は気づかなかったみたいだけど、ちらほらと闇に消えてくカップルいたし」

「・・・そうなのか」

高杉はそう納得したように呟くと、手を口元にやって考え込むような姿勢をとった。少しの沈黙の後、口を開く。

「・・・なんで、わざわざ祭りの日に、」

「・・・しらね。縁日は無礼講ってやつじゃねーの?」

ちろり、と高杉に目線をやる。

あーあ。やっぱり。

「・・・それ聞いたらヤりたくなった?」

高杉の顔は、見事に発情している顔だった。

「・・・そんなんじゃねーよ。万年発情期」

ぷい、と顔を背けられた。
でも、期待で蕩けきっているのは隠せていない。なんせ、耳までも林檎飴のように赤い。


「俺達もいこっか?」


「・・・・・・アホ」


その言葉を了承ととりにやりと笑って高杉の手を取る。
高杉の手の温度があつい。かーわいーの。


手を引きながら、闇の中へとゆっくり歩いていった。







おわり。

え?此処は全年齢サイトだよ?裏なんてあるわけないじゃない。

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