いろいろ

□心臓は静かに軋んだ
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いろいろ注意



一週間前、3‐Cの坂田銀時というやつが交通事故で死んだ。相手の飲酒運転が原因だったらしい。

それを坂田が死んだ翌日の朝先生から聞かされたとき、ああ、女子が泣くだろうなと思った。

あいつは、その恵まれた容姿のおかげで、とてもモテていたから。

俺はというと、あいつとはクラスも別だし、深い思い出があったわけでもないので、大した衝撃は受けなかった。あいつとは話したことすら、なかった気がする。



・・・、いや。



一度だけ、本当に一度だけ、話したことがあった。

たしか半年以上前の冬の日のことだった。



「アレ?先客がいる」



俺が屋上でサボっていたら、あいつが屋上にきたのだ。
冬だったから、俺は自分以外の人間がこんな寒い屋上にくるとは思えなかったので、少し寒いが、絶好のサボり場を見つけたと喜んでいた時だったから、人が来たことにただ純粋におどろいた。


「まぁいいか。」



坂田はそう呟くと、当たり前のように呆然としている俺の隣に腰を下ろした。


「・・・オイ?」


俺が驚いて声をかけると、坂田は「ん?」と返した。

「お前、なんでこんなところにいるんだよ。授業はどうした?」

「その言葉そっくりそのままお前に返すわ。サボりだよ、サボり。授業なんてめんどくさくてやってらんねぇ」


まぁ、確かにそうだけど・・・。

俺の間抜けな返答を聞くと、坂田はフン、と鼻から息をはいて自分のポケットを探った。出てきたのは煙草で、それを口に咥えたのはいいが、なぜかあいつはそのまま、火をつけなかった。

「なんで火つけねぇんだ?あ、禁煙中か?」

その時坂田から返ってきた言葉で、俺は目を丸くするハメになる。


「あぁ、コレ、煙草じゃなくてシガレットチョコスティックだから」

「・・・は?」

「煙草なんて吸ったら俺の純白の肺がよごれちゃうっしょ?」

あ、兄貴が俺の前でよく吸うからもう純白じゃねーか。そう言った坂田に、俺は笑いを堪えることが出来なかった。


「・・・プッ、」

「え?」

「ふはははは、お前、今時シガレットチョコとか・・・」

「なんで笑うんだよ。おいしいんだぞ、シガレットチョコ」


ホラ、といわれ、次の瞬間には坂田の口の中にあったチョコが、俺の口の中にあった。
坂田が俺の口にチョコを押し込んだのだ。

え、と思う隙もなく、どうだ?と坂田が味の感想を求めてくる。

坂田が咥えていたシガレットチョコは、咥えている部分だけが溶けて細くなっていた。


「甘ェ・・・」

「えっ、嘘、俺若干甘さたんねーと思うんだけど?もしかして高杉甘いモノ嫌い?」

驚く坂田の言葉に、今度は俺が驚いた。

「なんれ俺の名まへ・・・」

チョコで上手くしゃべれない。なんで俺の名前・・・といいたかった。
一回も同じクラスになったこともないし話したこともないのに、なぜ普段あまり学校にもこない俺のことをこいつが知っているのだろうか。

「へっ!?・・・あ〜、まぁ、いろいろと、ね。まぁ名前くらいはわかるっしょ。高杉俺の名前知らないの?」

「おまへの名まへはへん校のひゃつがひってると思ふぞ」

お前の名前は全校の奴がしってると思うぞ。と言ったつもりだったが、通じなかったかもしれない。

「えっ、マジでか俺有名人?」

坂田はよく俺の言葉が通じたものだ。嬉しそうに「じゃあサインとか考えとくかなー」と言い、俺の口からシガレットチョコを出し、また自分の口に咥えた。

なぜか、心臓がなった。




「・・・・・・風、強ェな」

坂田の銀髪が風邪になびく。前髪が風で上に上がりオールバックのようになり、その姿で煙草(シガレットチョコだけど)を吸っている(食べている?)坂田は、顔がいいだけにとても絵になっていた。


「てかさ、高杉寒くない?」

唐突に坂田が聞いてきた。

「へ?」

「実は俺、こんなもの持ってきてるんだよねー」


そういうと坂田は自分の制服の裏地をごそごそと漁った。なにをしているのだろうか。

「あ、あった。これこれ」

「・・・えっ!」

「ほら!ブランケット!」

ばさり、と坂田の言葉とともに出されたブランケットに俺は驚く(今日は驚いてばっかな気がする)その一寸後、さまざまな疑問が頭のなかを駆け巡った。どうやって裏地にはいっていたのだとか、お前の制服は4次元ポケットか、とか、そもそもなんで学校にそんなもの持ってきているんだ、とか。

だが、それらすべては言葉になることが叶わなかった。坂田が、またも俺を驚かせる行動をしたからである。


「ほら、あったかいだろ?」


なんと、そのブランケットで俺の肩と自分の肩を包んだのだ。そのブランケットは少し大きめで、俺と坂田の両肩を難なくつつんだ。

「え、ちょ・・・」

「ん〜、あったけ〜・・・。高杉は?」

「え、まぁ、あったかい、けども・・・」


すごく、緊張した。
ブランケットも暖かかったが、それ以上に密着した体温のほうが熱くて、火傷しそうだった。冬場だというのに、なぜか汗がでそうだった。そして、それが酷く嬉しかった。




坂田と俺の思い出はこのたった一つだけだ。その後俺達は一言二言ポツポツと話しただけでブランケットに包まって屋上から町の景色を見下ろしていたが、チャイムが鳴ったためそれもすぐ終わってしまい、坂田との関係もそれっきりだ。

ただ、廊下とかではよく目に付くようになっていて、声をかけようかどうか迷っていたけども、今はそれも叶わない。

なぜか、涙が一つ流れた。


「えっ・・・、あれ・・・」


拭っても拭っても止め処なく流れてくる涙に驚いた。あいつのことになると、驚きっぱなしだ。




「・・・ふっ、う・・・」









ずっと、好きだったんだ。






心臓は静かに軋んだ




涙は静かに地面に落ちた。






おわり

坂田も実は高杉のことが好きだった。
彼は高杉に一目ぼれ。

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