小説

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シンとした静けさの中。
ヒヤリと寒さが襲ってきて布団のなかで蹲った。











「お嬢様、起きてください。もう朝ですよ。」

聞きなれた声で俺は現実に引き戻された。
と同時にカーテンがシャッと開けられて太陽の眩しすぎる光が俺の瞼を刺激する。
しかも布団も剥ぎ取られた。
あきらかに『お嬢様』と呼んでるやつにするべきでないこの行為。
でも俺の布団をはぎとりやがった奴はなにくわぬ声で続ける。

「起きてくださいってば。・・・それともお嬢様は目覚めのキスがないと起きられませんか?」

「!!?」

その衝撃的な言葉を聞き起き上がろうとした。

でも、遅かった。

唇に重なる柔らかい感触。
ギシリ、とベットが軋む。
キスをしてきた相手の香り。

「・・・・・・。」

「・・・ッ、ン、・・・は、」

名残おさそうに最後にペロリと舌を舐められてその唇は離された。

「さぁ、キスはしましたよお嬢様。起きてください。」

「だれが俺にキスをしろと頼んだ?銀時!!」

ガバリと起き上がり口を手で拭いながら叫ぶ。
そいつは笑いながら俺の布団をもって寝室から出て行った。
二度寝ができないように。

クソ野郎・・・。





高杉家のご令嬢高杉晋助の執事、坂田銀時。
それがこいつの肩書き。

こいつはもとは遠い親戚の子供かなんか。
その親はこいつがまだ12のころ借金背負って死んじまったらしい。
その借金がとても高額で、こいつは俺のとこで執事として働いている。借金返済の為に。
俺はそのときは10歳だった。
父が仕事で海外へ飛び回ってたから家には俺と数人の家政婦、そして執事のコイツしかいなかった。
父は家には基本的に男をいれない。しかも俺を女子高に入らせた為、男をあまり知らない俺は銀時を不服だが好きになってしまった。
告白すればこいつも俺を好きだといってきたからまぁ今は、両思い、で。

そして今日もこいつは元気いっぱいに最悪なアラームで俺を起こしやがりました。






「さぁ、顔を洗って服を着替えてください。あ、タオルはもう洗ったやつを掛けてありますから。それと、服はそこのハンガーに掛かってるやつを着てください。その間に俺は朝食の準備してきますね。因みに今日は和食です。」

朝から早口で銀時にそう伝えられた。銀時はそういうと急いで厨房に向かっていった。
いつもの光景。

俺は朝特有の気だるさに重たい足を引きずりながら欠伸交じりに洗面所へと向かった。


トポポ、と手の中に溜まってく水。
その水がまぁ冬だから当たり前なんだけどすごい冷たい。手が痺れる。その水を顔に持ってって洗えばいやでも目が覚める。

顔を洗った後洗いたてのタオルで顔を拭う。
洗剤のやわらかな香りが漂ってきた。


次は、服。

銀時に用意された服はセンスがよく俺の好みを熟知した服。俺はスカートというものが苦手だからジーンズで、上は毛糸でできた赤というより朱色系の毛糸のセーター。
お嬢様としてはアウトかもしれないが俺は銀時の選んでくれた服が一番生活しやすい。
いまは学校も休みだからだれにも会わないし父は海外だし母はとっくに死んだ。それに今日は家政婦もいない。
だから家にいるのは俺と執事の銀時だけ。
だからこのラフな格好でも全然よかったのだがでも俺は銀時の選んだ服を箪笥にしまい変わりにと白いすこし厚めの冬用のスカートと限りなく白に近いクリーム色の可愛らしいセーターをひっぱりだした。


だって、今日は銀時との月に一度のデートの日。
銀時と一緒に遊べる日なんだ。









「・・・お嬢様。その格好は・・・」

「へ、変、か?」

内心すごいどきどきしながら平気の顔をして銀時の前に顔をだした。
案の定銀時の動きがとまる。
手にはいい具合に焼かれた魚が二つ。
そういえば今日は和食っていってたっけ。

「・・・いえ、とても可愛いですよ。お似合いです。」

しばらくして銀時がクスリと笑いながら答えてきた。そうしてテーブルに魚を二つ置くと俺に向き直る。

「でも、珍しいですね。お嬢様がスカートでお洒落するなんて・・・今日はなにか特別な日なんですか?」

そういって銀時の口元がニヤリとつりあがった。

――コイツ、わかって言ってやがる。

「なッ、なんでもねェよ!!そ、それより銀時こそ、いつもスーツなのにそんな服珍しいじゃねーか!今日なにかあるのか!?」

そう叫びながら俺は銀時の着てる服を指差す。銀時の服はよくテレビや雑誌にでてくる若者がきてるような服。
相変わらずセンスいい。

すると銀時はぐっと俺のほうへより耳に口を近づけてこういった。

「そりゃあ、今日は大事な大事な俺の晋助お嬢様とのデートの日ですから。お洒落せずにはいられもせんよ」

って。

顔!顔が熱くなる。
まるで体の熱が顔に集中したみたいだ。
もう十一月なのに、熱い。


「お嬢様お顔が真っ赤ですよ?」

「うっ、うっさい!!黙れ!」

「ははは。」

恥ずかしくて腕をブンブン振りまわりたら笑われた。

でも、

俺がお洒落してる理由も銀時と同じ。




好きなやつとのデートなんだから、お洒落しなきゃつまらないだろ?










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