小説
□遥様からの頂き物
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『ご覧下さい!月が少しずつですが、欠け始めてきてるのが分かりますでしょうかっ!?』
今夜は皆既月食らしい。
TVのニュースで月食の特集や生中継をしてたから、皆既月食が有る事くらいは知っていた。
でも俺は其処まで興味は無い。
たかが月が欠けるくらいで騒ぎ立てるもんじゃねーだろ?
第一こんな寒ィ中、暖房の効いた部屋から出るのは愚か外に出て鑑賞するなんて…。天文マニアか、とんだ馬鹿しか居ない。
「♪〜」
…其のとんだ馬鹿が今、俺の部屋のキッチンで何か作っている。
「…オイッ銀八」
「んー何?」
「もう飯は食い終わったぜ。なのに何で、また料理をし始めた?」
「其れは勿論、愛しの晋ちゃんと皆既月食を鑑賞する為!月食を肴に先生特製のデザートを食おうなっ♪」
そう云うと馬鹿もとい俺の恋人・銀八は鼻歌を歌いながら、デザートを作るのに視線を手元に戻していた。
そんな簡単に愛しのとか云うな。こっちが恥ずかしい。
俺がそんな事を思っているとは知らず、銀八は着々とデザートのトッピング取り掛かっている。
「出来たっ!」と銀八の声が聞こえた。如何やらデザートのトッピングも終わったらしい。
「晋ちゃん。デザート出来たから、ベランダに出よう?一緒に皆既月食 観よーぜ!」
「…ヤダ」
「何で?皆既月食なんか滅多に観れる代物じゃねーぞ?」
顔を近付けながら「何で?」と云わんばかりに返事を待っている。
実は此の角度からの銀八の表情は貴重である。
「こんな寒ィ中、俺は外に出たかねェ」
期待に反する返事をすれば、銀八は拗ねた表情をする。何時も大人ぶる癖に稀に有る此の表情も貴重だ。
「晋ちゃんって、そんなに寒がりだったか…?」
「知らなかったのか」
「だって付き合い初めて、初の冬だもーん!」
だもーんって語尾を伸ばすな。大の大人が気持ち悪ィ。
「…晋ちゃん、心の声が丸聞こえ」
「あ?そうだったのか?知らなかった」
「知らなかったじゃないの。そんな晋ちゃんには、お仕置きが必要だねっ♪」
……お仕置き!?
「止めろっ!」と云おうと思ったが、銀八の唇により云う事が出来なかった。
いきなり舌が口内に入ってきたもんだから、息が何時もより荒れるのが早くなる。