いろいろ

□Menstruation
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 金ぴかの照明に照らされた神楽が、真っ赤な口紅で塗られた唇を開いた。その手には不釣り合いなゴミ袋が二つ。

「金ちゃーん、このゴミ店の外に捨ててくるヨロシ」

「あのォ〜、店長、俺、ホストであって雑用係じゃねぇんですけど?」

「黙るアル。マフィアに襲われて東京湾にコンクリ詰めにされたくなかったら大人しく行って来るヨロシ」

 酷い脅しだ。ゴミ捨て断ったくれーで俺の一生が終わるんですか! そう叫びたかったし、実際喉の奥までその言葉は込み上げて来たが、その言葉を言ってしまうとマジでコンクリ詰めにされると脳が危険信号を出した為、俺は神楽に言われた通り大人しくそのゴミ袋を持った。普通仮にもナンバーワンホストにゴミ捨てとか要求するか? こういうのは下っ端の仕事だろうがよ。ウチの店長、超短気。両手に花ではなく両手にゴミ袋を持って店の横に捨ててこようと(ゴミ捨て場? 知らねェな。)裏口を使って店からでた俺は、ふと店の横の薄暗い場所に誰かが倒れているのを発見した。

(…なんだアレ、よっぱらいか?)

 かぶき町は欲望の街である。それと同時に犯罪の宝庫でもあるので、朝になると酔っ払いとヤク中毒の奴らがよく往来で寝ていた。だが今は朝じゃねぇし、深夜というほどの夜でもないので、酔っ払いとは考えにくい。大概酔っ払いどもは夜に活動し、深夜から朝にかけてぶっ倒れるのだ。倒れている人物は此処からだと暗くてよく見えないが、もしかしたら具合が悪くなった人とかかも知れない。一般市民として倒れている人が居たら声を掛けるのが普通だろう。ゴミ袋を持ったまま、慎重にその人物に近づく。声掛けたとたん刃物でザクっとやられる可能性があるので、その時はこのゴミ袋を盾にしよう。両手のゴミ袋をぎゅっと握り締めた。

 そして、その人物まであと3歩というところで俺は漸くその人物が誰だか分かった。
「…えっ」

 ぐしゃ、とゴミ袋が落ちたが構わない。俺はその3歩を大またで詰めて、倒れている人物に声を掛けた。その人を間近で見て、俺は自分の予想が当たっていたことに心臓が潰されそうだった。

 白い肌、黒髪、変わった服、刀、包帯。

「晋ちゃん!?」

 ぐったりとしたその人は、俺の現在進行形で片思い中の人であったのだ!

 慌てて彼女の上半身を抱き寄せる。無反応。背筋がぞわっとする。ばくばくと心臓が五月蝿い。晋ちゃん、晋ちゃん、どうしてこんなところに倒れてんの? いつも俺が晋ちゃんに触ったら有無を言わさず殴るじゃん。なんで無反応なの? 混乱する頭に一瞬最悪なことが過り、慌てて晋ちゃんの左胸に耳を近づける。

(……動いてる)

 ほーっと安心して体から力が抜けた。あー、よかったぁって、本当に心の底から思った。脱力した為晋ちゃんのおっきい左胸に俺の頭がむぎゅって押し付けられて、アレ? これセルフパフパフじゃね? なーんて思ったりした。








 とりあえず死んでは居ないけど倒れていたことは確かなので、俺はその場ですぐ晋ちゃんを回収して(念願の晋ちゃんお姫様だっこだよ!)店に戻り神楽に今日は仕事を休む旨を伝えた。今月の給料3分の2カットで許して貰えたよ畜生! 店から出た後、俺は気失っている晋ちゃんを抱っこしたままタクシーを捕まえて、自分のマンションに直行した。タクシー運転手の親父が不審な目を向けてきたが(大方俺が晋ちゃんのこと薬でも飲ませて気失わせて誘拐してるようにでも見えたのだろう。まったく失礼な!)完全無視。タクシーから降りてエレベーターに乗って、最上階へ。ガラス張りのエレベーターから見える夜景は綺麗だった。いつか晋ちゃんと「晋ちゃん、夜景綺麗だね」「そうだな」「でも、晋ちゃんのほうが100倍綺麗だよ」「金時…!」「晋ちゃん…!」とかやりたいなーとか妄想しながら最上階の自分の家へ。お姫様抱っこしたまま鍵を開けるのは少し手こずったけど、なんとかクリアし部屋に入って、晋ちゃんを俺のふかふかのベットに横たわらせて、ふうと一息つく。

 あー、ちょっと手ェ痛いわ。ちょっとっつーかすんげー両手が悲鳴上げてる気がしないでもないけど、晋ちゃんお姫様だっこ出来たんだから全然気にしない。晋ちゃんさえいれば俺の心はいつでもハイテンションだ。

 まだつけてなかった部屋の電気をつけて(そのときに晋ちゃんの愛用の日本刀は玄関に置いておいた。晋ちゃんがふと覚醒しても理不尽に斬られないようにするためだ)漸く明るいところで晋ちゃんの顔を見ると、晋ちゃんは本当に真っ青な顔をしていた。晋ちゃんが寝てるベットの横で立てひざになって晋ちゃんのおでこを触ろうとしたが、包帯に邪魔されたので首元に触る。熱はない。

「…どうしたんだ?」

 晋ちゃんは滅多に苦しそうな顔をしなくて、いつも余裕の表情を浮かべているので、こんな真っ青な晋ちゃんを見るのは初めてだった。ぐぅっ、と晋ちゃんが低い声で呻く。なにかに耐えてるようだ。どうしよう、本当に苦しそうだ。救急車とか、呼んだほうがいいのか?

「…そういえば、着物だけでも脱がしておいたほうがいいよな…?」

 ふとそう気がつき、寝苦しそうな白い着物だけ脱がしてやろうと思った。これは俺の保身の為言っておくが、一切いやらしい気持ちなどない。俺の良心だ。大体白い着物を脱がしたところでまだ、晋ちゃんは黒い服を上下とも身に纏っているんだ。厭らしい気持ちなど、なかった。…このときまでは。

「よっ…と」

 晋ちゃんの細い腰を少し持ち上げて、そのベルトと帯を取った。そのまま次は上半身を持ち上げて、宝石でも取り扱うかのように丁寧に着物だけを脱がせてやる。言っておくが、このときもまだ厭らしい気持ちはなかった。確かにちょっとそのおっぱいをつついてみたりしたけど、それもほんの数秒だった。

 完全に白い着物だけ脱がしてやると(匂い嗅いで晋ちゃんはぁはぁなんてやってない、絶対にだ)それをたたむ過程で、その着物の丁度お尻の部分になにやら赤い点々がついているのを俺は見つけた。

「……なんだコ……、あ」

 そこで俺は瞬間的に悟ったね。なんで晋ちゃんが倒れていたのかとかなんでそんなに苦悶の表情を浮かべているかとか。そういえば晋ちゃんの周期から言って多分今日って二日目だろ? あー、一番多い日に仕事で走り回って貧血になって倒れちゃったんだ。苦しそうなのは生理痛だろ?

「いやぁ、女の子って大変だよね。まぁこれも晋ちゃんが俺の子供を産む為だ。仕方ないよね」

 そうなぜか少し大きい声で独り言を言って、俺は晋ちゃんの着物を洗うべく洗面所へ向かった。ホラ、血って早めに処理しないとなかなか落ちないっていうし。晋ちゃんもお尻に血が付いた着物で帰りたくないだろうしね。いたって普通の俺の良心ですよ。決してもみあらいして晋ちゃんの股からでた血液はぁはぁなんてやろうと思ってませんよー。だって、血……ん?

 ちょっと待てよ、血が服に付いてるってことは漏れてるってことじゃね? あ、じゃあ、もしかして今晋ちゃんが寝てる俺のベット……

「オイオイまじでかー。」

 あわててベッドに戻ってきて失神している晋ちゃんの体を横にずらすと、案の定、俺の高級ベッドの白いシーツには赤い点々が付着していた。

(うっしゃっ! このシーツ保存決定! ………じゃなくて!)

 慌てて思考を元に戻す。生理のときの血って数時間放置するとあそこに悪いって聞いたことがある。つまり、今は晋ちゃんのあそこが大ピンチってワケだ。うーん、イヤラシイね。それは兎も角、血が漏れていることに関してだ。確か、晋ちゃんはナプキン派だった気がする。前万事屋のトイレ漁ったとき露利英がでてきた。(あ、別に漁ろうと思って漁ったわけじゃなくて、トイレットペーパーが切れてそれを探そうとしたときに見つけた代物だかんね)でも、当然だが俺の家にナプキンは勿論、女の生理用品などない。あってローション、コンドームくらいだ。ん、これって女の生理用品なのか? まぁ、女の為の品物であることは間違いない。

「うーん、どーしよ」

 このままだと晋ちゃんのあそこもそうだけど、俺のベットも大ピンチだ。いや、後者は寧ろ嬉しいんだけどさ。数秒考えて、ある結論に至る。

「…よし、露利英買って来よう」

 思い立ったが吉日、俺は寝ている晋ちゃんに「ちょっとお留守番しててねー」と頼み、近くのコンビニへ走っていった。まさか男の俺がナプキンだの買うときが来るとは思わなかったけど、晋ちゃんの為なら寧ろご褒美だね。

(ちょっと待っててね晋ちゃん、数分で戻ってくっから)

 やっべぇ、久々にわくわくしてるわ。






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