ブック(主に連載系)

□1
1ページ/1ページ

そこは暗く、汚い廃寺だった。



第一話



真夜中、月日も眠る丑三つ時。
二つの罵声が暗い中をぎゃんぎゃん飛び交っていた。


「どうしてテメェはいつもそう無鉄砲なんだよ!いつもいつも勝手に行動しやがって!」

血管が切れそうな勢いで叫んでる彼の名を、高杉晋助という。彼は、男でありながら大層な別嬪であった。少々猫ッ毛な髪は真っ黒で、瞳の色は黒、というより濃い緑色に近かった。大人しくしていれば完璧な美人だ。だが対照的に、彼はこの若さで鬼兵隊という義勇軍の総督を務めている強者でもあった。その証に、男であることを忘れさせるほどの白い肌には傷跡が痛々しく残っており、乱暴に巻いてある包帯には血が滲んでいる。


「だーっから、俺は作戦とか、そんなん向いてねーの!戦場で俺の半径3メートル以内に気配があったら迷いなく斬っちまうんだからよ!オメーの言う作戦とやらの言うとおりにして以前何人もの仲間を危うく斬りそうになったことか!」

「てめーは物事を落ち着いて見据えないからそんな事になんだよ馬鹿!仲間斬りやがったら俺がてめーを叩き斬ってやる!」

「こわいこと言うなよ馬鹿!おめーが言うと冗談に聞こえねェよ!」

高杉の言葉に青ざめ叫んでいるもう一人の男は坂田銀時、通称白夜叉である。なぜ彼が白夜叉などと呼ばれているかというと、第一に彼の見た目が原因であろう。真っ白な髪、真っ白な白装束。真っ赤な目は白い中でよけい際立って見え、戦中は敵の返り血を浴び刀を振るう。その姿を見て、いつからか誰かが彼を白夜叉と呼ぶようになったのだ。厳密に言うと、彼の髪の毛は銀色なのだが、それは幼馴染の桂か高杉、戦中仲良くなった坂本しかしらないことだ。なぜかというと、彼は味方にも恐れられ、人がその3人しか寄ってこなかったから。傷だらけの高杉とは対照的に彼には傷一つない。彼は、とても強かった。


そんな彼にはある秘密があった。

実は、彼はもう何年も高杉に恋焦がれているのだ。このことは誰にも言ってない。同性だとか、そんなことは彼の頭の中には微塵も残っていない。ただ、高杉が好きなのだ。だが、彼は生憎想像力と精神年齢が足りなかった。


「大体、なんでお前そこまでうるせーワケ?いいじゃねーか、俺の勝手で。」

「俺は、お前のことを心配してッ!」

「なんで俺が俺より弱いオメーに心配されなきゃならないわけ?貧弱なオメーは仲間がいねーとすぐおっ死ぬのかもしんねーけど、俺は大丈夫なの。だから俺に関わんなよ」

「−−−ッ!」

ぶわわわわッと高杉の目に涙が浮かぶ。彼は、とてもプライドが高く、自分より遅くに剣を習った銀時が自分より強いのが許せないのだ。それが、もともとの力の強さだとか、筋肉のつきやすさが原因だったとしても。銀時はそれを知っていた。知っていてわざと高杉を傷つけた。銀時は悲しい事に、少々変態的な性癖を持ち合わせており、人(特に高杉)の泣きそうな顔や傷ついた顔を見ると、とても嬉しいという危険な思考の持ち主だった。

だが、彼も(白夜叉などと呼ばれているが)鬼ではない。

高杉が走って銀時の前から姿を消した。
銀時はそれを一人で見送る。きっと一人で誰もいないところで泣くのであろう。

「・・・あーあ、またやっちまった」

確かに、高杉の泣きそうな顔は好きだ。だが、その後にそんな自分自身にすごく悲しくなる。

「・・・なんで」

銀時はくしゃりと髪をかき回した。これは困っているときの彼の癖である。

「大好きな人を喜ばすこともできねぇんだよ。俺ァ・・・」

ぽつりと一つ呟き、銀時が反省をしながら寝ようとしたその時だった。




「うわぁぁぁぁ!」



今さっきまで言い合いをしていた愛しい人の悲鳴が聞こえたのである。

その悲鳴は少々大きめのモノで、そこで寝ていた何人かの仲間達も目を覚ました。
勿論銀時も寝ているドコロではなく、瞬時に起き上がると傍に置いておいた刀を引っつかんで声のした方角を睨む。

「総督に、なにが・・・」

心配そうに俺に話しかけたのは確か鬼兵隊のうちの一人の三郎とかいうやつだ。

「わかんねェ。ただ何かはあったんだろ。行ってくる」

「白夜叉!俺も行きます!」

「俺も行きます!」

「うるせェ!お前らがくると敵と間違って斬りそうになるからくんな!いまだ寝こけてるヅラでも起こして来い!」

銀時はそう叫ぶと高杉の悲鳴がした方角へ走り出した。

(確か、声がしたのは倉庫のほうだったはずだ・・・)

倉庫。

倉庫は、刀や武器などをしまっておくところで、少々危険な場所だ。
武器についた血の匂いが満喫し、蜘蛛がところどころに巣を張ってある。銀時は、倉庫が嫌いだった。単純に、怖いから。

「そんな所で泣いてたのかよ、あいつはッ!」

チッと一つ舌打ちをすると、銀時はもう目の前に来ていた倉庫の扉を壊す勢いで開け放った。

「大丈夫か!高杉ッ!」

埃臭い倉庫の中に、人の気配が俺を入れて、ひー、ふー、みー、・・・四つ。その中から俺と高杉を引いて二つ、か。余裕で倒せる・・・、て、え?え?人?天人じゃなくて、

「人・・・?」

「銀時ィィィ!」

「ぐっほっ」

ぼふんっ、と銀時は両目からポロポロ涙を流している高杉に抱きつかれた。急なことに目を白黒させながらも銀時は高杉の安全に安心する。

「よかった、無事だったか。で、なにがあっ」

「銀時銀時銀時!銀時だよな!?本物だよな!?なぁ銀時俺は本物か!?」

「ちょ、おちつけ高杉。どうした?」

意味不明なことを叫ぶ高杉の頭を銀時は撫でてやり落ち着かせようとした。
不思議な事だ。高杉はどんなときもこのように混乱することなどなかったというのに。

「アレッ!アレアレアレ!」

高杉が震えながら暗闇を指差す。銀時はアレェ?と言いながら高杉の指差した方向へ目を凝らした。

そこには、人の気配が二つ。

「・・・え、」

大の大人の男が二人、重なるようにして倒れていた。

「どうして、」

一人は、鏡を見るたび毎回見る顔。憎たらしい天然パーマに、銀色の髪。おまけに紅い目。
もう一人は、毎日毎日、可愛らしいと思いながらみる顔。だと思う。なんせ、まったく雰囲気が違う。だが、真っ黒な髪の色だとか、錆浅葱色の目だとか、そういう根本的な部分は変わっていない。

つまり、なぜだか銀時と高杉以外にもう一人、銀時と高杉が重なるように倒れていたのである。

「・・・見て高杉。過去の俺達が俺等を見てるよ」

「・・・ややこしい事この上ないが、ああ。見てるな」

「・・・な・・・なんだ、お前達?」

「どっぺるげんがー・・・?」




嵐が到来した模様。
どうやらこの物語は、一波乱しそうだ。




続く。

錆浅葱色・・・簡単に言うと高杉の目の色みたいなちょっとくすんだ緑色。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ