BL短編

□古キョン/涼宮ハルヒの憂鬱
2ページ/4ページ





バレンタイン当日。


何事もなく授業を終え、放課後になったわけである。
俺は今日一つもチョコを貰っていない。
つか、貰う気はさらさらない。
アイツにあげる事だけで、頭がいっぱいだ。
谷口は貰えない事に嘆いていたけどな。
五月蝿いから、国木田に慰め役を任せた。

とりあえずいつも通りノック。
朝比奈さんの「はぁい」という声を聞いてから部室に入る。
今いるのは、女子三人だけ。
パソコンいじってるのと、読書に励んでいるやつ、お茶を注いでいる妖精。
妖精からお茶をもらい、しばらくぼーっとしながら飲んでいた。


「遅れて申し訳ございません。」


古泉の登場。
両手に袋を持って。
言わなくても分かると思うが、袋の中は、女の子が愛情とやらを込めて作ったモノが沢山。
そのまま、俺の目の前に座った。
いつもの営業用スマイルで。

「案外重かったんで、持ち運ぶのに手こずりました。」


その瞬間、俺はバカだと思った。
ちょっと浮かれすぎてたんだな。
別に恋人だからってあげる義理はないわけだし…
しかも、アイツ何気嬉しそうじゃんか。


「さすが古泉君、モテるのね。キョン!あんたも見習いなさい!」
「へいへい。」
「ちなみに今日はいくつ貰ったのよ!」
「0」
「やっぱりダメねぇ…」


別にモテなくてもいい。
古泉がいれば…、古泉はやっぱり男だし、女にモテて嬉しいんだよな。


「それにしても、コレ1人で食べきれるの?」
「あぁ、難しいですね。良ければコレ、食べてください。」


ハンサムスマイルのまま、ハルヒに献上する。
なんだ、古泉は俺に見せつけたくてこんな事してんじゃないのか。


「それにしてもたくさん貰っちゃってるわね…まあいいわ。みくるちゃん!有希!準備して!」


ハルヒの号令で2人がカバンを漁り、中からピンクの箱を出してきた。


「あたし達からよっ!予算が無くて2人で1つになっちゃったけど、仲良く食べるのよ!」
「ハッピーバレンタイン」
「ですぅ。」


女子団員達は笑顔でこちらを見ている。
仲良くできるわけないだろう。
野郎2人が仲良くチョコ食ってる絵ヅラを想像してみろ。
そりゃコアなマニアは喜ぶかもしれんが…
いや、俺も喜びたい。
だが、今の空気じゃ話しかける事さえ困難だろ。


「ありがとうございます。」
「サ…サンキュ。」


一応礼は言っておく。


「今日の予定はこれぐらいだから…解散ね!」


この後、機嫌良さそうにハルヒが、よちよちと朝比奈さんが、空気の様に長門が部室を出て行った。

…正直、この部室に2人でいることがキツい…
完全に帰るタイミングを失った。
さっきから古泉は椅子に座り、いつも通りの顔で外を見ていた。
しかも鼻歌まで。
そんなに嬉しいか。

<ヴーヴー…>

どこからか聞こえるバイブの音。
俺は普段、携帯を胸ポケットに入れているから振動が体に伝わるのだが、今回はそれがない。
ということは―――。


「失礼。」


古泉は携帯を取り出し、俺にそう一言告げると、部室を後にした。


「…帰るか。」


デカい独り言。
あいつの癖がうつったのかもな。
取りあえず帰る支度をし、どう帰るか作戦を練る。
多分電話しているのは、部室前の廊下あたり。
だったら、強行突破すればなんとか…。よし、そうしよう。
そうして、俺はドアノブに手をかける。


「あ…そうだ。」


今日の為に作ったチョコ、無駄になっちまった。
家に帰って食うか?
…だったら捨てたほうがマシだ。
俺のプライド的にも。

ゴミ箱の前まで行き、カバンを開け、結構奥の方にある包みに手を伸ばす。
あ、なんか泣きそうだな、俺。
包みを出し、ゴミ箱の上にもっていく。
中にある四角い茶色の塊。
失敗して焦茶色になってるところもある。
今思えばこんなもん食わせるのすら恥ずかしい。
さぁ、手を放そ―――
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ